第17話 奈津の推理
自宅に戻ると、奈津と桜子が案の定来ていた。
「お疲れ!」
まるで自分の家かのようにリビングのソファで寛ぎながら奈津が言った。楓と桜子はキッチンで何やら騒いでいた。キッチンを覗いて帰宅を知らせ、冷蔵庫の冷えたハイビスカスティーを手にリビングへ行った。ニヤニヤしながら奈津が言う。
「流石に、この前の夜は何かあったよね?」
「何でそう思うの?」
奈津は得意げに推理を披露し始めた。
「その1。この前、楓ちゃんは桜子がレイにキスしてるのを見てた。その後、楓ちゃんが泣いてるのを私見ちゃったのよね。その2。今日楓ちゃんに会った時、ちょっと雰囲気違うなって思ったの。満面の笑みっていうの?幸せオーラかしら?って。そして、極め付けその3。こんな話をしてるのに、涼やかな顔してお茶飲んでるなんて!あんたに余裕がある!」
最後を聞いて、思わず咽せた。ニヤリと笑って奈津は身を乗り出した。
「図星でしょ?」
私はため息をついて、奈津を見た。楽しそうな顔を見て、思わず笑いが込み上げてきた。
「...ご名答。」
奈津は勝ち誇ったような表情になり、笑い出した。私達の笑い声を聞いて、キッチンから2人が現れた。
「なになに?何の話?」
楓が横に座ってくる。私は、桜子も座ったのを見て、奈津に笑いながら言った。
「奈津、そんな推理を披露しなくても、奈津と桜子にはちゃんと話すつもりでいたよ。私と楓、付き合いはじめた。」
奈津は満足げに頷き、桜子は目を丸くして、
「ええええええ!マジ?!」
大声で叫んだ。お淑やかなシラフの桜子からは想像ができない叫びだった。
「桜子ちゃんのおかげ、かなあ?」
楓が言うと、桜子は意味がわからないと言った顔をした。
「あんたが酔っ払ってレイに絡むからよ。」
と奈津が桜子に言い、桜子は首を傾げながら言った。
「記憶にございません...。」
「ね、ただの酔っ払い。ただのキス魔って言ったでしょ?」
私の問いに、楓は笑って頷いた。
その夜、私は楓の部屋を訪ねた。休学の話を早めに、きちんと伝えておこうと思った。
「次の学期が終わったら、私はフィールドワークを兼ねてエジプト全土の遺跡を回る予定なの。ついでに、リゾート地とかも含めて、観光地は全部行くつもりでいる。それから...考古学の文献探しや、博物館巡りで、イギリスとフランスにも行くつもりにしてる。」
楓は黙って聞いていた。
「その間、この家は維持しておくつもりだから安心してね。私は月に1度くらいしか、ここには戻らないと思うけど。」
「...え?そんなに帰ってこないの?」
「まだ予定だからわからないけど、多分...。」
「帰ってきたら、出かけるまでは暫く家にいるのよね?」
「数日...1週間弱くらいかな。」
「いつまで、なの?」
「多分1年。まだわからない。」
「そう、なんだ。...うん、わかった。」
意外とあっさり終わり、なんとなく拍子抜けした。安堵したような、少し寂しいような気分になった。
それから数日が過ぎた大晦日の夜。日本のような定番の番組もなく、言ってしまえば何も変わらない日常の1日だったが、カウントダウンパーティーがハードロックカフェで行われることになり、大学の仲間に誘われていた。毎年仲間と騒いでいたから、今年は楓も連れて、と思っていたが、そうもいかなくなった。出かける寸前に楓がとんでもないことを言い出したからだ。
「私も来学期終わったら休学することにした。」
「はぁ?!」
家の中に私の声が響いた。
「な、おま、楓、何言ってんの?休学するって、そのデメリットわかって言ってる?ご両親は?話した?」
「わかってる!もう、親には話して、納得してくれて、許して貰えそうなの!」
「...ご両親に何て説明したのさ?」
「エジプトにいる間にエジプト全部見たい、近い距離にいる間にヨーロッパも行きたいけど、休みの間だけじゃ時間が足りないから、休学したいって言った。」
「それでご両親納得した?エジプト全土の旅行とか、心配したでしょ?安全な国じゃないんだし。」
「うん。でも、女の先輩のフィールドワークに付いて行くから大丈夫って言ったら、納得してくれたから平気。」
無言のままソファに座り込んだ。
「すっごい罪悪感だよ...。」
「どうして?」
「ご両親に、女の先輩って言ったんでしょ。」
「うん。男だと思われたら駄目って言われるってわかってるもの。」
「...その女の先輩と楓がこうなってるとは想像もしていないだろうに...。」
「こういうとき、同性だと便利だよねぇ。」
「そんな、お気楽な...。」
楓のご両親への罪悪感と共に、一緒に過ごせなくなることを覚悟していた分、脱力感と安堵感が押し寄せてきた。
「でね?ちょっとレイに頼みたいことが...」
「何?」
「うちの親がね...連れて行ってもらうんだからちゃんと挨拶したいって。電話したいって言ってるんだけど...。電話してから、休学しても良いか決めるって言われて。」
「えええ...。」
今度は緊張感が襲ってきた。出かける気は完全に失せた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます