第87話 窓

夜、寝ようとしたときに、外から何か音がすることに気づく。


ガリガリ……、ガリガリ……。


壁をひっかくような音で、しかも確実に近い。


もしかしたら、捨て猫でもいるのかしら?


そっと窓を開けて、下を覗きこで見る。


暗くてよく見えないけれど、目を凝らしてしばらく見る。


何もなかった。誰もいなかった。


でも気になったのは、壁に引っかき傷のようなものがある。


前から有ったかしら……?


ベランダにも面していない、腰高の窓。


滅多に開けることもないので、以前からあったかも分からない。


ふと、嫌な予感がして首を上に向けた。


その瞬間、物凄い勢いで何かが落ちていった。風を感じた。


私は、もう下を見ることができなかった。


その日以来、その窓を開けることはない。


そちらは北窓。月が見えない窓。憑きがない窓。


だから誰にも憑かないお化けが、自殺した生前の行為を


くり返す、それを見るための窓だからだ。


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