第8話 雨

「雨が強くなってきたな……」


「これが篠突く雨っていうのでしょうね……。


さっき、ダムが放流するサイレンも鳴ったわね」


「上流はもっと降っているのかもしれないな」


「あなた、川をみてきてよ」


「何で……。嫌だよ、濡れるし……」


「避難所に行くかどうか、判断しないと……」


「市から放送もあるだろ。それまで待てばいいよ」


「どうせこんな雨じゃ、あの女のところにも行けないでしょ。


いいから、見てきてよ」


夫は渋々と立ち上がった。前の話だし、もう謝ったけれど、


こうして度々その話題をだしてくるのに、辟易していた。


家から川まで近いけれど、堤防も高くて、すぐ氾濫する心配もない。


「あなた……どう?」


妻も心配して見に来たので、夫は川を指さして


「まだ溢れるような状況じゃない。水が逆巻いているけど……」


夫はその逆巻く水の中に、悲鳴も残さず消えていった。


つきとばした妻は、携帯電話をかける。


「夫が、川の様子をみにいくといって出ていったきり、


帰ってこないんです」


妻は電話を切ると、微笑んだ。完全犯罪、完了。


「これが死の付く雨よ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る