悪役令嬢の専属メイクさんになったアリスねーさんの話
美浪
第1章 やだぁー!隠し子かしら?!
第1話本業はメイクさんよ
「えーと。豪邸町まで。公園の付近で良いわ。」
タクシーに乗り込み運転手に告げる。
「あれ?この前、テレビに出てたオネェタレントの?!」
だいぶ顔も売れて来たわねぇ。
「うふふ。」
そう微笑んで誤魔化した。
私、本名は有栖川。名前は・・健太郎。これは聞かなかった事に。可愛い名前が良かったわ。
世間一般ではアリスねーさんとかアリスちゃんで通っているわ。
ネット配信動画の「スッピンにしか見えないナチュラルメイク」の技で注目されてから最近はオネェタレント枠でテレビに出たりして稼いでいる。
本業はメイキャップアーティスト。
腕は確かよ。
さて、私のメイク技は自宅にお呼ばれする事が多いのよね。
現場に行く前の女優とか。
スッピンが美しい。そう思われたい女心。解るわぁ。
今日は久々のご指名。大女優の大御所見栄子様。
半年ぶりくらいかしらね。
「ここで、OKよ。」
タクシーを停めてもらい此処からは徒歩。
気遣いが必要。家バレとかメイクによる美貌と思われてもね?
女優はいくつになっても美しく。
私がメイクに通うのも知られるのは不味いわ。
でも、話したくなる乙女心ってやつ?クチコミの力で結構な上お得意様を抱えている。
閑静な住宅街のこの角を曲がった突き当たりっと。
んん?
可笑しいわね?家が違う?
リフォームしたのかしら。前より豪邸になってるし!振り返る!合ってる!
道は間違って居ない。
家の前にスーツ姿の男性が立っている。警備?いや、マネージャーさんっぽいわ。
何時もそんな感じで外でマネージャーさん待ってたから。間違いなしね!
やっぱりあのCMのギャラが億超えって噂は本当だったのかぁ。それで家が更にゴージャスに・・。
家に近付くと解った。このマネージャーさんイケメン!!し・か・も!ハーフかしら?鼻高いし目が綺麗。
いやーん。お友達になりたいわ。
口説きたいのをグッと我慢。
仕事よ仕事。
マネージャーさんに声をかける。
大御所見栄子さんは結構な年齢なんだけどこう呼ばれるのが好きなのよね。
「あの。お嬢様はいらっしゃいますか?朝のメイクを頼まれて来ましたの。」
そう、独身の大御所見栄子さんはお嬢様って今でも呼ぶと喜ぶ。
「え?!あー!お嬢様の。そうでしあか。どうぞ。」
マネージャーは私を知ってか知らずか上から下まで2度見した。
ムッ・・・。こう言うのにも慣れたけど世間一般には私達はまだオカマ扱いなのよね。
全く、イケメンじゃなければ怒る所だったわ。
大御所さんの新居?に入らせて貰うと中は数名のメイドさんがバタバタしていた。
まじー?お手伝いさん増えてる!
本当に儲けてるのねぇ。
しかし、アンティークな感じの内装が本当にお洒落だわ。
て言うかメイドさん外国人ばかりなんだけど。
セキュリティは大丈夫なのかしら。少し心配。
そんな事を思いながら1人のメイドさんに話しかけた。
日本語通じるわよね?
「すみません。お嬢様に呼ばれてメイクをしに来たんです。お部屋はどちらかしら?」
メイドの女性は一瞬首を傾げたけれど。
「あ!そうなんですね!御2階です。お嬢様お待ちですよ。」
と言ってくれた。
案内された2階の部屋。
ノックをするとか細い声で「はい。」とだけ聞こえた。
何か声が?若い気がしたけど。
扉を開けると椅子に座って窓の外を見る女の子?!
朝日に照らされた髪は茶色のサラサラのロングヘアーだ。
色白の少女?いや、もう少し年齢いってる。
制服着てる?!女子高生?!
待って待て待て待てーい!
大御所見栄子さんは独身。でも、此処にいるのは?女子高生。
脳内で思考がグルグル。
わ・・解ってしまったわ!
これは。隠し子!!!!
落ち着けアリス。私はプロなのよ。
狼狽えてちゃいけないわ。
「あの。初めましてぇ。お母様に頼まれて貴女のメイクをしにきたのよ?」
ちょっと様子を伺いながら声をかけた。
「え?!お母様が?」
隠し子確定っすね。
思考回路が男になってたくらいの衝撃を隠しながら私は「そうよ。」と言った。
此方を振り返ったその子は泣いて目を腫らしていた。
鼻も赤くしちゃって。
顔の作りは綺麗なのにぐちゃぐちゃだ。
しかも。この子ハーフだわ。
茶髪は地毛か。
大御所見栄子さんの旦那さん?いや、
元交際相手は外国人って事ね。
「酷い顔ね。泣きすぎよ。さあ、美しくなりましょう。」
大御所さんの娘さんにゆっくり近付いた。
「ごっ。ごめんなさい。」
その子は涙を拭った。
何かあったのね。それで呼ばれたんだわ。
先ずはその泣き腫らした目を冷やしてと。
「私は有栖川よ。アリスねーさんって呼んでね?じゃあ、始めるわよ!」
鏡台に移動して貰いメイク開始!!
目を冷やして腫れを取る。
そして、マッサージクリームをたっぷりと。
「さあ、美顔マッサージ開始するわよ!!」
うーん。お肌ツルツルで綺麗ねぇ。若いって素敵。
少しキツい目元とか見栄子さんに似てる。
見栄子さんは若い頃は悪女役とか演じていたものね。
「さあ。目を開けて。」
そう言うとその子は目を丸くした。
「あっ。腫れがひいてる。」
でしょー?
我ながら流石プロ。
「じゃあ、仕上げ。もっと美しくなりましょうよ。」
ニッコリと鏡越しに微笑んだ。
「ねえ。名前聞いても良い?お母様から伺ってないの。」
下地を塗りながら問いかける。
「グレース。グレース・ベイリー。」
おおっとー!これは父親の苗字を名乗っているのかしら!?
深入りは禁物。
顔に出ない様にニッコリ微笑んだ。
「今日はお母様は?」
「仕事に出たわ。」
そうか。早出の撮影があったのかしらねぇ。
下地完成。綺麗な肌に更に艶が出たわ。
「少し眉カットするわね。」
さて!スッピンにしか見えないナチュラルメイクスタートよ!
「ごめんなさいね。此処からは企業秘密なの。ちょっと鏡は後で見せるわ。」
グレースちゃんの椅子の向きを変えて本格的メイクに取り掛かる。
「ところで、何で泣いてたの?」
そう言うのオネェってついつい気になっちゃうのよね。
「学校で・・・。」
グレースちゃんはそう言った。
「え?イジメ?!」
「違います。今日、学校で裁判があるんです。私が被告人なの。」
ちょっとちょっと!!学校で裁判?
また、驚くことする学校ね。
「私がイジメた側の人間なの。」
うーん?それにしては何か訳ありっぽい。
「話して。スッキリするわよ。」
この子の顔は聞いてほしそうだった。
「・・・・・・。」
「はぁ?婚約者が浮気?浮気相手をイジメたら裁判?何それ可笑しいわよ!!」
全く!!有り得ない話だわ!
プリプリ怒っているとグレースちゃんは悲しそうに俯いた。
「その子、可愛いし。優しくてモテるし。婚約者から声掛けたみたいだし。私がイジメたら彼女を庇ったの。」
うわぁぁぁあ。泣かれる!!折角のメイクが崩れる。
励まさないと!!
「それはね!その女は計算でやってるわ!しおらしくしているだけ!あざといの!」
他人の男を取る女はだいたいそうだわ。
解っていて手を出した。出させる様に仕向ける常套手段。
私が捲し立てるとグレースちゃんはプッと吹き出した。
「そんな事言われたの初めて。うふふふ。私も実はそうかもって思ってた。」
「そうよねー?みんな騙されているのよねー。」
気が合った!!
本当にあざとい女には私も苦労して来た。ノンケと付き合うと必ずこう言う女に取られる。
それからはブツブツと彼女の文句を言い始めた。
どう聞いても計算高い女子確定だ。
グレースちゃんは少し目がキツいから少しタレ目気味が良いわね。
スッピンに見える様にするからにはアイライナーを引きまくりな感じには出来ない。
そこは腕よねぇ。
二重瞼はよりパッチリと。まつ毛は長いけれど透明マスカラでクッキリさせる。
チークは血色は良いけど塗った感じにはさせない。
かなり良い出来だ。
唇にはグロスだけ。
「さあ、完成よ。」
グレースちゃんに鏡を見せた。
「嘘・・・。これが私?」
驚いた顔。
この瞬間が堪らない。
グレースちゃんの美人のちょっとキツめの顔が、更に美しくその中に可愛さが入った感じに変身!
「綺麗よ。じゃあ、髪もいじっちゃおうか?何時もどうしてる?」
「えっと。下ろしてます。」
そうか、何もしてないのね。
どうしたら1番可愛いかしらあ。
ツインテールは子供っぽいかしらね?
やはり彼氏を見返すくらい可愛くよね。
私は少し考えてグレースちゃんの髪を編み込みにする事にした。
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