第149話
人工勇者三人の猛攻を一人でさばき続けるアベルの援護をしながら、上空でカミルとヴェルが話し合い始める。
「あいつら……どうなってるの?傷がすぐに治っちゃうんだけど?」
「わからん。勇者自体にそんな能力はないはずじゃ。これももしかしたら例の禁術とやらなのやもしれんな。」
アベルが傷を負わせても、カミル達が傷を負わせても、あの人工勇者達はすぐに元通りに治ってしまう。これでは埒があかない。
「一瞬で跡形もなく消し飛ばすのが恐らく一番最善手じゃが……魔王様はそれは望まんじゃろうな。」
アベルも恐らくそれはわかっているはず……だから彼女達を一撃で消し飛ばすようなことはしていない。
「じゃあどうするのよ?」
「どうしようかのぉ~……。」
打つ手なし……そんな嫌な思案が彼女達の頭をよぎる。
一方アベルはというと……。
「………………。」
「ほっ!!よっ!!」
勇者達三人の攻撃をかわしながら、アベルはチラチラとノアの方に視線を送る。
ノアは離れたところで、目を閉じ何かを探っている。
「そんな簡単には見つかんないか……。おっと!危ないなぁ~。」
攻撃を後ろに翔んでかわすアベル。その時、勇者の内の一人の視線がノアに向いた。
「っ!!させないよ!!」
その勇者がノアに襲いかかろうとした瞬間、アベルは目の前に立ちはだかる。
「君たちの相手はボクだよ。」
「………………。」
目の前に立ちはだかるアベルを前に、人工勇者達はお互いに顔を見合わせ頷いた。
すると……
「あっ!!」
人工勇者はアベルの前に一人だけ残り、残りの二人はカミル達と、ノアのもとへ分かれて襲いかかって行った。
「ちょ……それはダメっ!!……くっ!!」
「………………。」
急いで追いかけようとするアベルだったが、その前に一人の人工勇者が立ちはだかる。
「む、ヴェル。どうやら妾達も本腰を入れて戦わねばならんようじゃぞ?」
「そのようね。」
向かってくる勇者にカミルとヴェルは構える。
が、対抗手段が無いノアには向かってくる人工勇者をどうこうすることはできない。
そしてきゅっと目を閉じているノアに人工勇者が持つ剣が振り下ろされた、その時……。
バキッ……
「…………っ!?」
「ほっほっほ……邪魔はさせませんぞ?」
人工勇者の脇腹に突然現れたシグルドの回し蹴りがクリーンヒットし、吹き飛んでいく。
「さ、ノア様……ここは私が相手いたしますので、そちらに集中していてください。」
「は、はいっ!!」
そして吹き飛んでいった勇者は服についた土ぼこりを払いながら平然と立ち上がった。
「………………。」
「おや、立ち上がれるのですね?しばらく戦線に赴いていなかったので鈍っているのでしょうか……。」
ぐっ、ぐっ……と手袋を填めた手を握り感覚を確かめていると、そんな彼に人工勇者は容赦なく襲いかかる。
「ほっほっほ、果敢ですな。ですが……やはり先代の勇者に比べると、実力的には劣りますな。」
率直な感想を述べながら、シグルドは勇者の攻撃をかわして攻撃を刻んでいく。
その頃上空では……。
「あんた遅いのねぇ~……。そんなんじゃいつまで経っても私に攻撃なんて当たんないわよ?」
向かってきた人工勇者の周りを残像ができるほどの速度で動き回るヴェル。先程から人工勇者の攻撃は彼女の残像にしか当たっていない。
「遊ばれておるのぉ~……これでは妾の出番はないかもしれんな。」
近くでそれを見ていたカミルはポツリと溢した。しかしそうは言いつつも、いつでもヴェルを助けに入れるようにはしているようだ。
「みんなは大事そうだね。シグルドも来てくれたし……」
みんなの様子を見てアベルは言った。そして目の前に立ちはだかる人工勇者へと視線を向ける。
「ねぇ、みんな分かれちゃったけど……君一人でボクの相手になると思ってる?」
「………………っ!!」
そう問いかけた次の瞬間にはアベルは目の前から消え去る。消え去った彼女を必死に探す人工勇者だったが……。
突然後ろから肩をポンポンと叩かれる。
「~~~っ!?」
思わず後ろを振り返ると人工勇者の頬にアベルの細くしなやかな人差し指が当たる。
アベルは彼女をからかっているのだ。……というのも、先程までは三人の攻撃を一人でさばいていたため、魔法を発動する暇がなかったが……今の相手は一人だけ。魔法を発動する暇なんかいくらでもあった。
故に、今の彼女ではアベルの相手にはならない。
「っ!!」
からかうアベルに向かって剣を振るが、気がつけばすぐに後ろをとられている。
そしてアベルが相手している最中、彼女の周りにカミル達とシグルドが戦っていた人工勇者達が吹き飛ばされてくる。
「あらら……やっぱりね。一人一人は大したことないや。」
そんな時、後方からノアの声がした。
「アベルっ!!その子達の胸から私の力を感じる!!」
「なるほど~?じゃあつまり~……えいっ!!」
おもむろにアベルは相手していた勇者の上着を破り捨てた。そして露となった彼女達の胸部中央には黄色く輝く何かが埋め込まれている。
「うわ……おっき……じゃなかった。これを破壊すれば良いのかな?」
アベルがその胸に埋め込まれていたものを破壊すると、人工勇者はぐったりと地面に倒れ伏した。
「はっは~ん、なるほどね。じゃあ残りの二人も~……行くよ?」
手をわきわきとさせながらアベルは残った二人の勇者へと、歩み寄る。
その時、今まで無表情だった勇者達の表情に初めて恐怖の色が浮かんだという。
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