第134話
ジュンコから人間の国の詳細な地図を入手することもできたので、さぁ帰ろうとした時だった。
「あ、ま……待ってほしいでありんす!!」
私の服をジュンコがぎゅっと握り、引き留められてしまった。
「ん?何か用か?」
「しょ、食事会はいつでありんすか?それだけが聞きたいでありんす!!」
私の腰にすがり付きながらジュンコは言った。
そんな彼女に私はにこやかに微笑みながらこう……答えた。
「
「そ、そんな曖昧じゃ困るでありんすよ~!!もう美味しくない料理を食べるのは嫌でありんす~!!」
ボロボロと涙を流しながらジュンコは、私に向かって訴える。余程この数日間の食生活が効いたらしいな。
「帰るならあちきも連れていってほしいでありんす~。」
うぁぁぁぁ~!!と泣きじゃくりながらジュンコは私にしがみついてくる。
今日はカミルが泣いたり、ジュンコが泣いたりで忙しないな。まったく……
「はぁ……わかった、わかった。」
「連れていってくれるでありんす!?」
「いや、連れていくことはできないが……情報提供をしてくれたお礼にこいつを置いていこう。」
私はインベントリからノノが試作品として作ったプリンを幾つか取り出して、ジュンコの前に置いた。
「青い魔石が埋め込んである、貯蔵庫はあるよな?」
「もちろんあるでありんす。」
「そこでこれを保存して、一日一つずつ食べれば
「つ、つまり本当に後数日の間に開くでありんすね?」
「あぁ、約束する。……あと、それは食後に食べた方がいい。その方が美味しく感じられるだろうからな。」
あと、一応警告もしておくか。
「一応警告しておくが……美味しいからといって一日に何個も食べてしまったら当然追加は無いからすぐになくなるからな?」
「うっ……わ、わかったでありんす。これで我慢するでありんす。」
良し、なんとか納得してくれたか。これから先の数日が良い数日間になるか、悪い数日間になるかは彼女次第だ。
「良し、それじゃあ邪魔したな。」
「またね~ジュンコ~。今度は食事会で会おうね~!!」
「あ…………。」
まだ何かを言いたげだったジュンコを残して、私とアベルは空間の裂け目へと入り、カミルの城へと戻るのだった。
◇
そしてカミルの城へと戻ってきた私達は、早速座標をもとにした空間魔法による転移を試してみることにした。
「えっと……取りあえず人間の国の近くは避けた方がいいよね。だとすると……。」
「この国の中のどこかか、エルフの国周辺といったところか。そして尚且つアベルが行ったことがない場所。」
「難しいなぁ~……でも行ったことがない場所はない訳じゃないなから。この辺とか……この辺とかね。」
アベルは世界地図の幾つかの場所を指差した。あまり多くはないが、一先ずはこれに懸けるしかない。
「まぁやってみないことには始まらないな。早速、やってみよう。」
「うん……えっと、地図で見ると縦がこうで……横がこうだから……ここっ!!」
地図で大方の場所を把握して、アベルは空間を切り裂いた。中に入ってみると……そこには鬱蒼とした森が広がっていた。
「…………ここはどこだ?」
「あはは~……ボクにもわかんないや。やっぱり難しいなぁ~。」
苦笑いを浮かべる彼女に私は問いかけた。
「ちなみにどこを目指そうとしてたんだ?」
「えっとね、サラマンダーが住んでる火山を目指して飛んだんだけど……森に着いちゃった☆」
「なるほどな。……でも案外火山は近かったのかもしれないぞ?」
「え?どういうこと?」
「ここ……ちょっとだが火山灰が積もってる。それに気温が明らかに高い。意外と近くに飛んでこれたのかもな。」
例えばその火山の麓の山とかに飛んできたのかもしれない。だとすれば結構いい線いってると思うんだけどな。
辺りの様子からそう考察していると
「グルルルル……」
「ん?」
鬱蒼とした森の至るところから赤く光る目が幾つもこちらを見つめていた。
「あ~……ボルフか。ってことはやっぱり、火山に近いんだねここ!!」
周りで私達のことをじっと睨み付けている魔物の正体を暴き、喜んでいるアベルに私はたじたじとしながら言った。
「喜んでる場合なのか?明らかに襲ってくる気満々なんだが……」
「う~ん、まぁそうみたいだね~。でもまぁ……ボクの相手にはならないから大丈夫~。」
あはは~とこちらに笑いかけるアベルの後ろからボルフという魔物が牙を剥き出しにして襲いかかる。
「っ!!アベルッ後ろだ!!」
「わかってるって~……ほっ!!」
アベルが軽く後ろに向かって放った裏拳は正確に魔物を捉えた。その魔物は何本もの木を薙ぎ倒しながら遥か彼方まで吹き飛んでいってしまう。
「あはっ♪軽~くやったつもりなんだけど随分飛んだね。う~ん一匹ずつ相手するの面倒だし……ちょっとだけ魔法使っちゃおっかな~。」
そしておもむろにアベルが手を凪ぎ払うと、辺りからザクザクと何かが切れる音が聞こえ、それが止む頃には私達の周りに魔物は一匹も居なかった。
「これでよし!!さ、次行こ~!!」
アベルにぐいっと手を引かれ、私はまたカミルの城へと戻る。そして何度も座標をもとに転移する練習に付き合わされたのだった。
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