第106話
あろうことか、私達が追っていたベネノボアはすでにアベルの手によって討伐されていた。
「なんでアベルがここに?」
「ん~、なんでって言われたら~。悪さをしたこの子を懲らしめるため……かなっ?」
まさかと思うが、荷車が襲われたということを聞いてわざわざここまで討伐しに来たのか!?
「最近多いんだよね~。商会の荷車が襲われたり~、こういう街道で魔物に襲われたり~って忙しくて仕方ないよ。」
苦笑いを浮かべながらアベルは言った。
「それでさ、ミノル達はここに何しに来たの?もしかして君達もこの子に用があったとか?」
「あ~……実はだな。」
私はカミル達と共にここまで来た経緯をアベルに話すと、彼女は納得したように頷いた。
「なるほどね、じゃあこの子の事を襲われてダメになった肉の代わりにしよう……って魂胆だったんだ。」
「そういうことだ。」
「でも残念だけど……この子全身に毒があるよ?食べたら死んじゃう位とびっきり強いのがね。」
「「え゛……。」」
爽やかな笑顔でアベルが言い放った言葉に、カミルとヴェルの二人は絶望したような表情を浮かべた。
「味は美味しいらしいんだけどね~。食べた人は皆死んじゃうから……止めといたら?」
まるで河豚の肝みたいなものだな。河豚の肝にはテトロドトキシンという毒が含まれていて、食べたら100%死んでしまうのだが……過去に何人かその魅力に惹かれて食し、死んでいったのを私は知っている。その人達は皆一様に「美味しい。」と言って死んでいったらしいがな。
「うぅぅ~~~っ!!ここまで来て無駄足だったのじゃ~。まさか食えない魔物とは知らなかったのじゃ~。」
「聞いたことがない魔物だとは思っていたけど……まさか毒があるなんてね~。」
がっくりと二人は肩を落とす。そんな二人にアベルが声をかけた。
「まぁ二人が知らないのも無理はないよ。ここ最近突然変異でいろんな魔物が増えたからね~。この子もそのうちの一匹。よくこうやって荷車とかを襲ったりしてるから商人の間では最近有名なんだけど……。」
「くぅ~……こんなに美味そうに丸々と太っておるのに毒があるとは……つくづく罪な魔物じゃな。」
カミルが残念そうに指を加えてベネノボアの方を眺めている時、私はあることを思い付いた。
…………もしかして抽出の魔法を使えば、毒素だけを抜き取れたりしないかな?それができれば、食べられるようになると思うんだが。
「アベルはこいつをこれからどうするつもりなんだ?」
「ん~、一先ず跡形もなく燃やすつもりだったけど?」
「じゃあその前に一つ試したいことがあるんだが……いいか?うまくいけばこいつを無毒化できるかもしれない。」
「えっ!?どうやって?」
私はベネノボアのお腹に手を当ててポツリと呟く。
「抽出……毒素。」
そう呟いた途端に私の手のひらの上に、紫色で毒毒しい液体がベネノボアから抽出されてくる。やはり思った通り、毒素をも抽出できるらしい。ならこのまま全て抽出してしまおう。
そして毒素を抽出していると、私の横からひょっこりとアベルが顔を出した。
「ふぇ~……面白そうな魔法使ってるね。」
「あぁ、これか?アベルだって使えるんじゃないか?」
「ん~、ちょっと無理かな~。だってそれこの世界の魔法じゃないし。」
アベルの言葉に私は違和感を覚えた。
「この世界の魔法じゃない?じゃあなんだって言うんだ?」
「そりゃあ君がもといた世界で、もともと取得していた魔法だろうね。」
「少なくとも私がいた世界に魔法なんてものは存在してなかったが……。」
「多分それはミノル達が魔法の使用を制限されてたんだろうね。覚えているのに使えない……そんな世界だったんじゃないかな?されがこっちに来て制限が解除されて使えるようになった。……まぁそんなところかな。」
「じゃあ私が他に覚えているインベントリや鑑定は……。」
「あぁ、それはこっちの世界の魔法だね。間違いないよ。」
ふむ、アベルが言っていることが真実ならばもしかすると私はまだ他に魔法を既に覚えている可能性があるってことか。どのタイミングでそれを使えるようになるのかはわからないが……。まぁそれは気長に待つとしよう。
そして私は抽出を終えた毒素を瓶にしまう。そのまま辺りに捨てるわけにもいかないからな。
「これで良し……多分無毒化されているはずだ。」
「じゃあボクが確認してあげるよ~。鑑定っ!!」
鑑定という掛け声とともに、アベルはまじまじとべネノボアの方を眺め始めた。しばらくすると、一つ大きく頷いた。
「うん!!問題ないね、完全に無毒化されてるよ。これなら全然食べられると思う。」
「なら今日の飯はこいつを使ってぼたん鍋でもやるか。」
本来なら味噌を使って鍋地を作るんだが……今回は無いから醤油とかで代用しよう。
食べられる肉を手に入れたことで大喜びするカミル達。一度期待が地の底まで落とされただけあって、今の喜びは大きいらしいな。
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