第90話
腹ペコらしいカミルに無理矢理エルフの国から帰国させられ、いつもの城が見えてくると、そこには目を疑うような光景が広がっていた。
「なん……だ、あれ。」
中庭におびただしい数の魔物が積み重なり山を作っているのだ。
「むっふっふ~驚いたかの?いや~お主らが居なくなると途端に暇でのぉ~。せっかくじゃから一つ興を催したのじゃ。」
「……状況から察するに、誰が一番多く魔物を狩ってこれるかを競ったんじゃないのか?」
「おぉ!!正解じゃ。ちなみにこの勝負は妾の一人勝ちじゃ!!褒美はもちろんミノルッ!お主の料理じゃ。
なるほど……つまり私とノノがエルフの国に行っている間にそんな賭けをしていたというわけか。てか絶対お腹が減った原因ってこれだよな!?
なにかこう……やるせないような気持ちになりながらもカミルに中庭に下ろして貰うと、城の中からヴェルとマームがこちらに向かって走ってきた。
「ミノル、お帰り。見て……この魔物、私が一番多く狩ってきた。」
ん?
私はマームの言葉に違和感を感じた。さっき、カミルが自分の勝利を語っていたからだ。
「ちょっと!!マーム、嘘はいけないわよ?一番多く狩ったのはこの私よ!!」
ん?
ヴェルがマームに向かって言ったその言葉に、私の中の違和感が増大していく。ノノも何がなんだかわからないといった様子で首を常に傾げている。
そんな中……言い争いを繰り広げているヴェルとマームの間に入るものが一人。
「お主ら!!嘘を言い合うのもいい加減にするのじゃ!!一番多く魔物を狩ったのは
二人の前でめいいっぱい体を広げ威張りながらカミルは言った。そんな彼女の方をヴェルとマームの二人は振り返り、怒気を含んだ声を発した。
「「あ゛?」」
「お?なんじゃ?
辺りに不穏な空気が流れ始めると同時に、カミルの周りに炎が漂い始め、突然この辺一帯を吹き抜ける風が強くなり、上空にはおびただしい数のマームの配下の蜂が集まり始めた。
「あぅ~……お師さま~。」
そんな三人の様子が怖かったのか、ノノは私の服の袖をぎゅっと握り、ふるふると体を震わせていた。
「はぁ……大丈夫だ。ノノ、昨日渡した本の白紙の一ページを破いて私にくれないか?」
「え?は……はいです!!」
丁寧にページを破き、ノノは私に白紙のページを手渡してくれた。そのページに私はある言葉を記していると……。
「場所を移すのじゃ。ちょうど良い場所を知っておる。着いてくるのじゃ!!」
「良いわよ?ここじゃミノルに怪我させちゃうかもしれないしね。」
「私も……それでいい。早く行く。」
決戦の場所を移すため三人はどこかへと凄い勢いで飛び去っていった。
「はぁ……全く、この魔物どうするんだよ。」
目の前に高く積み重ねられた魔物の死体の山を見て私は大きくため息を吐いた。
明らかに今日一日や二日程度で食べきれるような量ではない。それに何匹か食べられるのかさえ怪しいやつまでいる。
「流石にこの量を解体するってなったら……丸一日、いやもっとかかるな。」
止まらないため息を吐きつつ頭を抱えていると、ポン……と後ろから肩を叩かれた。
「ん?」
「やぁ!困ってるみたいだね。」
私の肩を叩いたのはアベルだった。どうやら今日の魔王としての業務を終えてご飯を食べに来たようだ。
「カミル達がさっき、どっかに飛び去ったのは見たけど……これと何か関わりがありそうだね?」
「あぁ、ちょっとな。まぁあっちのことは大丈夫だと思う。問題はこの魔物の山なんだ。」
「ん~……じゃあこれ、ボクに任せてみない?お金に変えてあげるよ。」
「いいのか?」
こっちとしては願ってもない申し出だが……。
「いいよ~、毎日美味しいの食べさせてもらってるし?それじゃ……シグルド~?」
「はい、こちらに。」
アベルがシグルドの名を呼ぶと、影からヌッ……とシグルドか姿を現した。
「これ、全部売ってきて。」
「畏まりました。」
シグルドがパチンと指を鳴らすと、目の前の魔物の山が一瞬にして消えてなくなる。それと同時にシグルドの姿もどこかへと消えた。
「これで後はちょっと待ってればシグルドがあれを全部お金に変えて来てくれるよ。」
「すまない、助かるよ。」
「い~の、い~の~……いつものお礼だからね。それよりも~、今日もエルフの国に行ってたみたいだけど……何か収穫はあった?」
私の動向はお見通しというわけか。
「まぁ、収穫はあった。それに幾つかもう作る料理にも目処が着いたよ。」
「へぇ、いいね!じゃあそこのところ中でご飯でも食べながら聞かせてくれる?」
「あぁ、もちろんだ。……っとその前に。」
私はさっきノノにもらったページの切れ端を持ってピッピのもとへと向かった。
「ピッピ、カミル達が帰ってきたらこれを渡してくれるか?」
「ピィ~ッ!!」
そして私はピッピにあるものを書き記した紙を手渡し、城の中へと戻りアベルとノノに料理を振る舞った。
◇
そして夜が深まってくる頃……。ボロボロになったカミル達が覚束ない足取りで城へと帰ってきた。
「うぐぐ……今日のところは引き分けにしておいてやるのじゃ。」
「そ、そうね……私ももうこれ以上動けないわ。」
「賛……成。もう疲れた。」
そんな三人のもとへ勢い良くピッピが駆け寄っていく。その口には一枚の紙が咥えられていた。
「む?ピッピではないか……。」
「ピィ~ッ!!」
三人の前にピッピはその紙を置くと再びモーモーのもとへと戻っていく。
「この紙はなんじゃ?」
おもむろにその紙を手に取り中身を見たカミルは表情を凍りつかせた。
そしてカミルの手元から地面へとヒラヒラと落ちたその紙をヴェルは拾い上げ、マームとともに目を通すと二人もカミル同様に表情を凍りつかせる。
それもそのはずで……その紙にはこんなことが書いてあった。
『私の世界には
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