第88話

 ピッピに連れて行かれた先にはモーモーがいた。そしてそのお腹の部分に見慣れた丸い形状をしたものがあった。


「これは……まさかお前の卵か?」


「ピッ!!」


 確信を得るためにピッピにそう問いかけると、片方の羽を大きく上げながら大きく頷いた。


「……恋人は?」


「ピィ~……。」


 新たなる可能性を確かめるためにピッピにそう問いかけるとピッピは首を横に振った。ということはこいつは無精卵ってことになるな。


「お前はこれをどうしてほしいんだ?」


 さらにそう問いかけると、ピッピはその卵を羽で器用に抱えて私に差し出してきた。


「託すってことでいいのか?」


「ピッ!!」


「……わかった。」


 ピッピからその大きな卵を受け取るとほんのりと暖かい……さっきまでモーモーが温めてくれていたからだろう。

 私はそれを優しくインベントリへとしまうと、ポン……とピッピの頭の上に手を置いた。


「頑張ったな……この卵はありがたく貰うよ。」


 優しく頑張りを讃えるように私はピッピの頭を撫でる。そんな最中ふと思ったことがある。


 ……てかさりげなく受け取ったけど、いくらなんでも卵産むまでが早すぎないか?いや、確かに成長するのも早かったけど……まさかこんな短期間で卵を産むまでに至るとは、もう驚愕の一言に尽きるな。

 弱肉強食の世界で生きる魔物だからこそ……成長が早いのかもしれない。


 カミル達が風呂から上がってくるまでのしばらくの間、私はピッピとモーモーと戯れるのだった。


 そして遊び疲れ、ふさふさの草の上にゴロン……とピッピ達と寝転がっていると、突然私の顔の上にひょっこりとカミルの顔が現れた。


「ミノル上がったのじゃ!!」


 カミルの顔が現れたの思うと、ヴェルやマーム、アベル、そしてノノも私のことをぐるりと囲むように顔を覗き込んできた。


「ほれほれ、早く蜂蜜牛乳を飲ませるのじゃ!!」


「体ぽかぽかの内に早く……早く。」


 グイグイとカミルとマームの二人に引っ張りあげられ、私は厨房の方へと引きずられていく。


「あははっ!ミノルも大変そうだね~。」


「いつものことよ~。アベルが来る前もミノルはあぁやって引きずり回されてたんだから。……さっ?私達も行きましょ?」


「はいっ!!」


 クスクスと微笑みながらヴェル達は、カミル達に引きずられていくミノルのことを眺めていた。


 そして今日もまた賑やかな一日が過ぎていくのだった……。











 その次の日……私はノノと共に再びエルフの国を訪れていた。カミル達はどうしたのかというと「退屈になるぞ?」と私から聞いた瞬間に城でお留守番をしていることを決めてしまった。まぁ、ここまでは運んでもらったんだけどな。

 森に近付くと、昨日私達を案内してくれたエルフの女性が私達の前に現れた。

 彼女に用件を伝えると、快く承諾してくれた。


「用件はわかりました……では私が護衛として付き添いましょう。」


「ありがとう、助かる。」


「礼を言われる程のことではございません。それに妖精王様からあなた方にはできる限り協力するように仰せつかってますので……。」


 ほぅ?ということは裏でアルマスが私が動きやすいように手配してくれていた……ということか。どうやら私がまたここに来ることを予想していたようだな。流石は300歳……先を読む力はずば抜けている。


「それではまずどこから参りましょう?この森は広大ですので全て見て回るのはかなり時間がかかります。何せ国土の8割を占めていますからね。なので、行く場所を予め決めておいた方が良いかと思います。」


「なるほどな。」


 あまり時間をかけるとカミル達に後々問い詰められそうだからな。彼女の言うとおり、行く場所を予め決めた方がいいかもしれない。

 何期限まではまだまだ時間はある。それまでじっくりとやろう。


「じゃあ……行く前に質問なんだが……。」


「なんでしょう?」


「例えば誕生日……とかのお祝いの席ではエルフは何を食べるんだ?肉や魚は食べないと聞いているんだが……。」


「そうですね。私達エルフは基本肉や魚のような生物は食しません。なのであればお祝いの席では貴重なキノコや果物などを食します。」


「ほぅ?貴重なキノコ……か。どんなキノコなんだ?」


「聖霊達の拠り所になっている霊木の根本に生えるキノコなんです。」


 聖霊達の拠り所になっている霊木?昨日も同じ言葉を聞いたな……もしかして昨日デザートに食べた霊樹果と同じような代物じゃないか?

 私は彼女の後ろについていきながら問いかけてみることにした。


「……もしかしてなんだが、その霊木に霊樹果って果物も実ってるんじゃないか?」


「良くご存じですね?その通りです。」


 やはりそうだったか……。にしても木の下に生えるキノコ…ねぇ。なんか松茸みたいな感じだな。松茸は赤松の木の下にしか生えない高級キノコだ。日本だとかなり有名だな。


 お祝いの席で食べられる……というのなら今回アルマスに捧げる料理に取り入れてもいいだろう。後は味次第だな。松茸やポルチーニ茸のように香り高く美味しいならいいが……。

 と、そんなことを思っていると……。


「見えてきましたよ。あれが霊木です。」


「もう着いたのか!?」


「はい、最短距離を歩いてきましたので……そしてあの根本に生えているキノコが霊樹茸です。」


 彼女に指差された方を眺めてみると、そこには一際青々として少し神々しさを感じるような一本の木があった。その木には金色に輝く実が幾つか実っている。そして根本の方を見てみるとあちこちの土がぽっこりと盛り上がっているのが確認できる。


「……近付いてみてもいいか?」


「もちろんどうぞ?ただ、聖霊達を怒らせないように気を付けてくださいね?」


「あぁ、わかった。」


 私はノノの手を引いて霊木の方へとゆっくりと歩みを進めるのだった。

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