第75話


「ようこそ、私達エルフの国へ。」


「ここが……エルフの国。」


 エルフの国の建物はどうやら全て木造建築のようで、こう……なんというか。自然の中で生きている人達というのを感じさせられる。

 そして奥には堂々とそびえ立つ巨大な世界樹。以前カミルから聞いた話では、あの世界樹に咲く花はどんな病でも治すことのできる薬になるのだとか……。

 

 初めて足を運んだエルフの国の街並みを眺めていると、奥に見える世界樹の方から一人のエルフがこちらに歩いてきているのが目に入った。そのエルフが近付いてくると、私達をここまで案内してくれたエルフの女性はそちらの方を向いて跪いた。


「やぁ、良く来てくれたね。僕はアルマス……一応この国、エルフの国を束ねている者だよ。」


 こちらに近づいてきたエルフの男性はアルマスと名乗り、エルフの国を束ねている……つまり王だと言った。


「先日は僕の友人のシルフを助けてくれてありがとう。……ほら、シルフもお礼を言いなさい?」


 アルマスが謝礼の言葉を述べて、シルフの名を呼ぶと、彼の背中からひょっこりとシルフが顔を出し、少し顔を赤らめながら言った。


「あ、そ、その……オイラを助けてくれてありがとう。本当に感謝してるんだナ。」


「ふふ……っと、さてそれじゃあ立ち話もなんだから、僕の屋敷に行こうか?僕も君達の事を知りたいし……ね?」


 にこりと私の方を向いて笑いかけてきたアルマス。その笑顔から私は何も彼の思っていることを読み取ることができなかった。魔王のアベルに初めて会ったときの事を思い出させるような、何を考えているのかわからない不敵な笑み。これがというものなのだろうか。


「警戒……しているね?別に君達の事をとって食べようって訳じゃない。それに僕なんかの力じゃそちらの五龍の方々にはとても敵わないからね。」


 私から視線を移し、カミルとヴェルの方を向いてアルマスは言った。そしてクルリと踵を返すと……ゆっくりと世界樹までの方に歩き始めた。

 彼が歩き始めたのを見て、私はチラリと隣にいるカミルに視線を向けた。すると、私の意思を読み取ったようにカミルは言った。


「……まぁ着いていくしかないのぉ。」


「だよな……。」


 私達はアルマスに導かれるがまま、世界樹の方へと歩みを進めるのだった。


 そして世界樹の根本まで来ると、そこにはポツン……と一軒の大きな屋敷があった。


「ここが僕の屋敷だよ。……まぁ、エルフの王は皆ここに住むことになってるってだけなんだけど。ささ、入って入って……。」


 アルマスに肩に手をかけられ、半ば強引に中に入るように勧められる。

 中に入ると……メイド服のようなフリフリの服を着た小さな妖精がいた。


「あ!!妖精王様、おかえりなさいです。」


「あぁ、ただいま。ミル、お客人にお茶を淹れてくれるかい?」


「かしこまりましたです!」


 その妖精はペコリと可愛らしくお辞儀をすると、パタパタとその妖精は屋敷の奥へと駆けていった。

 良く周りを見てみるとそこかしこにメイド服を着た小さな妖精が何人もいる。そして私が妖精達を見ていることに気が付いたアルマスが言った。


「あの子達は本当にむか~しからこの屋敷の管理をしてくれる妖精達だよ。ちなみに僕より長生きしてるね。僕今年で300歳だけど……。」


 苦笑いしながらアルマスは言った。


 今確かに300歳……って言ったよな!?あれか?エルフは長寿なのか!?いや、それよりもあの妖精達はアルマスよりももっと長生きしてるって……いったいどれだけの年月を生きてるんだ?


 とんでもない数字に驚いていると、カミルが言った。


「エルフといい、妖精といい長寿じゃからな。先代の妖精王はもっと歳をくっておったぞ?」


「そうですね。先代は私の父なので……今だいたい……500か600歳ぐらいかな?」


「む?なんじゃ、お主あやつの息子か。通りで、輪郭が似ておるの思ったのじゃ。」


「ははは!良く言われます。」


 カミルは確か、先代のエルフの王とは面識があるって言ってたよな。だからアルマスと、その先代が似ていることに気が付いていたようだ。


「あやつは息災か?」


「えぇ、今は母と森の奥でゆっくりと隠居生活してますよ。」


「そうか。」


 そんな他愛のない会話をアルマスとカミルがしていると、さっき奥に駆けていった妖精がこちらに戻ってきた。


「妖精王様!準備できましたです!」


「おぉ、ありがとう。……それじゃあ行きましょうか。」


 アルマスの案内のもと、私達は客室へと迎え入れられた。そして向かい合うように席につくと、アルマスが口を開いた。


「ふぅ……それでは改めて、この度は本当にありがとうございました。」


「良い良い。……それよりも、じゃ。今日は1つ聞きたいことがあっての。」


 そうカミルが話を切り出すと、アルマスは耳をピクンと動かし反応する。


「……それは、なぜ僕が彼の事を人間だと知っているか。ということですか?」


「わかっておるのなら話が早い。妾達が予想したのは、そこのチビすけがお主に話したと思ったのじゃが……合っておるか?」


「間違いないですよ。シルフが僕に教えてくれたんです。カミルさんの下になにやら美味しい料理を作る人間がいる……と。」


 アルマスはこちらに視線を向けてくる。


「やはりな。」


「実は何日か前に魔王から手紙が届きましてね。内容は人間を探しているというもので……。」


「……それで魔王様にミノルの存在を教えたというわけか。」


「そういうことです。彼がここにいるってことは、どうやら魔王が探している人間とはまた違ったみたいですね。……ちなみになぜカミルさんが彼と一緒にいるか教えてもらっても?」


「それについては秘密じゃ。」


「ふふ、そうですか。」


 何かを察したように笑いながらも、アルマスはそれ以上の詮索はしなかった。


「さて、ではそろそろ本題に入りましょうか。今回シルフを助けてくれた……ということに酬いる形で、何か御返しをさせてもらいたいのですが、何か欲しいものとかはありませんか?」


 ……褒美をとらせるって訳か。とはいっても欲しいものなんて特には無いし、カミルに任せるか。

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