第38話
厨房へと足を運んだ私は早速カミル達のお菓子を作るために準備を始めた。
「さて……先ずは卵を割るところからだな。」
今回作るぷるっぷるでとろっとろのお菓子はプリンだ。使う材料も少なく、手軽に作れて尚且つ美味しい。それがこのプリンの魅力だろう。
「全卵1に対して卵黄を2の割合で卵液を混ぜて……そこに牛乳と蜂蜜を入れる。」
今回全卵1に対して卵黄を2の割合で卵液を作る理由は、蜂蜜を使うからだ。蜂蜜にはたんぱく質分解酵素という、卵の黄身などに含まれるたんぱく質が固まるのを阻害する働きを持つ酵素が含まれている。
故に少し多く卵黄を入れなければ固まらないことがあるのだ。
「しっかりと混ぜて目の細かい裏漉し器で裏漉せばプリン液の完成だ。」
次は……カラメルを作るとしようか。
意外と知られていないが、砂糖ではなく蜂蜜でもカラメルは作ることができる。砂糖でカラメルを作るときと同様に、鍋に蜂蜜を入れて火にかけ続ければ蜂蜜カラメルができるのだ。
蜂蜜でカラメルを作ることができたら型に流し込み、その上から先ほど作ったプリン液を重ねるように流し込む。
そして最後、蒸す前にプリン液の上に浮いている小さい泡を取り除いたら下準備は終了だ。
「天板にプリン液を流し込んだ型を並べて、水を張る。後はオーブンで蒸し焼きだ。」
150℃に余熱したオーブンで30分程度加熱してやれば固まるだろう。
後は待つのみ……となったので洗い物をしながらカミル達の方にチラリと目を向けてみると。こんな声が聞こえてきた。
「むふふふふ~……ぷるっぷるでとろっとろ……楽しみなのじゃ~。」
「ね~?どんな物なのか想像もつかないわ。」
カミルはにやけ面しながら、今にも口元からよだれがポタリと垂れそうになっている。一方のヴェルは平静を装ってはいるものの、やはり待ちきれないのか少しそわそわしている。
これは二人がプリンを食べたときの反応が楽しみだ。多分、クッキーよりも気に入ってくれると思うんだがな。
……そうだ。プリンかできるのを待つ間に、少しヴェルにこの世界の料理のことについて聞いてみるか。
「なぁ、ヴェル……」
「できたのかしら!?」
私が話しかけると、目を輝かせながらヴェルはこちらを振り向いた。
「あ、いや……もう少しかかる。」
「そ……そう、で?何か用かしら?」
少し残念そうにうつむいた彼女は、私に用件を問いかけてくる。
「ヴェルは私以外が作った料理ってやつを食べたことがあるんだよな?」
「うん、あるわ。……といっても料理っていう料理を食べたのは魔王様の城に召集された時だけかしら。それがどうかしたの?」
「いやな、私は自分以外の料理人が作った料理を見たことがなくてな。差し支えなかったらどんな料理があったのか教えて欲しいんだが……。」
「あぁ~……そういうことね。」
私の説明に納得したようにヴェルは頷いた。
「あの時は確か……豚の丸焼きと、生の野菜と、果物の盛り合わせだったかしら。」
「ふむ、豚の丸焼きは……どんな味がついていた?それと生野菜には何かかかってたか?」
「豚の丸焼きはすんごいしょっぱかったのを覚えてるわ。野菜には何も……本当にそのままだったわね。魔王様の前だったから我慢して食べたけど……。」
「なるほど?」
……今までは憶測の域を出なかったことが、今確信に変わった。適切な調理器具や調味料などがあるにも関わらず、
魔王何て魔族の中で一番偉い人がいる城で出される料理がそれならばなおのこと遅れているのだろう。
「だからミノル、貴方が作ったハンバーグってやつを食べたときはホントビックリしたのよ?美味しすぎてね。」
「むっふっふ、魔王様御抱えの料理人とやらよりも妾の御抱えのミノルの方が優れておる証拠じゃ!!」
えっへんと大きく胸を張り、カミルは言った。
「今はまだあれだけど~ミノルの噂がたったら魔王様に持ってかれちゃうんじゃな~い?」
「なっ……!?そ、それは困るのじゃ!!ミノルは妾の料理人なのじゃ!!…………後で本格的に対策を練らねばらなんやもしれんのぉ。」
真剣な表情を浮かべぶつぶつと何かを呟き始めたカミル。そんな彼女に私は苦笑いを浮かべながら言った。
「たかが料理が作れるってだけだぞ?それぐらいで魔王ともあろう者が他人のを奪ったりしないだろ。」
「む、むぅ……そうかのぉ~。」
未だ不安が拭えない感じのカミル。別にそんなに心配する必要ないと思うんだけどな……。
「それに、ヴェルが食事をしたとき魔王も一緒に食べてたんじゃないのか?」
「そうよ?」
「その時魔王はその料理を美味しそうに食べてたんじゃないのか?」
私の予想が正しければ……魔王はその料理人の作る味が気に入ったから雇っているのだと思う。たとえヴェルが美味しいと思わなくても、魔王本人は美味しいと……。
「え?魔王様は果物だけ食べてたわよ?他の料理には一切手を付けてなかったわ。」
うん……うん。……完全に予想外だ。
「なんなら私に美味しい?ってすごい不安そうな顔して聞いてきたもの。」
「その時は……?」
「もちろん美味しいって言ったわ。……不味いなんて言ったら私の首が危ないもの。」
どうやら魔王自身、専属の料理人の作る料理は美味しくないとわかっていたようだな。
そうなると、カミルの不安が万が一現実に起こりうる可能性が出てきたな。私にできるのはそうならないように祈ることだけ……か。
「……っとさて、そろそろ時間だ。」
オーブンを開け、プリンを取り出し冷蔵庫で冷やす。そして完全に冷えたものを皿に出して私は二人のもとへと運んだ。
さて、どんな反応をしてくれるかな?
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