第1章 龍の料理人
第1話
光が収まって来ると同時に私の体を不思議な感覚が襲う。そう、まるで空高くから飛び降りているような……。
「~~~っ!!何が起こってるんだぁ~ッ!!」
先ほどの表現は比喩表現等ではなかった。強烈な光で眩んでいた目を開けると、私の目の前には青い空が広がっていた。
そう、今まさに私は空高くから地面へと向けて急速に落下していたのだ。
お、落ち着け……こ、これは何か悪い夢でも見ているんだろう。でないとこんな非現実的なことがあり得るわけがない。これは夢だと、自分に言い聞かせるがどうにもこの自由落下する感覚といい、風を切る感覚といい妙にリアルだ。ふと一瞬現実なのではないか?と思い込んでしまうと、途端にある恐怖が芽生え始めた。
そう、間近に迫る
「この高さっ……落ちたらさすがに死ぬ……か?はははっ……。」
ちらりと下を見るとさっきより明らかに地上が近づいている。下は森だが、この高さだと下にいくら木のクッションがあろうが関係なく死んでしまうだろう。
途端に現実味を帯びてきた死という概念に、思わず笑いがこぼれてしまう。
そしてだんだんと地面が近づいてくるのを感じ、眼を閉じると突然私の隣から声をかけられた。
「おい、人間。」
「!?」
落下している最中体を捻り、そちらの方を向くと目の前にまるで西洋に伝わる伝説のドラゴンのような
、恐ろしい顔がそこにはあった。
「………」
突然目の前に現れた
「人間……貴様こんなところで何をしている?」
「な、なにをって……こっちが聞きたいぐらいだ!!」
「なに?……まさか人間……貴様どこから来た?」
「に、日本だッ!!お、落ちるッ!!」
そう答えると同時に目の前に地上が迫っていた。衝撃を覚悟して、思い切りぎゅっと目をつぶったその時……肩に鋭いものが喰い込む感覚と同時にブワリと、体が浮く感じがした。
恐る恐る目を開けてみると、地面すれすれで体が宙に浮いているのがわかった。そして何かが喰い込んでいる肩に目を向けると、私の肩には鋭い爪が喰い込んでいる。
そして先ほどからバサバサと音がする上のほうに目を向けると、先ほど私の前に現れたドラゴンのような生き物が大きな翼をはばたかせていた。
「た、助けてくれた……のか?」
「
「あ、ありがとう……助かった。」
「構わぬ。にしてもお主、珍妙な格好をしておるな?それも異世界の服なのか?」
そう問いかけてくるドラゴンは、顎に前足を当て首をかしげている。
「ま、まぁ私達料理人……という職業の人間は着ているものだが、それよりも先ほどから異世界という言葉を聞くが……ここはいったい?」
「ん、そうじゃな。まずその辺の説明をしてやらねばならんか……っとその前に一刻も早くここから離れたほうがよさそうじゃ。人間の匂いを嗅ぎつけた魔物どもが集まってきた。」
「魔物?」
「まぁその話もまとめて妾の住処でしてやろう。ほれこっちに来い。」
ドラゴンにちょいちょいと前足でこっちに来るように促された。本来は着いて行くのは躊躇するべきなのかもしれないが、私は話を聞くためにその指示に従いドラゴンの真下まで歩いて近づく。
なんせ今ここで話が通じる相手がこのドラゴンしかいない上にこの辺の土地勘も全くないからな。それに、さっき上空から見渡した限り近くに人的建造物も見受けられなかった。つまり今の私にある選択肢というのはこのドラゴンに着いて行く以外ないということだ。
「では行くぞ。」
近づいた私をドラゴンはいとも簡単に持ち上げる。そしてその大きな翼を一つ羽ばたかせた。すると次の瞬間には、はるか上空にまで一気に飛び上がっていたのだ。
「では一気に飛ばすぞ?風に圧し潰されることはないから安心するのじゃ。」
またドラゴンがまた一つ翼をはばたかせると、一気に加速しとんでもないスピードで飛行を始めた。そしてその言葉にあったように、こんなスピードで飛行しているにもかかわらず、野ざらしになっている私の体には全く風圧などは来ない。いったいどういう仕組みなんだ?
不思議な現象に首をかしげていると、上から声がした。
「もう着くぞ。あそこじゃ。」
向かっている先に見えてきたのはボロボロになった西洋式の城のようなものだった。あの城を住処にしているのか。
そして徐々に高度を落とし、ドラゴンはその城の中庭のような広い場所に着陸した。
「まぁ見てくれはボロボロじゃが、中は綺麗にしておる。さぁ入れ。」
「あ、あぁ……。」
促されるがまま、中庭を進み城の中へと続いている扉を押し開く。扉の先には奥へと続く長い廊下があり、その中央には真っ赤なレッドカーペットが敷かれていた。
初めて目にした城の内装をまじまじと眺めていると後ろから声をかけられた。
「なかなか綺麗なものじゃろ?」
その言葉に返事をしようと後ろを振り返ると、そこには私の意に反し、先ほどのドラゴンではなく……一人の可憐な少女がいた。
「!?」
「くっふっふ、驚いたか?」
「そ、その声……さっきのドラゴンなのかっ!?」
「そのと~り。妾にかかれば人の姿に化けるなど朝飯前よ。それにこの中で暮らすには本来の体では窮屈じゃからな。」
呆気にとられる私の前でエッヘンと胸を張る少女。確かに言っている通りあの巨体では城の中で暮らすのは窮屈だろう。それどころか、この扉から中に入るのすらも難しいと思う。
……とまぁ理由は至極もっともだが、いったいどうやってドラゴンが人間の姿に化けたというんだ?いくら何でも、不可思議すぎる。
目の前で次々と起こる不可思議な現象に混乱していると、彼女はそんな私の思考を読み取ったように言った。
「まぁ、今はこちらに来たばかりでわからぬことだらけじゃろう。この世界の理についてあっちでゆっくり聞かせてやるのじゃ。着いて参れ。」
すたすたと前を歩き始めた彼女に、私はただ着いて行くことしかできなかった。
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