第21話
車の中に流れるラジオはくだらない会話だったこと、道中夕方まではあんなに晴れていた空も、徐々に曇って次第にポツポツと雨が降り出し、それは土砂降りへと変貌したこと。何もかもはっきりと覚えている。家に着くと園長先生は「風邪引くといけないからお風呂に入ってすぐに寝なさい」と言って車を出した。俺は小さなポケットから家の鍵を取り出すとふと思った。他の子達は家の鍵なんてまだ持ってはいないんだろうと。そう思うとなんだか悔しくてずぶ濡れになりながら公園へと無我夢中で走った。しかし天候と同様に俺の心は晴れるわけもなく、フラフラとブランコに腰掛けた。なんでと考えると怒りが込み上げてくるのでただ下をずっと見ていた。すると誰かが走ってくる音がした。「もしかして…!」と勢い良く顔を上げるとそこに立っていたのは兄だった。兄も俺と同様ビショ濡れで息も切れていることからすぐに心配して探しに来てくれたのだと察した。きっと怒るんだろうな。
親 の 代 わ り に
すると兄は笑顔で「帰ろうか」とだけ言った。俺はなんだか泣きそうになって下を見て歩き続けた。
家に帰ると両親が珍しく家に帰っていた。俺を見て安心するとこう言った。「何かあったらお兄ちゃんに言いなさいね」と。
その言葉に兄は「そうだぞ!」とニカッと笑った。俺は風呂に入った後決意した。もう兄には頼ってはいけないのだと。
兄は無理をするときいつもああやってニカッと笑うのだ。きっと寂しいのは俺がまだ小さいからだ。きっと小学校6年生。中学生になったら本当の俺を見てくれる友達ができるはずだ。しかしその期待は大きく裏切られ、兄に頼ってはいけないという概念だけが体に染み付いた。
つまらない記憶だ。凛に出会ってから何も考えなかったが俺はふとそのことを思い出した。
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