第15話 モフモフ登場
『フェンリルの息子……。何か事情があるのか?』
『大したことじゃない。ただ息子が会いたい、とうるさいのだ。お主の魔力を感じ取って、興味が湧いたのだろうな。我が息子ながら困ったものだ』
『他の魔物とは逆なんだな』
『うむ。だから我がこうしてお主のもとに訪れた。意思疎通が図れぬのなら、すぐに退散するつもりだったがな。お主の実力は我でも計り知れん』
『なるほど……』
フェンリルは知能の高い魔物だ。
家族とのコミュニケーションも取れて、森の主として君臨することも出来る。
フェンリルはまだ警戒こそしているものの、会話の雰囲気から敵対する意思はかなり低そうだ。
『その息子とさ、会ってもいいけど、それでフェンリルに貸しを一つ作ったと考えても良いのか?』
『ふむ……。まぁそれでいい』
『よし、それならこっちとしても嬉しい限りだ』
このフェンリルの実力と知能の高さを考えるに、ここら一帯の森林は全て奴の支配下だろう。
今のうちにこのフェンリルに貸しを作っておくのは後々プラスに働く可能性が高そうだ。
なにせこれからソニアの領地を繁栄させていかなければいけないからな。
……ま、そんな打算的な思考も持ちつつ、実は俺もフェンリルの息子というのには興味がある。
この狼の子供だろ?
可愛いに決まっている。
きっと、このフェンリルよりも小さくて、銀色の毛並みがモフモフとしているのだろう。
目もこんな親みたいに鋭くなくて、大きくて丸いに違いない。
『……お主、何か失礼なこと考えとらんか?』
『いえ、まったく』
まさか勘も鋭いとは恐れ入った。
『しかし、その魔力なんとかならんものか』
『俺の魔力が高すぎるから魔物達がビビって近づけないんだよな?』
『そうだ。今こうしてお主と会話しているだけで我は圧を感じておる。居心地が悪い』
『そんなこと言われてもなぁ……。隠蔽魔法【ニムリス】を応用すれば隠せるかな』
【ニムリス】は自身の気配を消す魔法だ。
気配を消す範囲を自身の魔力だけに制限してみる。
こんな使い方をするのは初めてだけど、いけるかな?
『ほう。お主から膨大な魔力を感じなくなったぞ』
『おおー、じゃあ成功だな』
『我の前ではそうしていて貰えると大変助かる』
『分かった。なるべくこの状態でいることを心がけよう』
変に警戒されるのも嫌だしな。
先ほどから食事をせずに、フェンリルと会話をしていると、ついにラウルがこちらに気付いた。
「おーい、アルマ。さっきからどこ見て──って、ギャアアアァァァッ!」
「どうしたの? ──ッ!」
ラウルとソニアが俺の視線の先に目を向けた。
フェンリルの姿を見た二人は、大変驚いた様子だ。
「フェ、フェンリルだ……。やっぱり今まで魔物に遭遇しなかったのは、これの前兆だったんだ……」
ラウルは頭を抱えて落ち込んでいる。
魔物に遭遇しなかったのは、俺のせいなんだけどな……。
まぁ言っても余計に混乱するだろうから何も言わないほうがよさそうか。
「……」
ソニアに至っては、身体から魔力が発せられており、今にも魔法を詠唱する勢いだ。
「ふ、二人とも、安心してくれ。あのフェンリルは敵じゃない」
俺がそう言うと、ソニアは落ち着きを取り戻した。
「……たしかに、先ほどから襲ってくる気配はない」
ソニアの身体から発せられる魔力が引いていく。
「……そ、そうだよな。あのフェンリルが本気になっていたら今頃もうアイツの腹の中だもんな」
『あの者に伝えてやってくれ。お主の肉はまずそうだから食わんと』
フェンリルが【念話】でそう告げてきた。
「ラウル、お前の肉はまずそうだから食わないってさ」
「……喜べばいいのか、悲しんだらいいのかよく分からないな」
「ん、アルマはフェンリルと話せるの?」
ソニアが首を傾げた。
「ああ。【念話】を使っているんだ」
「……本当にアルマは色々な魔法を覚えている。《賢者》のギフトを貰った私よりも」
表情には出ないが、ソニアは少し嫉妬している様子だった。
「まぁまぁいいじゃねーか。それでアルマはフェンリル……さん、と何を話していたんだ?」
怖くなったのか、ラウルはフェンリルを見て、硬直した後に「さん」付けしていた。
「フェンリルの子供と会ってくれないか? っていう会話をしていたね」
「どんな会話だよ……。お前ら知り合いなのか?」
「……初対面だな」
「なおさら状況がよく分からん! ……まぁいいや。フェンリルが敵対してないってだけで俺は一安心だ」
ふぅ~、とラウルは一呼吸を置いた。
「……フェンリルの子供、私も会いたい」
ソニアは目を輝かせてそう言った。
「だよな! というわけでフェンリル、お前の息子に是非会わせてくれ!」
『うむ。それなら今から息子をここに連れてくる。しばらく待っておれ』
フェンリルはそう伝えると、この場から去って行った。
「……き、消えた⁉」
ラウルが驚いた。
「今から子供をここに連れてきてくれるみたいだよ」
「お、おお。それなら良かったぜ」
「子供、たのしみ」
「……しかしまぁ……最近俺、色々ビビりすぎだな」
「仕方ない。フェンリル相手に物怖じしないアルマがおかしい」
「いや、だって、フェンリルは敵意を向けていないようだったから、ね?」
「流石アルマって感じだな。ま、めちゃくちゃ頼りになるんだけどな」
「そのとおり。アルマの活躍を私はとても期待してる」
「はははっ、せいぜい頑張るよ」
そう話している間にフェンリルが戻ってきた。
今度は木の上ではなく、俺達の前に降りてきた。
フェンリルは口に小さな狼をくわえている。
『これが息子だ』
『やあー』
子供も【念話】が使えるみたいだった。
「「「……か、かわいい」」」
そのモフモフに俺達は一瞬で魅了されてしまうのだった。
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