第2話 老騎士と減らず口と海賊と



 何だ…ここは一体どこだ?

両手を鎖で繋がれ、気づいたら牢屋に閉じ込められていた。


「ああ、やっと目が覚めやがったかジジイ」


「ここはいったいどこじゃ」


 ヨハンは目の前にいる少女チビに尋ねた。

 少女チビは一見、子供のように見えるが尖った耳や足元を見て人ではない別の種族だという事に気付いた。


「オイ貴様、ここは何処かと聞いておるのじゃ」


「あぁん、なんだよ偉そうに、それが人にモノを尋ねる態度かよ!」


「下等種族が!なんじゃその無礼な態度は?

 ワシは聖教十字軍の副団長ヨハン・フィッツジュラルディンじゃぞ!」


 目の前にいる少女はハーフリングといわれる種族でいわゆる亜人であった。体格は人間でいうと3歳〜5歳くらいのサイズである。ブロンドの髪はクルクルくせ毛が酷く耳が尖っており、裸足で足の裏に毛が生えていた。人間至上主義の聖教国で生まれ育ったヨハンにとっては子供のような姿をした愚鈍で野蛮な生物に見えた。


「さあな知らねえよバーカ」


「な……なっ……何じゃと貴様、このワシに向かってバカじゃと? ええいその首を切り落としてやるぞ、そこへなおれ!」


「ピックル、助けに来たニャ♡」


「うおっ、ボミエ! 来てくれたのかよ」


 そこへピックルと呼ばれたハーフリングの仲間らしき者がカギを持ってそーっと近づいて来た。その者は猫人族といわれる獣人で魔法使いの帽子、ローブを纏い、星の形をした杖を持っていた。ボミエと呼ばれたその猫人族はカギを開けてピックルを手招きすると彼女は牢を出て行こうとした。


「待て、薄汚い亜人供めが我が聖剣のサビにしてくれようぞ!」


「ピックル、この爺何を言っとるニャ?」


「相手にすんなってコイツ絶対頭おかしいから」


「オイラこの爺きらいニャ、オイラの魔法でやっつけて今晩の飯は油で揚げたフライド爺にするニャ」


「うれしい、ボミエちゃん大好き♡」


「オイラもピックルのこと愛してるニャ♪」


 ボミエとピックルは抱き合い、お互いの気持ちを確かめ合いながら見つめ合っていた。

 彼らの行動に苛立ったヨハンは牢を出ると2人に向かって剣を抜き、ジリジリと近づいた。


炎疾走魔法フレアアクセル


 ドギューン!と凄まじい音を立ててボミエはピックルを抱いたまま爆炎と共に加速し、ヨハンから離れて行き、遠くから声が聞こえてきた。


「アハハハハッ!死ねバーカ爺」


 ヨハンは剣を鞘に納めたが先程の2人の亜人カップルに対する苛立ちが収まらない、聖教国に生まれ

 幼い頃から人は神から選ばれし者、亜人は蔑べき存在だと教えられ聖教十字軍の副団長にまで上りつめた彼には耐えがたい屈辱であった。


 ヨハンは気を取り直してスタスタと歩き出し、しばらくすると目の前に梯子が見えて来た。

船の甲板へ上がると海賊達が人質をとり、武器を構えて待っていた。

そこには奥に座っている黒髪で中年の船長らしき者と船員達が15人ほどいた。

 ボミエとピックルはすでに奴らに捕まっており、その横で椅子に座って見ている赤毛の男がいた。

 歳はおそらく25歳前後、特別な美男子というわけでもないが人の良さそうな好青年といった雰囲気があった。旅人を思わせるようないでたちで脇には上等な剣が差されている。男のそばにいた船員の1人がヨハンを指差して甲高い声で叫んだ。


「なんだジジイの奴隷も逃げ出して来やがったのかよ。」


 聖教十字軍副団長であったこのワシが奴隷?

 コイツらは一体何を言っておるんじゃバカ供が…


「オイ、コイツの両腕を押さえつけるぞ」


ほほうワシを捕まえにくるか?コイツらなかなかいい体格しておるだけに動きも悪くないが……


 船員達は統一された動きでヨハンをジリジリと囲み、サーベルを突きつけて来た。

だがヨハンはまるでダンスでもしているかのような小さく小刻みな足捌きで船員達の攻撃をすべてかわし切った。船員達が次の攻撃に移ろうとした瞬間、ヨハンはもの凄い速さで剣を抜いた。


剣技ソードスキル『七星連斬』」


 ヨハンの剣技ソードスキルによりほんの一瞬で7人の船員が宙に舞い上がった。


「バ…バカなこんな事が奴隷ごときに我が船員が

 やぶれるなんて」


まあ所詮、こんなところじゃろうのう。残念ながら貴様らとはくぐった修羅場が違うんじゃよ

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