幕間 サイクロプス、その剣は誰が為に
遥か昔、この世界に神は四人の魔神を創った。
その内の一柱サイクロプス、彼は人族の物作りに興味を示していた。
「ほぅ、これはなかなか」
サイクロプスは手に持ったガラス細工を眺める。
「店主これを頂きましょう」
「へい毎度!相変わらず良い目利きですね旦那!」
顔馴染みの店主と他愛もない話をする。
「そう言えば旦那聞きましたかい?何でも城で剣を集めているとか」
「剣を?」
城には兵士が居る、剣なら腐るほど有るだろうに。
「ええ、何でも王様がドラゴンでも倒せる剣を御所望とか」
「ほぅ……」
そこで店主が声を潜める。
「これは噂ですがね、この近くに
イビルドラゴン、災害級に指定される凶悪なドラゴン。
「それを討伐するために剣を集めているとか、確か旦那も剣作ってましたよね?どうです城に持ち込んでみたら?」
「ほっほっほ、とてもじゃありませんが、私の腕ではお眼鏡になりますまい」
朗らかに笑いサイクロプスは店を出る、しかし、世界の調和を神から言い渡されている以上サイクロプスも見逃す訳にはいかなかった。
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帝城では重苦しい会議が開かれていた。
「陛下、決断をするべきです、この地を捨て新天地を探しましょう!」
「この地を奴に呉れてやれと?先代が築いたこの国を?」
「陛下、陛下が居られる所こそ帝国なのです!」
「何を戯けた事を」
何度目かのやり取りにうんざりする。確かに宰相の言いたい事も解る、イビルドラゴンに立ち向かうなど正気の沙汰ではない、しかし、とてもじゃないが国民全てを連れて大移動等出来ない、つまり。
「民を残して我らだけ生き長らえ、何とする?」
「そ、それは………」
ここまでがいつもの流れ、決まってここで皆黙ってしまう。
「はぁ……」
重い溜め息が出る、しかし、今日に限っては違った。
「失礼致します陛下!」
会議室に戦士長が入って来る。
「どうした?まさかイビルドラゴンが動き始めたか?」
慌てて入って来た戦士長に会議室は緊張に包まれる。
「いえ、見つかりました!イビルドラゴンに対抗できる剣が!」
「何と!?それは真実か!?」
「はっ!今作り手と一緒に応接室に!」
「直ぐに行こう!」
逸る気持ちを前に急いで応接室へ向かう皇帝。
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剣を持ち込んだサイクロプスは城内の空気に、危機感が有ることを感じていた。
(焦燥、苛立ち、不安………余り良い状況では有りませんな)
城の中の気配を探っていると、バンッと言う音ともにこの国の皇帝が入ってくる。
「貴殿が剣の作り手か!?」
入って来るなり剣を見せろと言う皇帝、何人かの配下と共にまじまじと見始める。
「おぉ、これは……」
「内包する魔力も一級品、これならイビルドラゴンも倒せましょう」
「うむ、ロプス殿でしたな?」
勿論サイクロプスの偽名である、ロプスに皇帝は。
「この剣をあと千、いや、百作ってはくれまいか?」
同じ剣を百本、作れなくはないが。
「残念ながら材料が足りませんな」
ロプスに作る義理は無かった。
「そ、その材料とは!?」
「イビルドラゴンの鱗ですな」
絶句する皇帝達、イビルドラゴンを倒すためにイビルドラゴンの鱗を用意するなど、本末転倒である。そもそもそれが用意できるなら苦労はしていない。
「くっ、諦めるか……」
「………父上、その剣をわたしに預けてはくれませんか?」
名乗り出たのはこの国の第一王子。
「……息子よ、この剣をどうする気だ?」
「この剣でイビルドラゴン倒して見せます」
「王子!?それはあまりにも」
無謀過ぎる、いくらロプスの作って剣が優秀でも、一本だけではとてもではないが、討伐はできない。
「…………」
「…………」
目を見合う親子、そこには他人には解らぬ通じ合いが有った。
「………わかった許可しよう」
「ありがとうございます」
皇帝は苦渋の決断をした、配下が考え直すよう皇帝に進言している横で、ロプスにとっては好機だった。
「失礼、よろしければ私もご一緒してもよろしいかな?」
「ロプス殿もですか?」
「はい、道中剣の手入れも必要でしょう、万全の状態でイビルドラゴンに挑むために、是非私もお力添え致しましょう」
と言うのはロプスの建前だ、実際は人族の力で倒せるのならよし、倒せないのなら自らが手を下す、その予定である。
「畏まりました、こちらこそ息子に力添えをお願いします」
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街より北、この国で最も高い山、その中腹にイビルドラゴンは巣を構えていた。
「もう間もなくですな」
「はい、今日はここで野営をして、明日夜明けと共に仕掛けます」
「じゃあ、準備しますね!」
王子とロプスに加え、三人の王子の御付き、合わせて五人でのイビルドラゴンの討伐。
「………すまない皆、死地に連れてきてしまった」
無謀である、誰もが解るこの現状は一重に皇帝と王子が決めた事。
「仕方ありませんよ、街の人が逃げるためですもん」
足止め、何れ位意味を成すかは解らないが少なくとも、逃げている途中でイビルドラゴンに補食される確率は下がるだろう。
「ロプスさんも申し訳ありません」
「ふむ、では、お詫び替わりに一つお伺いしても?」
「はい、何なりと」
「皆様は何故着いてきたのですか?」
それは王子の御付き三人への質問、死地と解っていながら、何故来たのか?
三人は顔を見合わせて微笑むと。
「俺達は王子に仕えて生きたいんです、これからもずっと」
「仕えて、ですか……」
「はぁ、お前達もう少し」
「いえ、今の答えで私は満足です」
恐らく彼らの間には僅かな時間では語れぬ程の絆が有るのだろう。
それは死地に居て尚微笑む事のできる大きな何か、それを知るには時間が足りなさすぎる、だが。
「信頼する仕えるべき者、主ですか……」
ロプスに何かを思わせるには十分であった。
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翌朝、まだ日が昇り始めたばかりの闇の中。
「………では、生きましょう」
王子を先頭にイビルドラゴンの寝倉へと入る。
『匂うぞ、小汚い人間の匂いだ』
極力音を立てないように、ゆっくりと進んでいた一行に、闇が降りる。
「ま、まさか、イビルドラゴンが喋ったのか?」
首をもたげた闇がイビルドラゴンと気付き、御付きの一人が呟く。
『クックック、矮小な人間ごときの言語、理解するのにさほど時は必要ないわ』
「くっ、臆するな!やることは変わらない!」
『小賢しいわ人間が!』
魔力を乗せた威嚇、それだけで王子達は吹き飛ばされる。
「ふむ、これはいけませんな、致し方無い」
「ロ、ロプスさん?」
ロプスは徐に片目を被う眼帯を取り外す。
「私が押さえますので奴の首を落としてください」
「え?」
『ふん、人間風情が、大きく……な、何だ貴様!』
サイクロプスは本来の姿に戻る、碧眼豪腕の巨人、イビルドラゴンを押さえつけるなど容易い。
『ぐぉぉ………』
『さぁ、どうぞ』
無理矢理イビルドラゴンの首を地面に叩き付け、促すサイクロプス。
「は、はい……」
ゆっくり近付き剣を振りかぶる王子、こうして無事イビルドラゴンは討伐された。
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イビルドラゴン討伐後、街に戻る途中でロプスと王子達は別れる事に。
「ロプスさん、貴方は何者ですか?」
「ほっほっほ、何処にでも居る老人ですよ」
朗らかに笑うロプスを見て王子は一つ心当たりを訪ねる。
「ひょっとして、貴方様は魔神の一柱では無いのですか?」
「ま、魔神ってあの伝説の!?」
御付きが驚き声を上げるが、当の本人は。
「はて、何の事やら?」
変わらず朗らかに笑う、そんなロプスを見て苦笑しつつ王子は手を差し出す。
「本当に助かりましたありがとうございますロプスさん」
「ほっほっほ、こちらこそ良いことを学びました」
握手を交わして別れる。
王子達が見えなくなった所で。
「そろそろ出てきていただけませんかな?」
『バレていましたか』
自分達を創った神、その気配は直ぐに解った。
『君から見て人間はどうだい?』
「ふむ、汚く矮小で小賢しい、私もそう思います」
『………』
「ですが、それだけでは無い、美しく繊細で輝きを秘めている、実に素晴らしい」
『そう言って貰えると助かるよ、さて、君にはしばらく眠りについて貰うよ、代わりに何か願いを叶えよう』
「願いですかな?」
顎に手を当てしばらく考え込み。
「では、私が仕えるべき主を」
『……………』
頭を抱える神。
「如何致しましたかな?」
『いや、うん、解った主ね、うん』
小声で『またか……』と聞こえたがロプスは静かに目を閉じた。
『では、サイクロプスいつか来る主との出会いまでおやすみ』
目を閉じたサイクロプスは光に包まれ、封印の地へ飛んでいく。
それから幾星霜の後タクトと出会い、剣を捧げるのである。
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