緊急八大主町会議へ【後編】


 本当に?

 いや、ここでそれを隠してもいい事などないしな?

 正式な八大主町会議ルーズ・アルディッドならば放映されるが、今行われているのは非公開の緊急八大主町会議ルーズ・アルディッド……。

 公式の場であり、非公開のこの場で『神託』が『神託』がない事を隠しても、誰も得をしない。

『虚偽看破』の魔法を使えればいいんだが、師匠とイヅル様しか使えないだろうな、あんな特殊魔法。

 そのイヅル様も困惑している表情だから、やはり『神殿』は多嵐デッド・タイフーンの『神託』を得ていなかった。

 それを信じる事にしよう。


「ふむ。なぜ人間たちに『神託』を与えていないのかは、ここで話し合っても分からない。直前に与えられる可能性もあるが、多嵐デッド・タイフーンが起こる直前では避難も間に合わないだろう。ライズとセレーナに頼んで多嵐デッド・タイフーンの発生を遅らせる工作を行ってはいるが、発生そのものは防げない。膨れ上がる魔力はいずれ爆発する」

「そ、そんな……」

「イヅル様でも、止める事は叶わないのですか」

「ワタシでは無理です。魔力生成は地核で行われている。そしてそれはワタシの処理能力を、すでに超えているのです。……龍脈を使い、出来る限り分散していますが……すでに供給過多になりつつある。勇者殿が魔王との戦いのために消費するとも思いましたが、ステルスはすでに玉座にはいない」

「な、なんですと!」


 イヅル様は魔王の事をやんわり流しつつ、話を多嵐デッド・タイフーンに戻す。

 人は『神託』がなくとも、生き延びるためにやるべき事がたくさんある。

 一つ、八つの町の大型結界石をここ、泉議会室ドル・アトルに移動させ超大型結界を完成させる事。

 八つの町の大型結界石と、元々この泉議会室ドル・アトルにある大型結界石、そして俺たちが『ククルのダンジョン』で手に入れた大型結界石……合計十個の大型結界石を一箇所に集め、根づかせる事でその超大型結界は完成する。

 十個分の大型結界が合わさる事で、相乗効果が生まれ、多嵐デッド・タイフーンにも耐られるそうだ。

 その結界の中なら、多嵐デッド・タイフーンのあとに世界の環境がどんな風に改変されても人類や他の生き物も生き延びる事が出来る。

 そこまで聞いて、レティシア女史やアマード氏以外の町長は顔つきが変わった。

 おそらく多嵐デッド・タイフーンがどんなものなのか、その時初めて理解したのだろう。

 古の天災。

 その程度の認識だったのかもしれない。

 でも、それによりなにが起きるのか。

 そうしなければ生き延びられないかもしれない、と聞けば……我が身に降りかかる事でもある……もはや他人事ではなくなる。

 それ以外の方法がないのならやるしかない。


「年単位での引っ越しになるぞ」

泉議会室ドル・アトル 八大型主町エークルーズすべての人口を受け入れられそうなのか?」

「食糧はどうする? まずは泉議会室ドル・アトルに食糧生産地区を設けた方がいいのではないか?」

「そもそもすべての町の人々を呼び寄せるのだ、土地をどう分割するのか先に決めるべきではない?」

「移動の経費をどうする? 土地を離れる事を、納得しない民が出たら?」

「それは各々で解決すべきでは?」

「水は? 井戸を掘らなければいけないのではないか?」


 うーん、どんどん具体的な話し合いになってきているな。

 セレーナに眴すると、頷かれる。


「愛夏様、私とライズはここで失礼します」

「え?」

「後ほどサポートするよう仰せ使っている者たちを合流させます。その者たちと、まずはレベルを上げてください。……すでに魔王の脅威はないのですが、その部下たちが怪しい動きをしています。愛夏様には、その者たちを討伐して頂きたいのです」

「……ふ、二人は……どうするんですか?」


 不安げな表情。

 ずっと色々話していた同性のセレーナがいなくなるのは、きっと不安なのだろうな。

 だが、出来ればロニたちに彼らの心や自信を挽回するチャンスを与えてあげて欲しい。


「私たちは『ファイシドのアルゴッド』へ向かいます。まだ多嵐デッド・タイフーンの発生を遅らせるための作業が、終わっていないのです」

「あ、あの、私が呼ばれたのは、その多嵐デッド・タイフーンというのをなんとかするためじゃないんですか? ……魔王はもういないって……その部下が多嵐デッド・タイフーンっていうのを、起こそうとしてる、とか、なんですか?」

「いいえ、なぜ多嵐デッド・タイフーンが起ころうとしているのかは、愛夏様を呼び出した私たちの世界の神様が決めた事。神のご意志を、盟友たるイヅル様でも推し量れない以上誰も真意は分かりません」

「そんな……」


 ……確かに……。

 神はなぜ多嵐デッド・タイフーンを起こそうとしているのだろう?

 それを、勇者に止めさせようとしているのだろうか?

 しかし聖剣が与えられた時の『神託』は『与えた聖剣を用いて魔王を倒す事。それにより世界は救われる』と……。

 ステルスをうっかり俺とセレーナが倒したから、おかしくなったままになってしまったのだろうか?

 しかし、ダーダンという不安要素が残っているのは事実。

 出来れば勇者殿にはダーダンを倒して欲しい。

 セレーナ曰く、そいつが『真のラスボス』。


「大丈夫、神に選ばれた勇者である愛夏様ならきっと真の敵を見つけ、倒す事が出来ますわ。私とライズも役目を終えたら必ずお力添えに参上致します」

「ほ、ほんとうですか?」

「はい、我らの師にも、勇者殿を見てやってくれと頼まれていますし」


 正確には『勇者足り得る者かを見定めてこい』だが。

 まあ、似たようなものだろう。多分。


「わ、分かりました。頑張ります……不安、ですけど……」

「はい、頑張ってください! 私たちも頑張ってお役目を果たして参りますので!」

「では、そのためにも出発しよう」

「ええ」


 今回の勇者殿は自信が足りないように見える。

 ヨルドを同行させるよう頼んでもらったが……なんだか少し不安になってきたなぁ。

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