泉会議室


 泉議会室ドル・アトル

 大陸中心部にある、 八大型主町エークルーズの長たちが集まり年に一度八大主町会議ルーズ・アルディッドと武闘大会が行われる場所。

 毎年恒例のその祝日は、今年、勇者召喚というイベントも相俟って盛大な盛り上がりの中幕を閉じている。

 そしてこの町を治めるのは、他の町のような個人ではなく『神殿』。

 十歳になる子どもは、『神殿』で『神託』を与えられ、その道筋に沿うように生きる。

 町そのものも『神殿』の関係者が住む。

 冒険者協会や 八大型主町エークルーズとは違った、第三の勢力といえよう。


「ふぅあー」

「すごいでしょう? タニア。ここが世界の真ん中の町よ」

「うー」

「そういえば、タニアを『神殿』に預ける事は出来ないのかしら?」

「無理だろうな……神殿は『神託』で選ばれた者、あるいはその身内しか仕える事が許されない。魔物と暮らしていたとバレれば、危険分子とされかねないだろう」

「……そうか……『神殿』は魔王が来る前から魔物を『邪悪なるもの』って言って、問答無用の討伐対象にしていたものね。……テイマー職にも差別が酷かったっけ」

『なんと、そうなのですか?』


 そうなのだ。

 おそらく『神殿』の権威を守るための『敵』がどうしても必要だったから、とは思うのだが、『神殿』の魔物への嫌悪感、憎悪は些か度を越している。

 それでもテイマーの才能を神から『神託』で与えられた者が増えてきたため、テイマーは認められた。

 最初は魔物と心通わす者は、魔物と同じだと処刑も辞さなかったらしい。

 とはいえ、テイマーを認めたのも『神託』があってこそ。

 腹の中はまだ認めたくないのだろう。

 テイマー相手は露骨に態度に出るしな。


「タニアはまだ『神託』を与えられるほどの年齢に達していないだろうし、聖剣の事をそれとなく探ってコロシアムに行ってみよう」

「それなら私が行くわ。『聖女』が一人で行った方が、警戒されないと思う」

「……そうだな。じゃあ、俺とタニアはそこのカフェで待ってるよ」

「ええ。タニア、ライズの言う事をよく聞くのよ。私は『神殿』に寄ってから行くから」

「うー」

「タニア、そろそろ横着せず喋りなさい。面倒くさがってばかりでは、言葉の練習にならないよ」

「…………」


 ぷい、とされてしまった。

 困った子だなぁ。

 しかしカフェに行って、メニューを読み上げると……。


「『森のパンケーキ、生チョコソースと生クリームのベリーアイスを添えて』と『夢の卵たっぷり卵タルト』と『採れたてミントと採れたて卵のぷるぷるたまごプリン』と『しゅわしゅわメロンに濃厚牛乳のバニラアイスをのせて、チェリーとサンドの踊り添え』」

「かしこまりました」

「…………俺はコーヒーで」

「はい。ではご注文を繰り返します……」


 相変わらずメニューを頼む時はスムーズだな。

 というか、俺は一度しか読み上げていないのに、その中で自分が食べたいメニューをしっかり記憶しているとか……この子実は天才なんじゃないか?

 その才能をどうしてそこだけに発揮するのか。


「……しんでん」

「ん?」

「しんでん、まもの、きらい?」

「……ああ、『神殿』は魔物が嫌いだよ。でも十歳になったら『神託』を受けなければならないから、いずれまたここには来る事になるだろう。それまでにもう少し話せるようになろうな」

「……ていまー」

「ん? ああ、俺がレトムを使役しているのはテイマーの力だよ。タニアもテイマーになりたいのか? そうだな、タニアは魔物の言葉が分かるから、向いているかもしれないな」

「……うん」


 そうか、タニアはテイマーになりたいと思うようになったのか。

 冒険者になって、俺たちのように強くなりたいと語ってくれたタニアの夢は、少しずつ具体的になってきたようだ。

 素晴らしい。

 タニアは冒険者の……いや、強くなる者の才能があるのかもしれない。

 やはりそのうち師匠やイヅル様のもとへ連れて行こう。

 なんなら、『アルゴッド』の養護施設に預けられなさそうなら、師匠達のところで育ててもらった方がいいかもしれない。

 師匠たちは人の姿をしてはいるが、人ではないし。


「お待たせ」

「どうだった?」


 そこへセレーナが用事を終えて戻ってきた。

 タニアの隣に座ると、早速メニュー表を開く。

 あ、しっかり食べるんだな。


「聖剣が『神殿』の台座に戻っていたわ。突然聖剣だけが戻ってきて、『神殿』も大騒ぎだったみたい」

「そうだろうな」

「だから勇者様が『帰りたい』と叫んだら聖剣が光り、勇者ともども消えてしまったので、ってあらまし説明してきたわ。……明日ライズとヨルドの決闘があるから、その時にまた召喚を行うって決めたみたい」

「え? なんで俺とヨルドの決闘の日に……?」

「人の目があるからよ。便乗して、前の勇者が帰った事を有耶無耶にして、新しい勇者への期待を煽るつもりなのね」

「…………」


 頭を抱えた。

 まんまと利用されるというわけか。


「そんなに上手くいくだろうか?」

「分からない。……でも、 八大型主町エークルーズの長たちも呼び出されてるみたい。明日までに来い、だなんで本当横暴というか」

「そうか……だが、それならそれで好機ではあるかもしれないな」

「……そうね」


 頷き合う。

 すべては明日。

 これを、転機としない手はないだろう。



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