攻略中のゲームに転生したら、攻略するの?されるの?

ひよっと丸

第1話

 ガキンッ

 訓練用の剣がぶつかる音がして、受けとめ損ねた俺はそのまま後ろに倒れた。

 受身が取れなかったから、まともに後頭部を地面に叩きつけることとなった。その瞬間、何かを見てしまった。いわゆる走馬灯のようなものなのだろうか?俺の記憶が流れてくる。一瞬のうちに大量の記憶を見たからだろうか?俺はその情報を処理しきれずにそのまま気を失った。


 目覚め方は最悪だった。いわゆる脳しんとうを起こしたのか、目を開けても辺りは暗かった。外部の灯りがうまく取り込めず視界が狭い。

 俺は走馬灯のように流れてきた記憶を思い起こす。それの一つ一つを処理して理解してしまった。ここは、この間まで攻略していた恋愛シュミレーションゲームの世界だ。プレイヤーが好きに主人公を選べるため、自由度の高いシュミレーションゲームとして、腐女子人気が高かったあのゲームだ。主人公に男を選ぼうが、女を選ぼうが、攻略対象は変わらない。そう、出現キャラは全て攻略できてしまう自由度が高い恋愛シュミレーションゲームだ。そうして、プレイしたからこそ分かる、このゲームはやっかいである。意図していない攻略対象からアプローチを受けたり、気づかないうちに別ルートに移行していたりするのだ。


「R15指定だったもんなぁ」


 俺は改めて自分の手を見た。袖を見る限り着ているのは軍服。攻略対象に軍服を着ているのはいなかった。つまり、俺はプレイヤーにはなっていないようだ。モブだ。ありがたい。うっかり攻略対象になんてなっていたら、間違って攻略対象の男性陣に攻略される場合だってあるからだ。

 俺は安堵して深いため息をついた。


「ようやく気がついたか」


 聞きなれない男性の声がして、俺は体がビクリと震えた。やばい、独り言は声に出してなかったよな?万が一声に出ていたら、頭打ってヤバいことになった奴と認定されてしまう。


「あ、あの」


 誰だか分からないため、なんと返事をしたらいいのか分からなかったし、何より頭を打った人間がいきなり起き上がっていいものなのか?


「ああ、まだ起き上がらない、検査をしないとな」


 やっぱりな返事をされて、俺はとりあえず大人しく寝たままで相手が現れるのをまった。

 なにか道具をのせたワゴンを押して、その人物は現れた。


「失礼するよ」


 そう言って、懐中電灯?的なもので俺の上まぶたと下まぶたの裏側を照らして何かを確認していた。


「ふむ、どこか痛むところは?」

「ありません」

「ふむ」


 手が俺の後頭部に回る。


「痛いところは?」


 後頭部を指がゆっくりと押しているのが分かる。が、くすぐったいだけで痛みはない。


「ありません」

「ふむ、では起きてみようか」


 俺が起き上がろうとしたら、背後から誰かの手が肩に回された。視界の範囲外だったため、思わず身構えたが、慣れた手つきでそのままベッドに上半身を起こした形で座らされた。


「目眩は?」

「ありません」

「ふむ、視界が狭いようだな。彼女が見えなかっただろう?」


 言われて頷いた。隣に立っているのが分かるのに、肩に手を添えている人物が見えない。


「足をこちらに下ろして」


 言われて体の向きを変える。背中を見えない彼女が支えている。


「いくつか質問をするから、答えてくれ」

「はい」

「名前は」

「ファルシオン」

「歳は」

「18」

「所属は」

「まだ、配置前です」

「ふむ、では鏡で自分の顔を見たまえ、記憶の顔と一致しているかな」


 手鏡を渡されて、自分の顔を見た。

 鏡に映っているのは瀬川大輔ではなく、恋愛シュミレーションゲームのモブとしてはそこそこな顔だった。攻略対象はとにかくイケメンたちが揃っているが、そこは恋愛シュミレーションゲームの世界、モブだってそれなりに男前になっているようだ。

 ちなみに、先程のやり取りの答えは勝手に口から出てきた。これっぽっちも自分で悩んだり考えたりはしていない。このキャラの記憶なんだろう。


「どうかな?」

「俺ですね」


 いや、まぁ、本音を言えば、俺の顔これなんだぁって、驚いてるけどね。


「ふむ、まぁいい。とりあえず、丸1日も寝たきりだったからな、今夜も大事をとってここに泊まってもらおう」

「はい、わかり…え?」

「君が倒れたのは昨日の昼過ぎ、日付が変わってもう夕方だよ」


 言われて俺は窓の外を見た。確かに夕方っぽい空だけど、丸1日?


「どうりで、腹が減っているわけですね」


 時間経過が分かった途端、俺の腹は盛大に鳴り響いた。

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