スキャンダル部!!

夜凪ナギ

第1話 スキャンダル部

 舞い散る桜。


 きっちり整えられた学ラン。


 待ち構える高校!


 今日からここ、高敷商業高校に入学する俺、月見阿羅矢は校門の前で一人、深呼吸をしていた。


 新入生と思われる生徒たちが次々と校門をくぐっていく。


 待ちに待った高校生活!


 昨晩は緊張しすぎてほとんど寝ていないことは秘密だ。


 中学では色々あったけど、これからは心機一転、華のの高校生活を送るぞ!




 と、意気込んでいたのはほんの数分前である。


 今僕は、まさに華の高校生活を脅かされそうになっているのだ。


 この怪しい部活によって。


「ねえ、入るよね! まだ部活決めてないんでしょ? とりあえず仮入部みたいな感じでさ!」


 と言いつつ、入部届を差し出す女子生徒。


「いやあ、僕この部活についてまだよくわかってなくて」


「大丈夫! 私はあなたのことよく理解しているから!」


「え?」


 そのまま僕は背中を押され、廊下の一番端にある小さな部屋に押し込まれたのであった。




 時を遡り一時間前。


 校長先生の長い話を聞き終え、新入生たちは自分たちのクラスに戻っていた。


 教室ではすでにいくつかのグループが生成されていた。


 教室の後ろのほうに固まる女子数人。


 教卓に群がる男子グループ。


 男女二人ずつのグループ。


 もちろん僕は一人だ。


 というか、いつの間に仲良くなったんだ?


 僕は一人、机に上半身を預けてぼーっとしていた。


「うちの学年、超かわいい女子いるんだって!」


「まじかよ!」


「ああ、しかも双子だって」


 そんな会話がどこからともなく聞こえてくる。


 教室を見渡す限り、僕以外にもひとりでいる生徒は数人いたので安心しつつ、ただ周りを見ていた。


 五分ほどたったところで、担任と副担任が入ってきた。


「はーい、みんな席について!」


 担任は身長の低いおばさんだ。


 顔には濃い化粧で隠しきれていない小じわが目立ち、ピンクのスカートがイタイタしい。


 声は甲高く、はっきり言って苦手なタイプだ。


 副担任は身長がとても高く、ざっと見た感じ190センチはあるだろう。


 つるつるした頭部に、運動部の顧問なのか、入学式だというのにジャージを着ている。


「みなさんそろってますね。それじゃあ始めます!」


 担任は無駄に元気よくしゃべりだし、自己紹介を始めた。


 ほとんど内容のない自己紹介だったので省略するが、担任は山田で、副担任は竹下だ。


「それじゃあ皆さん、一年間よろしくお願いします!」


 最期に山田先生はそう告げ、明日以降の説明をし始めた。


 僕の席は窓際の前から五列目だったが、後ろのほうから


「山田はハズレらしいぞ、先輩が言ってた」


 という会話が聞こえてきたので、僕の高校生活はなかなか幸先の悪いスタートだった。




 ホームルームが終わり放課後。


 校庭や廊下では部活動の勧誘が行われていた。


 野球部、サッカー部、軽音部、テニス部・・・


 それぞれが大きな看板を掲げ、新入生を呼び込んでいた。


 そう、これこそ青春!


 担任がハズレでも関係ない!


 僕は周りをきょろきょろしながら、その大きな看板を眺めていた。


 しかし、一つの疑問が生まれた。


 僕、運動できないじゃん。


 いやいや、運動がだめでも文化部に入れば!


 コンピュータ部、漫画研究部、競算部、簿記部・・・


 うーん、いまいちピンとこない。


 そうやって看板を眺めているうちに、とうとう校内を一周してしまった。


 僕の高校生活、こんなはずじゃない。


 仕方ないので、とりあえず軽音部あたりを見学にでも行こうと思ったその時だった。


「月見阿羅矢君!」


 誰かが僕の名前を大声で呼んだ。


 思わず身体を硬直させ、振り返るとそこには一人の女子生徒がいた。


 長い黒髪にポニーテール。


 腕にはシュシュを付け、片方の手を腰に当て、もう片方の手で僕を指さしている。


「月見阿羅矢君!」


「なんですか?」


 二度も大声で呼ばれ、少しイラっとした。


「あなた、部活は決めたの?」


「いえ、まだ。てかなんで僕の名前を・・・」


 僕がそこまで言いかけたところで、


「じゃあ、うちの部に入らない?!」


 と、その女子生徒は言い顔を近づけた。


 あまりの急な出来事に、沈黙しかできなかった。


「おっと、失礼。先に名乗るべきよね。私の名前は鴨井くるみ。二年生よ」


 先輩だったのか。


「そして、私はスキャンダル部の部長でもあるの!」


 なんだって?


 す、スキャンダル部?


「ええ、そうよ!」


 この人、僕の思考を読んだ!


「あなたのような人材を待っていたのよ!」


「待ってたって言われても、僕は・・」


「大丈夫、入ってみればわかるから!」


 この人、さっきから僕が話し終える前に・・・。


 そうやってこの小さなくらい部屋に押し込まれ、今に至るのである。




「あの、他の部員は?」


「ほかの部員? この部は私一人だけど」


「じゃあ、顧問は?」


「うちは正式な部じゃないから顧問はいないわね」


「・・・・・」


 先輩はクルッと振り返って、


「これからよろしくね!」


 と言い、入部届に僕の名前を書きだした。


「ちょっと! 僕まだ入部するとは言って・・・」


「大丈夫大丈夫!」


 またもや言葉を遮り、先輩は両腕を広げて言った。


「ようこそ! スキャンダル部へ!」


 ああ。


 僕の華の高校生活は一体どうなるんだ・・・

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