第3話

 XX線は予想通りのひなびた路線だったが、X県への風景は、僕の予想を超えていた。とにかく迫り来る、山また山。鉄道は谷底の僅かな平地を川に沿って進む。時に短いトンネルを抜ける。少し感覚を研ぎ澄ませば、標高としてはどんどん上っていくのが判る。

 とはいえ、澄ませるほどの感覚は僕にはなくなっていた。

「ここを過ぎると、何も買えないわ」という佐緒里さんに背中を押されたようなかたちで駅の売店に立ち、またあれこれと飲み物や食べ物を物色したのだ。満太郎がさりげなく支払ってくれた。僕は列車が名古屋駅を出るなり缶ビールを開け、ぐびりとやっていい気分だった。

 四人が向き合う座席の、窓辺には満太郎と佐緒里さんが向き合い、僕は満太郎の隣、進行方向に向かった通路側にいた。満太郎と佐緒里さんは、この路線にこうして何度も乗ったことがあるのか、景色の一つ一つに何か心を動かされたふうもなく、肘掛けに肘をついて押し黙っている。二人の顔かたちは、そう似ているとは思えなかったが、その長い手足と色白な肌は、やはりきょうだいらしかった。鏡に映したように対照的なポーズ――そんなところに肉親の類似は出るものだ。

 二人とも眠ったりはしていなかった。だが、目を見交わすわけでもない。僕は何か置き去りにされているような、軽いやきもちを焼いたんだった。

 高かった太陽はすでに傾き、山間ではところどころその姿を隠すこともあった。そうなると列車は、濃密な暑さが残る日陰を進んでいくわけで、僕らが今向かっているのが、相当な田舎なのだなあと思えてくるのだ。

「あとどれくらい?」と聞いた時の僕は、少々心細い、子供っぽい気分だった。

「今、どこだっけ?」と満太郎が姉に聞く。

「さっきがオンデンウラだから、駅としたらあと五つ? もう三十分やそこらよ」

「……だそうだ。俺も久しぶりなんでな」

「あら。あたしだって、かなり久しぶりよ。でも、名古屋の高校に通ってたから、太郎よりはこの路線には乗ってるわよね」

 そう聞くと、僕は満太郎の高校時代について、何も知らないことに気付いた。

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