ヤンデレ美少女は司書兼メイド勿論彼女

綾波 宗水

プロローグ

如何なる書物も始まりは唐突

 本はいい。歴史書は遥か悠久の彼方を静かに、それでいて重厚に語りかけ、小説は古今東西の人間の心情・体験を伝えてくれる。

 科学書は森羅万象の成り立ちを諭し、哲学書は平凡に生きていれば到底気づき得ない事柄を教え、啓蒙してくれる。

 文明が誕生したその日から、変わらず権威であり続ける存在、それが本なのだ。


 医療技術が発展した今日でも、人間の一生は短い。

 その限られた期間で如何に叡智に触れられるかが、僕には重大であり、その妨げとなる、例えば社交などは一番遠ざけなければならない。

 その甲斐あって、今や社交の場と成り下がった大学に入学して幾ばくかの月日が経ったものの、未だに僕は友人、いや、知人さえ居ない。


 憐れみを僕に向けるのは勝手だが、彼らの過ごしてきたたった十数年の知恵と、読書から得た遥かなる叡智では格が違う。些末な評価は甚だ迷惑なものだ。

 とは言え別段、学力などで人を馬鹿にしている訳ではない。

 彼らの生き方も大いに結構。しかし、僕のような存在が少なからず人類にいるからこそ、小説やドラマ、映画、ひいては芸術全般が今なお廃れないのだ。

 それが分かったら少しは思慮分別というものをだな…………


 歩きスマホが横行する学内にて、二宮金次郎に勝るとも劣らない熱心さで歩き読書をする彼の名は明智宗太アケチソウタ

 自他共に認める本の虫である。読書にしか興味が無く、両親が他界してからまともに会話をしたのは妹・彩香サヤカのみという生粋の愛書狂bibliomania



「……今日も素敵だな♡ってまたぶつかりそうになってる!うん、やっぱり私が居ないとだよね♡」

 絶賛歩き読書中の明智を見守るこの美少女の名は氷室深雪ヒムロミユキ

 地球は広い、読書にしか興味を示さない偏屈を好きになる女子、それも美少女がいるくらいに。

 だがしかし、その点はやはり均衡がとられているのだろう。

「私が宗太君を守ってあげるからね♡」

 性格がヤンデレという残念美少女なのだから。


「本さえあれば他には何も要らない」

「宗太君さえいれば他には何も要らない」

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