人生の終わりの音色はすずしげだ。

環流 虹向

第1話 主人

私はスティア。


17歳の頃両親が交通事故で亡くなった時に

父と知り合いだった旦那様に出会い、

メイドとして住み込みでこのお屋敷で働かせてもらっている。


私のお仕事は主に

買い出しや、食事の用意、お茶・お菓子の用意など

食の管理を任されている。

元々料理することが好きだったので天職だと思っている。


旦那様は今53歳。

とあるおもちゃ屋の代表取締役社長で

一代で大企業に築き上げたらしい。

父は起業当初からいた社員で旦那様をとても尊敬していた。


しかしどんなにすごい人でも残念なところはある。

それが浮気癖。

今まで3人と結婚して3人と離婚した。

結婚しても離婚しても女癖治らなかったみたい。

合計5人の子どもが産まれたが今は全員このお屋敷には住んでいない。

子どもたちも女癖が悪い旦那様に嫌気がさしてしまったみたい。


今はお年を召してきて落ち着いたみたい。


なのでお屋敷に住んでいるのは、

高齢になってきた旦那様1人。

お勤めしているメイドが私含めて3人、

マールとシューアという双子。


2人は主に旦那様の身支度や清掃などを主にしてくれている。

2人も両親を事故で亡くなったらしく

境遇が似ており3人姉妹のように仲良くしてくれる。


あと、旦那様の秘書兼メイドを統括している執事

アポロさんがいる。

アポロさんはとても多才で

学問が良くでき、医療知識も持っていて

芸術、音楽の才能がありたまに旦那様に頼まれてヴァイオリンなど弾いている。


こんなにも多才なアポロさんだが一番すごいのは

アポロさんが先読みした未来が全て当たるということだ。

だから秘書としてもとても優秀な方。


この5人でこのお屋敷に住んでいる。


ここで暮らし始めて3年、少し悩み事がある。

旦那様のセクハラだ。


少し前まで可愛い、脚が綺麗だとか言葉に発するだけだったのが

言いながら脚やお尻を撫でてくる。


女癖が酷いと言われていたがメイドにまで

手を出してくるとは思わなかった。


今になってここ以外働く場所も住む場所も無いので、

我慢するしか無い。

触られるだけで済んでいるから良いかと考える。


旦那様の夜の食事が終わり、

バスタイムになると私の1日の仕事は一旦終了する。


マールとシューアがバスタイムから旦那様がベットルームに行くまでお手伝いしている。


私はあと使用人の食事を各部屋に持っていくだけ。


台車に乗せるとカラカラと音がして旦那様が不機嫌になるので1人ずつ持っていく。


最初はアポロさんの部屋。

アポロさんの部屋は一階の地下室に続く階段の隣の部屋にある。

玄関からも中庭からも近い部屋なので警備をしてくれている。

とてもありがたい。


[コンコンコン]


アポロさんの部屋のドアをノックする。


「お食事お持ちしました。」


とんとんと足音がして扉が開く。


「ありがとう。」


と言い、食事を受け取る。


「はい、またお食事が終わる頃来ますね。」


「いつも面倒かけて悪いな。ありがとう。」


にこりと笑顔でお礼をいつも言ってくれる。


「はい、では。」


と言い、私は次の食事を届けに向かった。


私、マール、シューア3人でいつも一緒にご飯を食べるので私の部屋がある3階の角部屋に持っていく。

三往復するのが大変なので私たちの分だけワンプレートにして大きいトレイに乗せて持っていく。


もう少ししたら2人が仕事を終えてくる時間なので早足で持っていく。


カトラリーなど並び終え、グラスに水を入れているとノックが聞こえた。


「どうぞー!」


ガチャと扉が開き、2人がきた。

するとシューアが涙を流していた。

マールがとても険しい顔をしている。

ただごとではない。

いつも2人は笑顔いっぱいで元気なのに。


「…どうしたの?」


一旦2人をソファに座らせる。

すると、マールが


「キスされたんだって。…旦那様に。」


驚きで言葉が出なかった。

シューアが再び泣きだす。

思い出したんだろう。


「初めて…だった…のに…」


11歳からこのお屋敷にいる2人。

恋はしたことはあるが彼氏がいたことがないと言っていた2人。

ファーストキスが旦那様だなんて…。

さすがに旦那様のセクハラは度が過ぎている。


しばらく3人で旦那様のセクハラについて話した。

初めて3人でこの話をした。

2人が私を怖がらせないために黙っていたそうだ。


2人は18歳になった頃からセクハラをされていたそうだ。

最初は軽く撫でるだけだったが

今では服の中に手を入れてくるそう。


そんなのおかしい。

いくら使用人だとしても人権がある。

今2人は21歳。

私がこのお屋敷に来た頃からされている。


気づけなかった私に嫌気がさす。

ただただ良い人だと思っていた旦那様だからこそとても悲しい気持ちになった。


「アポロさんに相談してみよう?」


アポロさんなら何かしら守ってくれる気がする。


「うん、そうだね。」


「…うん。」


「2人はゆっくりしてて。食べれそうだったらご飯食べててね。」


「いまからいくの?」


「うん、お皿下げるついでに相談してくるよ。」


「ありがとう。」


「ありがと…。」


2人を部屋に残し、アポロさんの部屋に行く。

こんな真剣な相談初めてするから緊張する。


[コンコンコン]


扉が開く。

私の顔を見てなにかを察したのか、


「部屋に入るかい?」


コクっとうなずき部屋に入る。

アポロさんは扉を閉めカギを閉めた。


「これで誰も聞こえないから大丈夫。

なにか相談事だよね?

ゆっくりでいいから話してみて。」


静かに旦那様がシューアにしたこと、 最近の行動が行き過ぎているということを話した。


「なるほど…。2人はどんな感じだい?」


「シューアは泣いていて、マールもとても嫌がっています。」


「そうか…。3にんとも嫌な思いをさせてしまってすまない。」


「いえ、アポロさんが謝ることでは無いですよ。」


「…なんとか旦那様に話してみるよ。」


「ありがとうございます。」


席を立ち部屋を出る。

アポロさんに迷惑をおかけして申し訳ないが

男性同士話してもらった方がいいだろう。


そんな浅はかな考えだった私。

この時の行動が私の人生を大きく変えたんだと思う。

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