第3話:移動

「やる、やるから直ぐに王都から出ていってくれ。

 もう俺の前に現れないでくれ」


 私が諦めて王太子達の前から出ていこうとすると、恐怖に顔を歪めた王太子が、私に悪魔のダンジョンを渡すと叫びました。

 義妹のポーラが王太子の肩を掴む力を強めたのでしょう。

 王太子が激痛をに苦しみ泣き叫んでいますが、取り巻き達は無視しています。


 ポーラの脅かしに王太子が前言を翻さないうちに、正式な書類を発行しようとしているのは明らかです。

 彼らが一番王太子の愚かさを知っているので、守護神様の天罰の巻き添えにされないようにしたいのでしょう。


「これが書類です、直ぐに担当の役所に提出してください。

 国王陛下が御病気なので、摂政の王太子殿下の決定だけで大丈夫です」


 やはり、国王陛下は起き上がる事もできない御病気なのですね。

 王太子とポーラが余りに好き勝手しているので、国王陛下に何かあったと思っていましたが、最悪の状況は避けられました。

 もし国王陛下が亡くなられてしまっていたら、愚かで憶病な王太子が王位を継ぐことになり、この国は未曽有の人災に見舞われるでしょう。


 私は急いで役所を回り、必要な許可を受けて、悪魔のダンジョンの所有権をえましたが、それだけでは安心する事はできません。

 ポーラに脅された王太子が、いつ約束を反故にするか分かりません。

 考えたくもないですが、国王陛下がお亡くなりになるようなことになれば、王太子が王になり、完全に王権を手に入れてしまうのです。

 その時にマルティナとポーラの悪女母娘が、その力をどのように使うか……


 そんな最悪な事態が起こる前に、悪魔のダンジョンに避難しなければいけません。

 普通の聖女なら、命をかけてこの国のためのために戦うでしょう。

 ですが、私にはそんな志などありません。

 誰かを助ける前に、自分が生き延びる事が一番大切です。

 私はこの国に好い思い出など全くないのです。

 こんな国のために命を賭けたいとは、どうしても思えないのです。


「聖女様、私達もお連れください。

 どのような危険な場所であろうと、どれほどの困難が待ち受けていようと、最後までお仕えさせていただきます」


「僕たちも連れて行ってください。

 大した事はできませんが、できる限り働かせていただきます。

 聖女様のおられない神殿に残ったら、どんな目にあわされるか分かりません」


 私は一人で神殿を出て行こうと思っていたのですが、側仕え修道女や孤児院の子供たちが待っていて、一緒の連れて行ってくれと言います。

 本心では彼らは私の重荷でしかないのですか、見捨てる事はできませんでした。

 もう聖女ではないのですが、私にだって見栄というものがあるのです。

 ですが、彼らを連れて行くとなると、大量の食糧を持っていく必要があります。

 さて、その購入費用をどうやって集めましょうか?

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