とおあまりふたつ、の君と僕

君と僕とは一つじゃない

抱きしめてもずれる鼓動

言葉抜きでは

思いすら伝わらない


けれど冬朝握り締めた手が

暖かくて嬉しいのは

きっと君の体温が僕と違うから

冷たい僕でなくて

暖かな君がそこに居るから


―― 一



 * * * * *



君が僕に告げた声は真っ直ぐに

乗った言葉は熱く棘を持ち

心深くに突き刺さった


だから

僕は覚えた痛みそのままに

荒い言葉で君を遠ざけた


けれど耳に蘇るのは

他でもない君の声

後悔と謝罪の思いと共に

今 僕の心を引き締める


―― 声



 * * * * *



つと瞳から滑り落ちた涙

その理由すら探せず

微笑む君を見つめることしか

僕には出来ない


特別なことなんて

何も無かったのに どうして?

ただ君が

おかえり と

僕にそう言っただけなのに


―― 涙



 * * * * *



君は光だと僕が言っても

君ははねつけ瞳を閉ざす

だから僕の言葉はいつも

狭間に落ちて転がるだけ


どう言えば伝わるだろう

零す涙も抱える闇も

いずれは君の道を照らす

星となり月となるのだと


隣を歩む僕を照らす

君は光なのだと


―― 光



 * * * * *



君が僕に囁いたのは

胸に秘めた夢の欠片

花弁のようなそれはけれど

白い熱で僕の喉を焼く


浮かぶ涙は何のため?

夢を教えてくれた嬉しさか

熱を持てない自分の悔しさか

答えは頭で空回り


僕は君に何も伝えられないのに


―― 囁



 * * * * *



例えば咲く花があったとして

静かに一人愛でるのが君で

美しさを人に広めるのが僕


君は僕を咎めない

触られ過ぎて萎れた花に

一人涙を零すだけ

ごめんね 僕の謝罪にも

君は笑顔を返すから


僕は何も言えなくなって

君をぎゅうと抱きしめる


―― 花



 * * * * *



青空に笑顔を

夕焼けに泣き顔を

時と共に変わる空に

僕は君を透かし見る


君がもう居なくても


空が僕を見ているから

僕が空を見ているから

君はきっとずっと

僕の傍に居るのだろう


―― 空



 * * * * *



受話器越し伝わる君の声は

いつも通り明るく跳ねて

僕の耳で木霊する


けれどここに君は居ないから

君の瞳も指も足元も

僕は知ることが出来なくて

元気で良かったとしか言えなくて


声の裏側隠したものに

気付けなくてごめんね

そんな思いもまた伝わらない


―― 伝



 * * * * *



背中を向けた君に風が吹く

砂埃を巻き上げながら

冬の蒼天へと昇り消える


伸ばした僕の指先は

冷たい風に弾かれて

上げた僕の声は

空へ昇って君に届かない


だから君は振り返らない

道に佇む僕のことなど


―― 風



 * * * * *



君の瞳に映る世界が

優しいものでありますように

そう願いながら僕は笑う

僕はこんなことしか出来ないけれど

君が望むならいくらでも

こうして笑っていよう


唇を噛んで辛さを隠し

涙を見せない君だから

胸の内に落とした痛みが

この笑顔で少しでも和らぐように


―― 瞳



 * * * * *



輝く君が嫌いだ

言ってしまえば楽なのに

君の笑顔の前で僕は

口に出すことなど出来なかった


太陽が全てを等しく照らすように

君はそれでも僕に笑う

それを独り占めしたいと願う僕は

やはり影でしかないのだろう


手に入らないから

だから僕は君のことが嫌いだ


―― 輝



 * * * * *



君と僕とを繋ぐのは

ほどけかけた言葉の糸

それは細く頼りなく

今にもふつんと切れそうで


その大半は風にさらわれ

空へ溶けると分かっていても

それでも僕は言葉を紡ぐ

君に届くように


届くように


―― 繋



 * * * * *



「ing+be...」様(現在は閉鎖)の「一文字で綴る12のお題」を元に。

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