84.フィートの遊覧飛行配信

 炭鉱攻略を終えた翌日、サイはリアルの方で友達と出かけるらしく昼間は不在、夜もログインしないそうだ。

 ただ、ここ数日、配信していい情報を持っていなかったため、配信していなかったのが気がかりだったようで……。

 代わりに頼まれたのが、サブチャンネル扱いになっている俺のチャンネルでの配信だ。

 かと言って、俺に出来る事なんて少ないし……と思い、配信を始めて数分できてくれた、ありがたいサイのファン数十名にアンケートを採った結果、『彼氏さんが適当なコースで遊覧飛行してくれればそれでおk』という事になった。

 それでいいのか思わないでもないが、アンケート結果だし、いいんだろう。

 さて、それでは、ファストグロウの高台からスタートすることにしよう。


『お、彼氏さん、ついにスタート?』

『彼氏さんがいた高台、まず行き方がわかんねーんだけどw』

『簡単にいけるぞ? ちょっと遠回りする必要はあるが』

『そうそう。なかなかの絶景ポイントよ。夕日が沈む時間とか真正面に夕日が沈むからめっちゃきれい』

『よし、大回りすればいいんだな! 覚えた! ちなみに彼氏さんはどうやって登ったの?』


「ハイジャンプの二段ジャンプで……」


『鳥人らしいお答えをありがとう』

『さすが鳥人、高いところに上がるのは大の得意』

『気をつけないと立木に顔から突っ込むけどなw』

『彼氏さん、立木に突っ込んだ経験は?』


「何度もあるぞ。ところで、どっちに向かおうか? 精霊の森を空から見てみる? それとも海の方にいってみる?」


『精霊の森は珍しいな』

『正直海はほかの配信とかでもよく見かけるからなあ』

『精霊の森一択で』

『でもあの森だぞ、空から見ても意味あるのか?』


「まあ、見てみなよ。じゃあ、行くぞ」


 いつも通り、二段ジャンプと滑空を利用して空を滑るように飛んでいく。

 配信を見てくれている皆には申し訳ないが、慣れてもらうしかないな。

 そして、10分強で精霊の森にたどり着く。

 地上から見た精霊の森はうっそうとした暗い森なのだが……。


『おー、これが精霊の森か!』

『これは空撮できるものの特権だわ!』

『まさか、あの薄暗い森がこんなにきれいだったとは!』

『真ん中に空いたスペースってボスエリアだよな。そこから突撃可能?』


「検証班が試したそうだけど、一度もボスを倒していないプレイヤーがあそこに降りようとすると、バリアみたいなものにはじかれるってさ」


『さすがに対策されてたかw』

『運営もそこまでバカじゃないとwww』

『しかしここから見ていると本当に美しい森なんだがなぁ』

『中に入るとおどろおどろしい』


「そういう設定のダンジョン? だからなぁ」


『あー堪能した。次はどこ行こうか?』

『セカンディスクに向かう途中の平原を空撮してもらうとかは?』

『いいねぇ。マニアックなところばかりだけどそれがいい』

『決まりだな』


「了解した。ただ、あまり奥部へは入っていけないぞ?」


『なんで?』

『知らんのか? 奥部には上位モンスターがいて対空攻撃をバンバン行ってくるのだ』

『あー。でも彼氏さん、紙装甲じゃないでしょ?』

『HPは紙だ』

『把握』


「というわけで浅い部分しか飛べないけどそれで構わないかな」


『オーケーオーケー』

『大丈夫よー』

『彼氏さんに任せた』


 任された、という事で、一度ファストグロウ方面へと抜けて、そこからセカンドレス方面に飛ぶ。

 目的地はガラナ平原、まあ、高空にいる限りは平気な場所のはずだ。

 ガラナ平原へと着くなり、4人組の冒険者がリザードマンに襲われていた。

 というか、一方的に追い回されていた。


「あー、こういうときはどうすればいいんだっけ?」


『相手から救助要請が出されるのを待つか、こちらから救助申請を出すのが一般的だね』

『まあ、見殺しにして、ドロップアイテム丸儲けもありだけど』

『それは彼氏さん的に気分が悪いんじゃないかなぁ?』


 えーと、救助申請、救助申請……あったこれか。

 これをあのパーティに出して。


「救助申請がきたぞ!! ありがたい!」

「それで、パーティはどこなんだ!?」

「あの、それなんですが、あそこにいる鳥人の人ひとりみたいです」

「鳥人ひとりでなにができるってんだよ!?」

「空を飛んでちゃ盾にもできんぞ!」

「あの、せっかく助けに入ってくださったんだし、そのようなことは……」

「最弱種族に助けられるわけねーだろ! ったく、期待させやがって!」


「と、申しておりますが」


『パーティチャットになっていない事を気付いていないんだろうあぁ』

『ついでに生放送中のアイコンが出ていることも』

『種族差別者は地雷よー』

『で、彼氏さん、助けるの?』


「目覚めも悪いし助けるよ。こいつの威力も確かめたいし」


『わお、新しい銃?』

『配信じゃ見た記憶がないぜ?』

『今度はなに属性なの?』


「氷だって聞いてたなATKは+30」


『あの程度のリザードマン、どこに当たっても即死ですわ』

『むしろモンスターに同情を禁じ得ない』

『さっさと倒して遊覧飛行の続きと行こうぜ』


「そだな。スナイプショット!」


 俺の銃から放たれた弾丸は、寸分のくるいもなくリザードマンの頭部にヒットする。

 すると、リザードマンは一瞬でポリゴンの塊と化し、消え去っていった。


「おい、とんでもなく強いぞ、あの鳥人!」

「いまの一撃でヘイトが全部鳥人に移ったな!」

「よし、今のうちに逃げるぞ!」

「え、でもあの鳥人さんは……」

「救援申請で入ってきたんだから勝てるだろ、ほらさっさと逃げるぞ!」

「え……ゴメンナサイ、鳥人さん!」


『あーあ、逃げちゃった』

『これ、オープンな配信なのにな』

『同接400人程度とはいえ、拡散させるヤツはいるぞー』

『筋金入りのサイちゃんファンならあの程度のにわかは気にしないんだけど、今回は彼氏さんがターゲットだからなぁ』

『会話ログにバッチリ名前も出てるし、アバターの容姿もわかる。あの女の子に関しては最後まで残ろうとしてたし情状酌量の余地ありだが』

『さすがにあの子までは裁けないだろ』


「おーい、リザードマンを全部倒したんだがどうすればいい? 遊覧飛行の続きか?」


『あー、どうしよっかな……』

『少なくともこの場所はやめにしね?』

『胸クソ案件にまた引っかかっても仕方がないしな』

『つーわけで、一度ファストグロウに戻ろうな?』


「それは構わないけど……」


『じゃあ、決定』

『のんびり帰ろうぜ』

『飛ぶような速さで』

『それのんびりじゃねぇよw』


 特段やることもない、という理由で視聴者のリクエストに応えて飛び回ってたが……これはこれで楽しいかもな。

 さてこれからどうしたものか。

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