銀翼の冒険者がゆくVRMMO冒険譚~ときどき(彼女が)配信中~

あきさけ

序章 彼女からの招待

1.レイメントへの招待状

《あなたにとってゲームとはなんですか?》


 こんな問いかけがあったとする。

 そうすると、大半の人間はこう答えるだろう。


「楽しむためのもの」


 ゲームとは娯楽の一種であり、つまりは楽しむためのものである。

 でも、俺にとっては別の側面がある。

 だから、俺はこう答える。


「自分が生きるためのもの」


 と。


★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆


「あーくそ! 楓生ふう、そっちに行ったぞ!!」

「わかった。バックアップする」


 ここは林の中、さまざまなクリーチャーが跋扈する戦場。

 そこで、俺たちは銃を手に取り戦っていた。

 ……もちろん、現実のものではない。

 ここはゲームセンターの筐体内。

 VRゲーム、つまりバーチャルリアリティーの戦場だ。

 一言でVRと言ってもさまざまなタイプが存在している。

 このゲームはフルダイブではなく周囲に映し出される戦場を自動で移動しながら敵を倒していくと言うシステムだ。

 そんなゲーム空間で、俺と友人のやすしは戦いを繰り広げていた。

 今し方、康が自分の持ち分から敵を二匹ほど取りこぼしたが。


「……よし、バックアップ完了。敵は全滅したし先に進めるな」

「おうよ。残り時間も追加されたし、まだまだいけそうだ」

「だな。……にしても、大分腕が落ちてるな、お互い」

「言うなって。大学受験でゲーム断ちしてた期間が長いんだからさ」


 俺たちは今年大学を受験した。

 その結果はふたりとも合格だったわけだが……その準備期間と言うことで、一年間はまともにふたりでゲームをしていない。

 受験のことを考えれば当然だが、この期間は長かったなぁ……。


「それにしても、大学は別々になっちまったな。ま、俺にあの大学は無理なんだが」

「俺だって結構がんばったんだぞ? 簡単に別の大学を受けるわけにいかない理由もあったし」

「はいはい、ごちそうさんっと。次のステージが始まったぞ」

「ああ、そうだな。今度は撃ち漏らさないでくれよ」

「了解。いっちょやってやろうぜ」


 結局この日は、八ステージ中六ステージ中盤まで進む事ができた。

 ……一年前なら余裕でクリアできたことを考えると、本当に腕が鈍ってるな。


★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆


「お疲れさん、楓生。ジュース買ってきたぞ」

「ありがと。しっかし、俺たちも鈍ったよな」

「言うなって。もしかしたら難易度調整入ったのかもだし」


 ゲームを終えて、ドリンクスペースに移動。

 そこで休憩だ。

 ゲームコーナーより一段高くなっているこのスペースは周囲を見渡すことができる。

 一時期はゲームセンターを訪れる人間がかなり減ったらしい。

 でも、いまはそれなりの客で賑わっている。


「あー、合格通知ももらってようやく春休みって感じだわ」

「合格しないと休みなんて言ってられないからな」

「それなあ。受験失敗なんてなったらな……」


 お互い同じ高校に進学していたからわかるが、高校はいわゆる進学校というやつである。

 なので、いろいろ受験対策には熱心であり、準備が本格化する三年生になってからはゲームセンターに来る時間などなかった。


「そーいえば、彩花あやかちゃんは来ないのか? 誘ったんだろ?」

「そのうち来るって言ってたぞ。なんでも先に買ってくるものがあるとかなんとか」

「へー。せっかく楓生と遊べるようになったってのに買い物優先とか珍しくね?」

「俺もそう思うが……。彩花もいろいろあるんだろ」


 彩花は俺の恋人でバリバリのゲーマー女子である。

 彼女もまた三年生になってからは一緒にゲームセンターに来ることはなくなった。

 ……それとは別に、オンラインゲームで遊ぶことはたまにあったけど。


「あ、いたいた。楓生、お待たせ」

「ようこそ彩花。買い物は済んだのか?」

「バッチリだよ。康君もゲーセンでは久しぶり」

「久しぶり。彩花ちゃんも腕前が落ちてるんじゃない?」

「私は大丈夫だよ。なんて言ったって推薦入試で合格を勝ち取っているからね!」


 そう、彩花は推薦組なのだ。

 おかげで早々と受験戦争から抜け出し、ゲーム三昧の日々に戻っていた。


「……そういやそうだったな。ひとりでゲーセンに来てたのか?」

「さすがにひとりじゃ来ないよ。主にオンラインゲームがメインだったかな」

「なるほど。それじゃ、このあと俺たちと協力プレイでもする?」

「オッケーオッケー。久々に三人でガンシューティングをやろう。VRのじゃなく普通の」

「相変わらず選択が渋いね、彩花ちゃん」

「こっちの方が楽しいんだよ。ほら、楓生も早くやろう」

「わかった。三人プレイと行きますか」


 このあと、この日は時間が許す限り三人で遊びまくった。

 受験というストレスから解放されたこともあって、ちょっとはしゃぎ過ぎたかもな。


★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆


 その日の夜、彩花は俺の家でご飯を食べていくことになった。

 俺たちの関係は親公認なのでこういうことも少なくない。

 ただ、なんのために彩花が俺の家にやってきたのかが不明だったりもする。


 食事が終わって俺の部屋に移動したら、その辺の事情を聞き出すことに。


「それで、彩花は一体なにをしにやってきたんだ?」

「ふっふーん。それはだね、楓生。君と新しいゲームをしたくてだよ」

「新しいゲーム?」

「そう! 新しいゲーム!」


 新しいゲームか。

 大学受験も終わって少し間が開くし、いいかもしれないな。


「オッケー、わかったよ。で、なにをするんだ?」

「それはですね……」


 彩花は自分の鞄をごそごそあさり、中からひとつのパッケージをとりだした。


「じゃーん! 《Rainbow Commandment》です! 今年一月にサービスインしたばかりの最新VRMMOだよ!」

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