第54話 理由

「うぅ……、私の晋也なのに……」


菜月は崩れ落ちたまま呟いた。

いや、いつお前の晋也になったんだよ……。

何も言わずにいなくなったのに。

俺は当時の消えた理由が知りたくて仕方がない。

夏帆は勝ち誇った顔をしている。

だから夏帆に弁当を渡す。


「ほら、忘れていった弁当な。気を付けろよ」


「うん!ありがと晋也!一緒に食べたいけど先輩も待ってるし……。まぁ夜も食べられるよね。じゃあ晋也!私部活に戻るね!」


「あぁ、がんばってな」


「うん!」


そう言って夏帆は部活に戻る。

足がなんか弾んでいたし、菜月に妹マウント取れたのがそんなに嬉しかったのか……。

そして俺は未だに崩れ落ちている菜月に声をかける。


「なぁ菜月、あの時なんでいなくなったんだ?」


俺は当時のことを思い返しながら尋ねた。

妹のような存在が突然消えた当時はトラウマになりかけた。

また誰かがいなくなるのではないか?

次は悠斗君?母?

考え始めるとキリが無かった。

今でこそ大丈夫だが、だからこそ聞きたい。


「うん、晋也には話す……」


そう言って菜月は起き上がる。

そして俺にあそこに移動しようと指を指して促す。

廊下に置かれているベンチだ。

俺の足を気にしてくれたのだろう。

二人で腰かける。

そして菜月はゆっくり口を開いた。

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