第13話 2020年4月22日 逆指値
同期の石橋 順子に久しぶりに会ってからというもの、俺は毎日順子とメッセージのやり取りをするようになった。
毎日、というのは
どちらかというと毎時間というのが正しい表現だろう。
順子と話している間だけはCFDの含み損のことを忘れていることができた。
そのやり取りの中で、順子がこんなことを言い始めた。
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---順子 Message---
いまさらだけどさ、注文の時に
---春雄 Message---
逆指値?ツイン指値とかいう奴かな?
---順子 Message---
証券会社によってはそう言うのかもしれないけれど、正式名称は逆指値ね
使ってる?
---春雄 Message---
いや、使ったことはないな
---順子 Message---
それはいかんね、チミ
信用始めたなら
---春雄 Message---
どぎゃんすればよかとですか?先生
---順子 Message---
詳しくは自分で調べてほしいんじゃが
---春雄 Message---
それってつまり!!!
---順子 Message---
そう!
---春雄 Message---
なに?
---順子 Message---
(´Д`)
例えば1,000円で株を信用売りしている時に1,100円になると損になるじゃん
この時に逆指値を1,100円で入れとくと自動的に決済注文を出すの
そうすれば株価がもっと上がっても損は100円幅に限定されるって
---春雄 Message---
ほー、便利な世の中になったものじゃのぅ
---順子 Message---
いや、マジバナ信用始めたのなら必ず入れとかないと
さもないと。。。
---春雄 Message---
さもないと?
---順子 Message---
死ぬよ
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怪しげな方言交じりで冗談ぽく話をしていたはずなのだが、最後の「死ぬよ」は少し
俺の隣には既に死神が待機しているように思えたからだ。
逆指値の話を聞いて、俺は自分の限界点はどこだろうかと考え始めた。
自分の金融資産を全て突っ込めば、日経平均先物が21,500円になるまでなら耐えられそうだった。
計算式はこうだ。
1,400万円(全金融資産) ÷ 52枚(CFD売却枚数)= 約27万円
27万円 ÷ 100倍(レバレッジ)= 2,700円
18,800円(CFD平均売却単価)+ 2,700円 = 21,500円
もちろん、日経平均が本当に21,500円になってしまったら俺は一文無しになってしまう。
借金こそ残らないが、財形の積み立てや暴落前に売却し損ねた現物株、子供の将来の為の貯金など全てを処分しなければならないだろう。
流石にそれはあり得ない話だった。
俺はそんなことも考慮してCFDの売却設定を次のようにした。
指値 18,800円
逆指値 20,300円
日経平均株価はここのところ何度か20,000円を試すような動きをしていたが、ことごとく失敗していたので届かないというのが俺の見立てだった。
とはいえ万が一、一瞬でも20,000円を超えると自動注文になってしまう為、少し余裕を見て20,300円とした。
仮に20,300円で決済されると800万円近い損失が確定してしまうので、これも許されないところではあったが。
朝から指値と逆指値の注文を設定していると、CFDの取引時間がやってきた。
今日こそは一時期450万まで
今
9時を過ぎ、現物株の市場も動き始めた。
現物株の下落に連動して、日経平均先物指数も18,800円台に突入した。
この
下がれ、下がってくれ。
だが、非情にも日経平均先物は指値の18,800円まであと30円というところで反転し上昇に転じた。
俺は今日も逃げ損ねたと落胆しつつ、明日はもっと下がると言い聞かせ自分を
もう今の値段で損切をしてしまおうか?と何度も
そして俺は後日、この日の判断を死ぬほど後悔することとなった。
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