第46話〜決戦! 悪のネコ族の野望を砕け・前〜


「我が空軍を退けるか……」



 ボクらの方に歩み寄ってくる、白金の鎧をまとったライム。縦にも横にもボクの2倍近くもある巨体が、地響きを上げながら迫ってくる。

 ——その時。



「ライムさん……! いや、ライム‼︎」



 スピカが飛び出していき、ライムの前に立ちはだかった。スピカは剣の先を、ライムの方に向ける。



「スピカ! お前!」



 ボクは駆けつけ呼び止めたが、スピカはそのまま剣を構え続けている。

 ライムは足を止め、スピカをひと睨みしてから口を開いた。



「ほう……? スピカ。何だ、その格好は。……そうか、よくぞ、我々を裏切ってくれた」


「裏切りやて⁉︎ ウチの首切っといて……、ようそんな事言えるなあ! もう、もうあんたは、ウチの上司やないで‼︎ ……ウチは優しいネズミさんたちに触れ合って、気が付いたんや。ニャンバラ軍の行ないは、間違ってるいう事にな! 一刻も早く、ライム、あんたをとっ捕まえたる‼︎」



 スピカは今にもライムの方へ突っ込んで行きそうだ。このまま1匹だけで行かせるのは危険だ。

 飛び出そうとするスピカを止めるべく見張っていると、態勢を整えたソールさんたちが一斉にボクらの元へ向かってきた。



「スピカさん、下がってるんだ。危ない」


「……ソールさん、せやかて!」



 ボクは、スピカを無理やり下がらせた。



「スピカ、ここは一旦ソールさんたちに任せとけ。ライムの奴め、何しやがるか分かんねえぞ。1匹だけで突っ込むな」


「……ゴマにそう言われたんなら、しゃあないな」



 そうこうしている間に、ライムの体の周りが真紅のオーラに包まれていく。その巨体が赤紫色に輝き始めるのを見て、ボクの背筋に寒気が走った。

 それでもソールさんたち5匹はためらう様子もなく、武器を構えた。



「全力でライムを捕らえるんだ。星光団、行くぞ!」


「「「「おう‼︎」」」」



 ライムの元へ駆け出す、ソールさんたち。

 が、ライムの周りに張り巡らされた血のように真っ赤なオーラが膨れ上がると、瞬時にソールさんたち5匹を弾き飛ばしてしまった。



「ぐわっ!」


「うああっ‼︎」


「……つまらん。その程度では私に指一本触れられんぞ」



 燃え上がるバリアに包まれながら、ライムは笑みを浮かべた。



「くそ! あのバリアを破らなきゃいけないのか!」


「何か、手段を考えなければなりませんね……」



 ソールさんたちは一旦退き、態勢を整え直し始めた。

 あの赤紫色のバリアを何とかしなきゃいけねえのか。ボクはその場を動かず、ライムの動きを観察した。——ライム、まずはテメエのステータスを見てやるよ。



 ニャンバラ軍総長 ライム 三毛♀ Lv.90

 魔神ネコ

 属性 火


 体力 4949/4949

 魔力 350/365

 攻撃力 666

 防御力 384

 敏捷性 190

 魔法力 760


 耐性 火、風、陽、陰

 弱点 水


 必殺……

 イラプション



 ふん、流石はだけあって、高えステータスだな。

 だが、ボクの敵じゃねえ。見てろ!

 ボクはライムの周りで真っ赤に燃え上がるバリアを見つめてから、目をつむった。



 オーラ・バリア

 火属性 消費魔力……15

 全ての攻撃を一定回数、防御。但し



 フフン、そういう事か。なら、こいつだな!



魔剣まけんニャインライヴ! 属性変換・水‼︎」



 右手に持つ剣が、水飛沫しぶきを上げながらあお色に輝き始める。ボクは剣を構えると、ライムの方に向かって一直線に走った。



「喰らえ! ライムウゥゥゥゥーーーー‼︎」


「ゴマくん⁉︎」


「ゴマー‼︎」



 ボクは剣から水飛沫を撒き散らし、風を切りながら赤紫色に輝くライムの巨体に突撃する。——しかし。



「ふん」


「ぐわっ‼︎」



 ——けられた。

 ボクは勢い余って、瓦礫に体ごと突っ込んでしまった。



「ぐわわわああああー‼︎」



 だが、ボクの最強の防御力のお陰で、痛みは無え。よし、もう一回だ!

 ボクは態勢を立て直し、剣を構え、再びライムの方へと突撃しようとした。——が。



「……って、あわわ! そっちじゃねえーーーーッ‼︎」



 足が言うことを聞かねえ。ライムのいる場所とは全然違う方向にばかり、超スピードで突っ込んで行っちまう……!



「ぐわあああああっ‼︎」



 今度は茂みの中に突っ込んでしまった。弾ける水飛沫。全身がびしょ濡れになり、ついでに葉っぱまみれになる。



「クソお! もう一回だ‼︎」



 ボクは蒼色に光る剣を構えては、懲りずに突撃を繰り返した……が、何度やっても明後日の方向へ超速で行っちまうばかりだ。



「フォボスさん! けてくれ‼︎」


「な⁉︎ うわああああ!」



 フォボスさんを巻き込み、水飛沫が破裂する。びしょ濡れになって倒れたフォボスさんが、ボクを見て顔を歪める。



「……ぐ!」


「す、すまねえ、フォボスさん……!」



 ダメだ……クソッタレ! 敏捷性ステータスが高すぎて、自分の動きが制御できねえみてえだ……。



「何を遊んでいるのだ。……イラプション‼︎」



 待ちくたびれた様子のライムがそう叫ぶと、突如地面がオレンジ色に輝き始めた。次の瞬間、地面から炎が吹き上がる!

 ビルよりも高く上がった火柱から、いくつもの炎の弾がボクらの周りに降り注いだ——!



「くっ、みんな逃げろ! ライムから離れるんだ!」


「ダメです! 周りを炎に囲まれました‼︎」



 これがライムの必殺技か。ふ、ふん。ボクはそんな攻撃、痛くも痒くもねえぞ。

 だが念のためボクは目を瞑り、技を分析した。



 イラプション

 火属性 威力 350 消費魔力 120

 特殊効果 火傷(30%)



 威力350だと⁉︎ 大体の大技の威力は90〜120だというのに……。さすがはだ。

 ソールさんたちの方を見てから目を瞑りステータスを見ると、全員の体力が、今ので半分以上削られてしまっていた。



「あ、熱っ……!」


「くうっ……」


「スピカ! ムーンさん!」



 ボクは、倒れているスピカとムーンさんの方へ駆け寄った。

 ……スピカの左腕と、ムーンさんの顔の左半分が焼けただれている。目を瞑ってステータスを見ると、ダメージが少しずつ増え、体力と攻撃力が2匹とも目減りしていくのが分かる。〝ステータス異常・やけど〟という文字が見えた。

 次の瞬間、ムーンさんの杖が光る。



「大丈夫です。治癒魔法、上弦の清月せいげつ!」



 ムーンさんの杖から放たれた魔法が、2匹を包み込む。みるみるうちに、ムーンさんとスピカの傷と火傷が治っていった。ステータスを見ると、体力がみるみる回復していき、ステータス異常も治っていた。

 しかし、ライムはもう次の攻撃の態勢を整えている。


 ——こうなったら、ボクの最強の技を喰らわせてやろう。もう一度目を瞑り、ボク自身の必殺技リストを確認した。



 必殺……

 ギガ・ダークブレイク

 ホワイト・ヒート

 メイルシュトローム

 インディグネイション

 デス・アースクエイク

 ブラック・ホール



 ……よし、これだ。

 ボクは思い切って息を吸い、膨れ上がる黒色の玉をイメージしながら叫んだ。



「ブラック・ホールウゥゥゥゥーーーー‼︎」


「ブラック・ホール⁉︎ ダメ! バカ‼︎ 何考えてんのよアンタ‼︎」



 目の前で突然、バチイイインと何かが弾ける音がした。同時に、ボクの頬に痛みが走る。



「い、痛てぇ‼︎ ヴィーナスさん、なぜ……」



 見ると、ヴィーナスさんが魔法で作ったであろう巨大なネコの手が浮遊していた。そいつで、ボクの顔面を思いっきりビンタしたらしい。ボクの防御力が貫通され、ボクは大ダメージを喰らった。イテエ……。

 〝ブラック・ホール〟は結局魔力が足りず、発動出来なかったようだ。


 ヴィーナスさんは顔を真っ赤にしてボクを叱り飛ばす。



「あんた! そんな技も覚えてるの⁉︎ あんた一体何なのよ⁉︎ ブラック・ホールは、ちょっと制御をミスすると、敵ばかりか私たちも、周りの物も、街も、下手するとこの星も丸ごと、異次元空間へ飲み込んでしまうのよ‼︎」


「え、は……?」


「制御も出来ない癖に、馬鹿みたいに魔法ばっかり使ってんじゃないわよ‼︎ あんたは素質は凄いんだから、ちゃんと練習すれば、すればその……誰よりも強く……なれるんじゃない⁉︎ 見た目も、その、それなりに、男前だし‼︎」


「え、は、……は? 何言って……?」


「言っとくけど、褒めてなんかないんだから、ね‼︎」



 ……ハッキリと分かった。ボク、ヴィーナスさん苦手だ。超苦手分野だ。どう反応したらいいか分からねえ……。

 とりあえず、ブラック・ホールが恐ろしい技だという事だけは、理解した。


 ソールさんたち他のみんなは、ようやく態勢を整え直したようだ。



水遁すいとんの術! 水よ! 燃え盛る火を消して!」



 マーキュリーさんの呼び出した水が、周りで燃え盛る炎を次々にかき消して行く。これでライムの攻撃からの逃げ場も、ひとまず確保出来た。

 ——さあ、行くぜ! 反撃だ!



「みんな、とにかくあのバリアを破壊するぞ! 必殺剣・ライジングサン!」


「ダーク・マジックバレット!」


「フェニックス・インパクト!」


「水遁の術!」


「セイクリッド・シャワー!」


「喰らえ、ニャリバー・スラッシュや!」


「「双破斬そうはざん流星シューティングスター!」」



 大技の数々が、赤紫色に輝くバリアに包まれたライムを襲う。

 閃光、大爆発が何度も巻き起こり、その度に地面が揺れ、轟音が響き渡る。こんなの喰らったら、ひとたまりもねえだろう。

 ——そして。



魔剣まけんニャインライヴ! 属性変換‼︎ 喰らええええ、ライムうううう‼︎」


「フフフ……! フハハハハァァアア‼︎」



 ——また、避けられた。

 そして、ソールさんたち他のみんなの技を持ってしても——ライムを包む紅蓮のバリアには、全く効いていないようだ。


 クソッタレ! ボクがしっかり狙いさえつけられれば……!



「ダメか! クソ! どうすればいいのだ!」



 頭を抱えるソールさん。他のみんなも、次の攻撃を始めようとするライムを、ただ見ているしか出来ねえでいる。

 ボクは息を整えながら、ライムに狙いを定めた。——その時だった。

 痺れを切らしたスピカが、1匹で飛び出していく!

 スピカ、ダメだ‼︎



「ウチの恨み思い知れ! 勇者の剣・ニャリバー! 敵を貫け‼︎」


「待て! やめろ! スピカ!」



 スピカは、ライムを纏うバリアめがけて、金色に光る剣を振りかざした。

 金属音が響く。ライムの方を見たが、案の定、バリアには傷一つついていない。


 ——考えるより先に、足が動く。ボクはスピカの元へと走っていた。



「は、効いてへん……!」


「舐められたものだ……」


「い、いやああああああ‼︎」



 大爆発が巻き起こり、炎と黒煙がライムとスピカを包み込む。



「スピカァァーーーー‼︎」



 ボクは化け物のような黒煙と、踊り狂う紅蓮の炎をかいくぐり、スピカの元へと駆けつけた。



「スピカ! スピカァァ‼︎ 大丈夫か‼︎」


「けほっけほっ……」


「お前、また火傷してるじゃねえか!」


「ゴマ……やっぱあかん、ウチ……ここで死ぬんか……」


「スピカ⁉︎ スピカ、しっかりしろ‼︎」



 スピカを背負い、何とか燃え盛る炎から離れた場所へと運んだ。その次の瞬間——今まで聞いたことのないような、ムーンさんの怒声が響き渡った。



「ライムゥゥゥゥ――――ッ‼︎」



 こんなに怒っているムーンさん、見たことが無い。周りで燃え盛る真っ赤な炎が、ムーンさんの怒りの感情そのもののように感じた。



「ライム、あなたは、あなたは、本当に……、どこまで悪い子なの‼︎」


「……私の名を呼ぶんじゃねえ‼︎」



 ライムはそう叫ぶと、その巨体に似合わぬ速さでムーンさんの前に迫った。



「言っただろう……、ムーン。もう親でも子でもねえんだよ、貴様とは。私はもう私じゃねえんだ」


「あの、時の……?」


「あの時の……何も出来ない私じゃねえんだよ……! 今の私に、出来ねえ事なんか……」


「……ムーンさん‼︎ 危ない‼︎」



 ボクはスピカを抱えたまま叫んだ。が、間に合わない——!



「ねえんだよううううぅぅぅッッ‼︎」



 大爆発と黒煙が、今度はムーンさんを包み込む。

 ——親と子の絆を、紅蓮の炎が焼き尽くしていく……。

 魔物のように蠢く黒紫色の煙の中に、涙を流すムーンさんの顔が見えた。



「ムーンさんーーーー‼︎」



 スピカを背負ったまま、ボクはムーンさんの元へと駆けつけた。同時にソールさんたちも駆けつける。ソールさんはムーンさんの顔を見るなり言った。



「あの技……ペンタルファ・バーストをやるぞ! ……ムーン、頑張れ! 立てるか?」


「や、やめて! それをやるとライムが……」



 ムーンさん、ここまでやられても……、娘を思う気持ちが、勝つのか……⁉︎



「だが、ライムがまた、イラプションを使おうとしている! ここでやらなきゃ我々全員死んでしまうぞ! ムーン、立ってくれ! ……ヴィーナス、ムーンとスピカさんに回復魔法を!」


「2匹ともしっかりなさい。ディバイン・ヒール!」


「……ありがとう。わかりました、やりましょう」



 涙を拭き、立ち上がるムーンさん。——覚悟が出来たようだ。スピカも傷が癒え、立ち上がる。ボクはホッと息をついた。


 ボクは再び剣を構え、ライムの方向へ狙いを定めた。



「ムーンさん! ペンタルファ・バーストを使う前に、ボクがライムのバリアを剥がす! ……大丈夫だ、ボクは最強なんだ。信じてくれ!」


「わかりました。ゴマ……、しっかり自分の力を、制御して下さいね」



 ムーンさんはそう言ってボクの顔を真っ直ぐに見た。

 ——さあ、今度こそ。

 頼むぞ、ボクの足!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る