第27話〜ゴマ、ネズミの子供たちと遊ぶ〜
「そんな。ライム……! あの時あんなに一緒に遊んだライムがそんな事を⁉︎」
「本当にネズミさんの世界を乗っ取りにやって来たら、イヤ〜な再会になっちゃうね〜」
——ボクらの姉ちゃんのうちの1匹、ライム。
ボクが生まれるずっと前に、事故で地底世界に転落したが、そこにはネコだけの住む世界があって、ライムはその世界で首都ニャンバラを築いた。
だが、資源が足りなくなって戦争が起きて、このままじゃ地底で暮らせなくなる状況になっちまったところで、今度はこの平和なネズミたちの世界を乗っ取ろうとライムの奴は企んでるってわけだ。
プレアデスやプルートのジジイはライムの部下で、ボクらをスパイとして利用しやがったんだ。
つかめてきたぞ。
「早く、この世界に住むネズミ族に、ニャンバラ軍の侵攻を知らせ、避難させなければなりません。……この世界には、軍隊はありませんね」
「ああ、そのようなものはないです。もし、恐ろしい力で攻め寄せられようものなら、一方的にやられてしまうじゃろう」
「こうしてる間にも、〝その日〟は迫っています。早急に策を考えなければなりません。……とりあえずは、私が伝えるべき事柄は以上です。遅くまで申し訳ありませんでした」
「いえいえ、知らせてくれてありがとうの……」
どうすんだこれ。ムーンさんの言ってる事が、本当なら——この、あったけえ団欒も、ネズミ族が笑顔で平和に過ごしていたあの街も。
全て、ニャンバラのネコどもに、ブッ壊されてしまうのかよ。
——あの時の、炎に包まれ瓦礫の山と化したニャンバラの光景が瞼に浮かんだ。あれと同じように、このネズミの世界も……!
「このことは、明日みんなに話すとしよう。ムーンさん、ありがとうございます」
「そうしましょう。情報の急な拡散は、混乱を招きます。注意喚起の方法を考えねばなりませんね。……では、ひとまず休みましょうか。メル、寝る支度をしましょう」
「うん……。なんだか大変なことになったね。とりあえず色々と疲れたから、今日はゆっくり休ませてもらいましょ」
「ネコの皆さん、ごゆっくり。おやすみなさい」
ボクは頭の中が整理できねえまま、ベッドの中に入った。その夜は、全くといっていいほど眠る事が出来なかったんだ。
プレアデスの野郎……。そしてプルートのクソジジイ……。
ぜってえ、ぜってえ許さねえからな。
♢
「おはよーう! 顔洗いに行こう、ゴマくん! それっ!」
「うぎゃあ! その起こし方やめろっつっただろチップ!」
今日もネズミたちの世界の空は、青々と澄み渡っていた。耳をすませば、木々からは小鳥の声。森の奥からは川のせせらぎ。はらはらと落ちてくる黄色の葉っぱ。
秋の森の中、朝飯の支度が始まる。
「じゃあ、野イチゴ組は、行ってらっしゃい。スープ作ってるからね」
「うん! お父さん、今日もたくさん採ってくるよ! ゴマくんルナくん、行くよ!」
「ゴマ兄ちゃん、はやくー!」
ボクはまだ寝巻きのままで、顔すら洗ってない。なのにネズミのガキどもはもう野イチゴ集めに出発しようとしてやがる。
「待て、待てってば‼︎ せめて着替えるまで待ってくれ!」
ルナも、ユキやポコたちも、ボクより早く目を覚まして朝飯の支度を手伝っていた。
クソッタレ、うちの家族の中じゃあ早起き一番のこのボクがこのザマかよ……。
「じゃあ今日もいい一日にしよう。いただきまーす!」
「いただきまぁーす!」
木の実の粉で作ったというパンをかじる。焼き立てで、カリカリとした食感と共にほんのりと口の中に甘味が広がる。デザートの野イチゴは甘酸っぱさがあるが、後味はスッキリだ。食った後、元気が湧き出てくるのが分かる。ネズミのガキどもが、毎日あれだけはしゃぎ回るのも納得だ。
「ゴマくん、今日はいっぱい遊ぼうね!」
あっという間に朝飯を食い終えたチップ。遊ぶ気満々って様子だ。
「ああチップ、あちこち探検するぞ。ポコ、お前も来るよな?」
「いや、遠慮しとくよ。僕、ネコ見知りだし……いや、ここじゃネズミ見知りか」
折角、別世界に来たってのに、ポコの奴は相変わらず腰が引けてやがる。
そんなポコのひざに手を当てながら、ユキが言った。
「じゃあ、私のそばにいて。私あまり動けないから」
「そうするーっ!」
ユキと一緒の時だけ元気になるポコに、ボクは冷ややかな目線を送ってやった。
「ちゃんと側にいてやれよ、ポコ」
「ふん、余計なお世話だよ。ゴマも早く相手見つけろよ」
「うるせえよ。テメエこそ余計なお世話だ」
——賑やかな朝飯の時間は終わり、それぞれ思い思いに過ごし始める。
ニャンバラ軍が侵略してくる事については、とりあえずはムーンさんに任せておくって事になった。
だから、今日は何もかも忘れて、ネズミどもと一緒に遊びまくってやる。
チップたちに、本当の冒険ってやつを教えてやらねえとな。
♢
「……お前らなかなかやるな。こんな高い枝の上までついてこれるなんてな」
「僕ら、高いところ好きなんだ! ほら、僕らの家が見えるよ」
「待ってようー!」
チップ、ナナ、そして近所のネズミのガキ共も一緒に、秋の山の中でボクは思い切り遊び回った。
どこまでも高く伸びる木にボクは登ったが、ネズミのガキ共はしぶとくついてきやがる。
——ふん、ネコを舐めるなよ。なら、この高さから鮮やかに着地を決めてやるぜ。
「おいガキ共、見てな。おらよっ! ……ぐあ⁉︎」
しかしボクは空中で体勢を崩してしまい、地面に思い切り叩きつけられちまった。
「ゴ……ゴマくん! 大丈夫⁉ あらら、地面にめり込んじゃった」
「けほっ、けほっ! クソ! 重力の感覚が全然違うじゃねえか!」
痛てて、クソったれ。この二足歩行の身体じゃ、いつもの柔軟性がなくなってやがる……。
——緑いっぱいの森へ行ったり、川で水浴びしたり、そして〝ヒミツキチ〟と呼ばれてる洞穴で追いかけっこしたり……。
ボクらは時間を忘れ、ネズミのガキ共と思いっ切り遊んだ。
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ここまで読んでいただきありがとうございます。
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