第84話 万能執事【後半キリク視点】
「おい! あれ!」
「ああ、いま自分で名乗ったぞ」
「影武者じゃないのか!?」
ざわめき立つ民衆軍レジスタンス。
その中にいるカルム卿の使いの者たちも同様に焦りの色が表情に見え隠れしていた。
周囲に聞こえないように気を配ってはいたがこんな声が漏れていた。
「おいおい……段取りが違うじゃねえか」
「王女は連れ出してあとはコイツラと適当に暴れたら終わりじゃなかったのか」
「それよりまずいぞ! もうこいつらあれを殺す気満々じゃねえか!」
「落ち着け。こういうときのために魔法人形を借りてきたんだろ。最悪こいつら全員ぶちのめしてでも王女だけは連れて行く」
なるほど。
民衆軍レジスタンスに混ざる魔法人形を持った人間は三人。
正面からやりあっても勝てる範囲だ。
「仕方ない……」
本来ならこっそり手助けをするだけに留める必要があったんだが……。
「影武者だろうが関係あるか! 殺せ!」
「そうだ! 俺たちの怒りを知れ!」
ヒートアップした民衆軍レジスタンスの何人かは魔法が使えるようだ。
魔力が膨れ上がる。
「どうする!?」
「力づくでも止めてやる!」
「間に合わねえよ!」
カルム卿の使いは出遅れてもう魔法を止めることはできなくなっている。
「死ねえぇええええええええ」
無数の魔法が放たれ、王女キリクの元へ向かっていく。
その様子を姫様は……。
「なんで……抵抗もしないんだ」
黙って全てを受け入れるように、姫様は目をつむっていた。
◇キリク視点
「だめだったわね……」
賭けは失敗した。
私を利用するための人間たちがいたことは正解だった。
だが肝心の部分で、その人間たちはすっかり出遅れていたのだ。
「私に対する恨みの強さが現れているかもしれないわね」
そう思うと、不思議と笑みが溢れる。
自分の行いが跳ね返ってきたと思えば、何もこれは理不尽な死ではない。
王族とは生まれながらに特別な存在。
なにがあろうと、なにもなかろうと、ただそこにいるだけで価値を持つ。それが王家の人間だ。
だが……。
「特別なのは何も、良いことばかりじゃないわね」
全てを受け入れて目を瞑る。
最期のときを静かに待った。
だというのに、私の未練がありえない幻想を見せてくるのだ。
受け入れた気でいたというのに……。
「どうして……」
その執事は、無数の魔法を片手で受け止め、私の言葉に答える。
「私はお嬢様の執事ですので」
聞き慣れたはずのその言葉は、随分懐かしい響きで私を包み込んでいた。
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