第79話 アレリアの屋敷①【キリク視点】
アレリアの館に集まった民衆軍レジスタンス。
そのいつもと異なる殺気めいた気配を王女キリクはひしひしと感じ取っていた。
「なんなのよ……」
今日に限って屋敷の守りは手薄。そんな時に敷地の前に集まって抗議活動が始まっている。
「誰かいないの?! 今日はあまり刺激せずに追い払いなさい」
「ええ……そうしたいのですが……」
「なによ」
「いえ。少し気になることが……」
はっきりとしない執事代理の男キュレムにイライラしながらもキリクはその言葉を待った。
リィトがいなくなってから、キリクは決して執事を置くことはなかった。
世話役として父である国王が寄越した人間も何人かはすぐに追い返していたのだが、そのうち追い返すたびに質が下がることに気付いたキリクはこうしてキュレムを執事代理として置くことを決めた。
キュレムはキュレムで、元来の気弱な性格が傍若無人な王女キリクの評判によりさらに悪化しており、こうして度々キリクを苛立たせる悪循環に陥っている。
「ええ。どうやら連中は今日、武器を手にしているものもいるとか……」
「それはいつもと違うということね?」
「ええ、それはもう。ええ……連中のうち八割が……」
「八割!?」
キリクは頭を抑えてその事実を受け止める。
これはもう明らかな宣戦布告だった。
リィトが事実上国外に逃亡したことを受け、キリクの政治的役割はそのほとんどが機能しなくなっていた。
王女であるキリクは一応国のために尽くすことを求められており、書類仕事がほとんどではあるものの一定の権限とその監視を命じられていたのだ。
当然それまではその全てをリィトが一人で片付けていたのだが、その万能執事がいなくなって以降の杜撰な対応を見て、事実上キリクは謹慎処分としてこのアレリアの屋敷に押し込まれている。
その際国王は心配して護衛を多く送ったんだが、リィトがいた頃の感覚が抜けないキリクは自身を監視しているようだと突き返したのだ。
「まずいわね……」
爪を噛んで考え込むキリク。
今はもうその姿を「はしたないですよ」と嗜める執事はいないのだ。
「いま屋敷にいる人間は?」
「80名です」
「外の連中は?」
「それがどんどん数が膨らんできておりまして……すでに数百は集まっているかと」
キリクが顔を歪める。
こうなったときのための準備は進めてきたのだ。
父には警護を増やすよう依頼を出し、周囲の使用人たちもなるべく戦闘のできる人間を集め、もしものときの脱出経路と逃げる先の確保に動こうとしてきた。
だが全て、間に合っていないのだ。
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