第77話 思わぬ加勢

「貴様……!」




 苦い表情で睨みつけることしかできなくなったカルム卿。


 だがその目は全く死んでいなかった。




「よかろう。身の程をわきまえぬ愚者め……力だけではどうとでもならんということを教えてやろう」




 そう告げた直後、部屋中に無数の魔法陣が展開される。




「なんだこれっ⁉」


「アウェン! ギークはもういい! 臨戦態勢を!」


「なっ……わかった。だけどリルトは……」


「大丈夫」




 無数の魔法陣、その正体に目星はついている。


 ギークを解放して剣に手を伸ばしたアウェンを見て、こちらも準備を整える。




「帝国が誇る最高の技術! とくと味わって死ぬが良い!」




 カルム卿が誇らしげにそう叫ぶ魔法の正体は、チェブ中尉のものと同じ、魔法人形。


 いや、その強化版と言えるかもしれない。




 チェブ中尉は個人の【スキル】としてあの魔法人形が使えたが、帝国内であのスキルを兵器化する研究が進んでいる。


 そこには莫大な利権をめぐる貴族同士の関係性と、熾烈な派閥争いが繰り広げられていた。


 いくつかある派閥のうち、二大派閥の一つがこのカルム卿。もう一つはグガイン中将のものだった。




 グガイン中将は実用性を求め、チェブ中尉自身を使って、あるいは新人の兵を使い、戦場でその運用方法を模索しながら研究を進めていた。


 一方カルム卿は……。




「私の作り上げた最高の作品たちをその目で見られるのだ。ありがたく思うが良い」




 魔法人形の性能を強化する方向に研究を進めていた。


 そしてその研究成果がいま、魔法陣から姿を見せた。




「おいリルト……」


「うん。強いよ……」




 魔法陣から現れたのは七体の魔法人形だった。


 チェブ中尉の黒い魔法人形とは違う、一体一体が甲冑を着こなす洗練されたものだ。


 そしてその見た目に恥じぬだけの性能を持っている。


 おそらく戦場で数十の兵士なら圧倒できるだけの力を持つ。運用次第では一体が数百ずつの敵を倒し、しかもチェブ中尉と同じであれば何度も再生するという強みを持つ。




「死ね!」




 拘束されたままではあるが、余裕を取り戻したカルム卿が魔法人形たちに指示を出す。


 勝てるとはいえ何度も再生するとなれば持久戦、時間がない中だ。なるべくなら避けたかったが……。




「やるしかないか」




 構えを作り剣を手にした俺の前に、魔法人形の一体が襲いかかる。




 ──ガキン




 だが、それを止めたのは俺ではなく……アウェンでもなく……。




「行け。お前にはやるべきことがあるのだろう!」


「ギーク!?」




 何故かギークが俺の前に立ち、魔法人形の一撃を食い止めていた。

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