第46話約束
「ギルン少将……私は反対です! どうして特別クラスにも選ばれた優秀な人間をいきなり死地に送り込むのですか!」
「メリリア殿下……あまり大声でそのようなことを話されては……」
「ですが……!」
南方戦線への遠征がいよいよはじまった。
ギルン少将は当初の予定通り一万の兵を率いて訓練校をでている。他にも訓練校から将官クラスが何名か隊を率いて出てきていた。
道中、中継地点のリング城までは、授業の一環として俺たちはギルン少将直属の部隊として動くことになり、今はなぜかギルン少将と俺とメリリアという組み合わせになっている。
「一応魔法はかけておいたけど……」
「ありがとうございます、リルトさん」
出発してから、いや出発前からもずっと、メリリアは俺のケルン戦線行きに抗議し続けていた。
「はぁ……知っての通り帝国では厳しい戦場ほど待遇がよく、また志願兵の士気も高い」
ギルン少将が仕方ないという風に説明を開始する。
「ですからこんな、強制的に連れて行くなんて……」
メリリアの主張はこれだった。
激戦区には士気の高い志願兵だけが向かうはずなのに、なぜ、と。
だが答えはシンプルだ。
「志願兵だけで維持できるならそもそも激戦区になどならん。要するに志願して向かうのは一握りの将校だけだ。あとはこうして、そいつらが指名して連れて行くなり、自動的に振り分けられるなりだ」
「ですがまさにその将校候補として我々は……」
「まだ見習士官だ。クラス0のお前らに権限はない。建前上はな」
メリリアの言うことも正しい。
帝国としては貴重な戦力になりうるのが訓練校の特別クラスの生徒たちだ。
だから暗黙の了解として、いきなり死地に送られるようなことはなく、大切に育ててきていた。だがそれは明文化されたルールではない。
ギルン少将のいうように、実態は見習士官でしかないのだ。
「あそこは死地だ。それをあの男──チェブが志願し、自ら指名してこいつを連れて行くと言っている以上、すまんがなにもできん」
つまりそういうことだった。
「でしたらやはり私もそちらへ……」
「いや、メリリアはもっと活躍しやすそうな場所にいってほしい」
「どうして!」
「中尉と並ぶのは無理でも、俺を引き抜けるくらい戦場で出世してくれたほうがいいよ」
「それは……」
平時とは違うのだ。帝国の元来持つ実力主義の考え方は、戦場においてはより明確に機能している。
敵の指揮官クラスを倒していけば自然と、階級が上がって発言権もそれに伴って大きくなるはずだ。
「それまでリルトさんが生きている保証は……」
「アウェンもいるんだし大丈夫だよ」
チェブ中尉の指名は俺とアウェンだった。
貴族でないものをピックアップしたのか、他の意図があるかはいまいちわからないけどな……。
「なに。絶対に死ぬというわけじゃない。俺はこいつならうまくやると思うがな」
「保証がないことが問題なのです!」
「じゃあ約束するよ。必ず生き残るって」
実際の戦場なんて経験してないのだからわからないが、それでもメリリアを安心させたいと思った。
「約束です……破ったら私は貴方を……許しませんから」
「わかったよ」
何がこうまでメリリアをかきたてたのかわからないが、気に入られたことに悪い気はしない。
だったらせめてそれに報いられるように、頑張ってくるとしよう。
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