6.少女のために
鈍い激しい痛みを知覚してレオンは目を覚ました。
痛みに顔を歪めながらも身体を起こした。
自宅のベットだという事は直ぐに分かった。
ベットの側には心配そうなニコルの顔が見えた。
「レオン大丈夫?無理しないで。今ママ呼んでくるから」
ニコルは言うなりドアを開けて出て行く。
アデライドにレオンが起きた事を話していた。
アデライドも家にいたのだ。直ぐに寝室に入ってくる。
「頭は大丈夫?酷い怪我だったわよ。薬草練り込んだ薬しか塗っていないけど効果あったかしら?」
身体を起こして呻いているレオンの背中をさすりながら様子を確認してくるアデライド。
状況がまだ把握できていないレオンは呻きながら返事をする。
「まだ頭が痛い。最悪だ。突然後ろから殴られて意識が・・・・そうだ!クロエは?」
襲われた事を思い出したレオンはクロエがどうなったかを確認する。
アデライド達は沈んだ顔をしている。
それを見たレオンはなんとなく想像がついたようだ。
「いなかったという事か。ところで俺を運んでくれたのか?」
「いいえ。私達では運べなかったの。近くの男衆が寝ている所を起こして運んでもらったわ。丁度道端の石に頭を打ちつけたように倒れていたの」
二人の見る目に誤解があるかもしれないとレオンは思ったので誤解を解くために話す。
「俺はクロエに何もしていない。クロエと話をしている所で後ろから襲われたんだ。鈍器のようなモノで頭を殴られて意識がとんでしまった。クロエが誰かに捕まった声がしていたのは覚えている」
頭に包帯のようなものを巻かれているのを確認しながら、痛みのある個所を触っているレオン。
レオンの治癒魔法は自分に使っても効果がないのである。
話を聞いた二人は驚いた顔をしていた。
状況からレオンが何かを無礼な事をしてクロエを怒らせ突き飛ばされたところ、石に頭をぶつけたのだと思っていたようだ。
そして、クロエはレオンに怪我をさせた事に驚いて逃げてしまったのかと思っていたようだ。
村人達も同様の理解をしていたようで、クロエを攫った騎士達の思わく通りの理解になっていたようだ。
「え?それは村長を訪ねた騎士の仕業?」
アデライドはレオンの話に驚いていた。状況からの推測とレオンから聞く実態に差がありすぎるのだ。
そんなに早くつきとめられて襲われるとはおもっていなかったのだ。
「そうだと思う。王宮の騎士団以外にも特殊な技能を持った奴らもいたはずだ。クロエは王宮に連れ戻された」
ベットから抜け出しながらレオンは言う。アデライドは心配そうな顔だ。
クロエも心配だが、レオンの怪我は本人が思っている以上に酷かった。
「クロエは王宮の人なの?」
クロエとは話はするが過去の話は一切していないニコルが聞いてくる。
事がこうなった以上レオンはクロエの・・・六花の過去を少し話すべきだと思った。
それを聞くと危険が及ぶ可能性があるので念のため確認する。
「今から話す事は親しい人にも話してはいけない。そんな話をする。聞いたら最悪この村には暮らせないかもしれない。それでもいいかい?」
アデライドとニコルを見ながら確認する。
二人とも直ぐに無言で頷く。
暫く間を置くが二人の視線はレオンから外れない。
決意が変わらないのを確認したレオンは話を始める。
「今から言う事は推測も混ざっている。それでも限りなく真実に近いと思って欲しい。クロエは勇者だ。つまり異世界人だ。俺達の言葉が話せないのは異世界人だからだ」
レオンの言葉に二人は驚いたようだが、言葉が話せない事には納得が言ったようだ。
「勇者の役目は知っての通り魔王の討伐だ。訓練中に事故がありクロエは死にかけていた。偶々俺が助ける事が出来た。王城の奴らはクロエが生きている事を知って連れ戻しにやってきたんだ」
短めに簡潔にまずは説明する。
言葉の問題、見たことの無い素材の服。いずれも異世界人であれば納得はできたようだ。
「おそらくクロエがどこにいるかが分かる魔道具がクロエに埋め込まれていると思っている。それでこの村にやってきたようだ。村長への確認は見せかけなんだろ。探りを入れた程度だろう」
レオンは冷静に分析しながら話している。
「アデライドの家に残していたら、間違いなく家が襲撃を受けていた。その意味ではクロエが俺に同行してくれたのは良かった」
アデライド達は静かだった。間違っていたら自分がレオンのような目に遭っていた可能性があったのだ。
自分は怪我をしたがアデライド達が無事だった事を安堵しているのだ。
アデライドはレオンの気遣いに心が温かくなる。
普段は不愛想な所があるが、いざという時に頼りになるのはレオンのような男だと思った。
自分が好意を持ったのは間違いがなかったと確信していた。
レオンは静かに話を続ける。
「俺を襲ったのは王宮の騎士団だとは思うが、特殊な訓練を受けた騎士だと思う。使っている武器は鈍器だった。後ろから襲う事は普通の騎士はしない。俺はそのまま気を失って、クロエは攫われていった」
レオンは一度話を止める。
二人が状況を把握するのを待っていたのだ。
「クロエが王宮に帰りたいと、自ら望んだという事はないの?」
アデライドは最初にクロエが話した”城に帰りたい”という言葉を思い出したのだ。
それを聞いたレオンは痛みに耐えながら微笑んで否定する。
「それは絶対に無い。襲われる前に話をしていたんだけど、クロエは”一緒に住みたい”と言ってくれた。仮に望んで帰ったとしても、それは本心じゃ無い」
二人の目を見ながら力強く否定した。
二人の表情はその時は崩れていた。頼られているという事が分かったのだろう。
「クロエの王宮での生活は分からない。召喚される前の世界でどう暮らしていたのかも分からない。でも、この村で暮したいと言ってくれた。俺はそれを叶えてあげたい」
固い決意の目をしたレオンは断言した。
クロエとレオンがそのような話をしていた事を知り、二人も強く頷いた。
「でも、どうやって助けるの?レオンは兎も角私達は只の村人よ」
「二人は村に残っていて欲しい。クロエは俺だけでなんとかしてみる。恐らく一人の方が動きやすい。それで俺はどのくらい意識を失っていた?」
「え、そうね。五時間くらいかな。まだ朝にはなってないわ」
「思ったよりは寝ていなかったんだな。それは良かった。連中は馬車で移動しているはずだから、王宮に入る前には間に合うかな」
レオンは追跡方法を考えているようだ。相手の行き先は分かっているのだから先回りをしようと考えているのかもしれない。
「徒歩で馬車に追いつけるの?」
ニコルはレオンの追いつけるという言葉が分からないようだ。
「知っていると思うけど馬車は悪路は走れない。王宮からこの村までの道は俺は知っている。馬車が通る道は真っ直ぐな道ではないんだよ。それに道も良くない。早足にはなるが直線で歩けば馬車より早く着くんだ」
レオンはこともなげに言う。
馬車が通れない道は起伏が激しく悪路である可能性が高い。それを直線でいくのは無謀な事だとアデライドは思ったのだ。
「簡単に言うけど簡単ではないよね?」
「まぁ、なんとかなるよ。一人のほうが動きやすいというのはそういう意味でもあるんだ」
「本当に大丈夫なの?クロエも心配だけど、あなたはもっと心配だわ?頭の怪我は軽傷ではないのよ」
アデライドの声が強張っている。
倒れているのを見ていたのだ。相当な出血があったのを見ていた。生きていただけでも奇跡のようなものかと思ったのだ。
「道中で回復させながら追いかける。俺よりもクロエの方が心配だ。彼女は年頃の女性だ」
そこで、レオンは口を閉ざす。それ以上は女性達に向かって言う事ではないからだ。
王宮の騎士は男だ。いくら勇者とは言え女性を目の前にして平静を保てるとは思えなかった。
色々な意味での暴行をする可能性が高いと思っている。
その手の話は冒険者時代にレオンは良く聞いていた話だったのだ。尤も毛嫌いする行為であった。
万が一があったら、クロエの精神は保てないかもしれない。
最初に会った時の精神も結構ギリギリだったと思っている。
良くない推測ばかりしているレオンではあるが、それ程クロエに関心が向いているのであった。
自分でも気づいていないが一人の女性にこれ程執心するのは珍しい事だった。
アデライドはレオンの言っている意味を理解した。
確かに全て無事に助けないといけない。
自分達は役には立たない。せいぜい祈って待っているだけだ。
「わかったわ。私達は待っている事しかできない。クロエの無事も大事だけど、貴方の無事も大事なのよ。そこは忘れないでね」
アデライドは暖かい目で見ている。
レオンは無言で頷いている。
二人の大人の世界を羨ましそうに見ているニコルだった。
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