第20話:甘酒
私が神に御礼をしなければ言ったことは、瞬く間に国中に広がりました。
天罰の恐ろしさと、神の加護の素晴らしさ、その両方を誰よりも身にしみて感じているのが、今生き残っている人達です。
当然ですが、必死で豊穣御礼を始めてしまいました。
迂闊な事は口にできないと、心から反省しましたが、これでよかったのだとも思いました。
「せいじょさま、これとてもあまくておいしい!」
幼い孤児が満面の笑みを浮かべて甘酒を飲んでいます。
米と米麹で作った甘酒ですから、酒精は全く含まれていません。
だから子供にも安心して飲ませてあげることができます。
突然作り方が心の中に浮かんだ、神様から授かった飲み物です。
「そう、これはね、甘酒という神様から贈り物なのよ。
これからは毎日飲めるからね」
「はい、ありがとうございます、せいじょさま、かみまさ」
毎日お兄さんお姉さんに教えられて成長しているのでしょう。
徐々に私や神様に感謝の言葉を口にするようになっています。
これだけ喜んでくれれば、毎日甘酒を造って神様に捧げ、その後はお下がりとして、全員で公平に分けて飲むように指導したかいがあります。
甘味の少ないこの国では、これはとても贅沢な事です。
「それでは非常食の備蓄が少なくなってしまいます……」
神殿長は最初そう言って反対しましたが、その声はとても小さかったです。
私に反対の意見を言うなど、恐れ多いと分かっているのです。
それでも、大将軍として軍政を敷いてこの国を治めているのは神殿長です。
何かの場合に備えて食糧を少しでも多く蓄えねばならないと、あえて反対意見を口にしたのでしょうが、私が神命ですと言ったら直ぐに従ってくれました。
「では、今年の収穫に三分の一を食糧に、三分の一を備蓄に、三分の一を酒や甘酒に使わせていただきます」
私の命を聞いた神殿長は、急いで各屯田地に方針を伝えさせました。
神の恵みを受けた豊穣は、この国の例年の三倍の収穫になっています。
普通に食べても三分の一しか消費しないのです。
何かの時のために備蓄に回すにしても、保存できる期限には限界があります。
でもお酒にして大瓶で熟成させれば、数十年、いえ、数百年保存できます。
神が教えてくださったのですから間違いありません。
「せいじょさま、このまましあわせにくらせるの、となりのくにはおそってこない」
不意に幼い孤児が聞いてきました。
大人達が、いえ、孤児のお兄さんお姉さんが不安を口にするのを聞いていて、本当の意味は分からなくとも、みなが不安に思っている雰囲気を感じ取ったのですね。
それがこの子も不安にさせてしまったのでしょう。
ここは全てを話し、安心させてあげなければいけませんね。
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