第183話 偽物と仇敵

 「危ない、伏せろ!」

 俺は【ドミー軍】の面々に告げた。

 といっても、どの道伏せる以外の選択肢を誰も取れなかっただろう。

 それほど振動は急で、激しかった。

 

 巣の天井にひびが走り、こぼれた砂がさらさらと流れ落ちる。

 不気味な地響き音も響き始めた。


 そしてー


 


 ついに天井の一部が崩落を開始する。

 部屋の入り口にいた俺、ライナ、ミズア、シオの丁度真上だ。

 

 「ライナ、ミズア!」

 「きゃっ!」

 「ドミーさま!?」


 とっさに、後ろにいた女性2人を抱きかかえる。

 このまま退避をー


 無理だ。

 さすがにそこまでの身体能力はない。

 このままでは、3人とも潰される。

 

 「2人とも舌を噛むなよ!【ドミー軍】の指揮はライナに任せる!」


 【ドミー軍】のいる部屋の奥に、2人を放り投げた。

 次は、【シオドアリ】の少女。


 「シオも早くー」


 


 その時、俺の視界は轟音と共に暗闇に包まれる。



 そして、何もわからなくなった。

 


==========



 「…イナ、ライナ!!!」

 

 視界がぼんやりとした中で、誰かの呼ぶ声が聞こえる。

 私の大切な友人の声だ。

 確か私と一緒に部屋の奥に投げ飛ばされてー


 誰に?


 「そうだドミー!」

 目を覚ますと真っ暗闇だった。

 

 ここは【シオドアリの巣】の奥深く。

 外にいるアマーリエたちから遠く離れ、孤立した空間。

 

 「ライナ!無事でしたか。良かった…」

 暗闇で良く見えないが、ミズアが近くにいるらしい。


 「【グリント】!」

 握りしめていた【ルビーの杖】で明かりを灯すと、ミズアの姿が見えた。

 少し土に汚れているようだが、怪我はないようである。


 ただ、周囲は土の壁に囲まれ、身動きできる状態ではなかった。


 「私のことなんてどうでもいい!ドミーはどこ!?」

 「落ち着いて聞いてください」


 ミズアは暗闇の中で、腹が立つぐらいに冷静だった。


 「恐らく、巣の崩落でドミーさまとミズアたちは分断されました。まずは【ドミー軍】と合流をー」

 「そんな時間はない!」

 

 ドミーの下に走り出そうとしたけど、ミズアに羽交い絞めにされた。

 

 「放してよ!」

 「ドミーさまは【ドミー軍】の指揮をライナに託されました!」

 「そんなことどうでもいいじゃない!私たちがドミーを助けるんだ!ミズアが嫌なら、私 1人でも行く!」


 不意に腕の力を緩められた。

 そうか、ミズアも分かってくれたんだね。


 「さあ、一緒にー」




 右頬に熱い感触。




 平手打ちされた。

 


==========



 「ミズア…?」


 叩かれた頬が、じんじんとしている。

 

 「ごめんなさい、ライナ…」


 ミズアは涙ぐんでいるが、涙は流さない。


 「あなたの気持ちは、ミズアも痛いほど分かります。でも駄目なのです。ドミーさまはライナを【ドミー軍】の臨時指揮官に命名しました。ライナが責務を果たさなかったと知れば、ドミーさまも悲しみます…」

 「…!」

 「ドミーさまは必ず生きています。だから、今は責務を果たすときです」


 カクレンを取り逃した時のことを思い出す。

 あの時ミズアは取り乱していて、私はそれをなだめていた。

 今回は、立場が逆になっている。

 

 「…ごめん。私が馬鹿だった」

 「いえ、ミズアもかっとなってしまいました」

 「ううん。それは私のためにやったことだって分かってる。いいの」


 落ち着きを取り戻すと暗い考えが頭をよぎり、涙が溢れそうになるのを感じた。

 でも、今泣くわけにはいかない。


 「【ドミー軍】の面々を集めましょう」

 「はい!」





 「ここにいたのか」


 その時、誰かの声が私たちに呼びかける。




 「時間がない。ここから逃げるぞ!」


 ドミーだった。

 

 

==========



 (どみーさま。おきてください!)


 暗闇の中で目を覚ます。

 土の中に閉じ込められているようだ。


 だが、巨大な生物が盾となる形で覆いかぶさっており、その足下にできた空間で辛うじて生存している。


 「シオ!無事か!」

 (だいじょうぶです。いまあなをあけます)


 土を掘る音が聞こえ、シオが俺の頭上から移動した。

 俺も続くと、【シオドアリ】が作り出した通路に出る。


 このあたりは崩落を免れていたらしい。

 外部からうっすら差し込んでいるらしく、シオの黒々とした姿がよく見えた。


 (しおどありもありのなかま。このていどはへっちゃらです)

 「流石だな、ありがとう。…シオ、【ドミー軍】と合流したい。ライナが指揮を取ってくれているはずだ」

 (あなをあけることはできますが…かなりじかんはかかります)

 「構わない」


 だが、その時間は無かった。


 「ギュギュ…」

 「ギュギュ!」

 「ギュギュギュ?」


 【シオドアリ】とは違う、別種の生き物の鳴き声とともに、数匹の生物がその姿を現す。


 姿形は【シオドアリ】と似ているが、体色は紫。

 こちらに対する警戒心を隠さず、殺意を向けていた。


 「なあシオ。まさかあれって」

 (…はい)



 シオは嫌悪感を滲ませながら言った。

  (げとありです)


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る