感情の手入れ
トーカ
移ろい褪せる
感情がぼやけ、ドロドロとなって確立されなくなる。
そんな中でも思考は止まることを知らない。
時計を見れば、既に結構な時間を消費していた。
立たなければならない。
そう。
私は立たなければならなかった。
わずか5分しか立っていられない私。
立ち上がれば眩暈で倒れることもある。
だけど。
それでも。
今この瞬間、その一瞬。
私は全力で立つことだけが願いだった。
何で立てないんだろう。
心と体がズレる。
曖昧で穏やかな境界が、はっきりと明確な、それでいて露骨にズレを強調する。
精神壊滅。
私はただただ思考する自身を呪った。
私の中で起こるそれは、日に日に大きくなり、大切な何かを消し去ってしまった。
そうしたら、全てが思い通りになった。
熱を出して学校を休みたいって思ってしまった。
その通りに、私は熱を出して学校を休むことになった。
違う。本当は違う。
帰りたくなかった。
本当は、そんなこと願ってない。
子どもが、お父さんお母さんなんて要らないって言ってしまった。
そんなこと言って、消える存在じゃない。
だけど、消えてしまった。
まさにそれだった。
思考は単純となり、日に日に体の調子は悪化していった。
私が思い描くように悪化していった。
きっと、そんなことを願ってしまった私への罰なのだろう。
感謝していなかったのかもしれない。
自分を責め、何が何でも責める。
布団の中で暴れ、目から涙が溢れる。
それが、私の思考によって起こったことなのか。
衝動的なものなのか。
それさえも分からなかった。
演技かもしれない。
そう演じることで、自身が狂っている人間として、普通じゃないと確立させて。
安心したかったのかもしれない。
きっと自分は普通じゃない。
だから、こうなったって別に良い。
そんな風に、自分を何かと定義づける事によって、
私は実物から逃げたかったのだろう。
健康って、体調が良いって、熱が平熱って、怠くても朝起きることができるって。
それって凄く、奇跡のようなものなのだと、私はただただ実感した。
やがて胃や腸もおかしくなり、薬の量が増える。
もう、心は波を立てなかった。
心残りなんて無かった。
きっと、もうそれに気づけただけで私は幸せだったのだ。
自分が恵まれていて、自分が本当は健康な体となっていて、もうすでに立つことができて。
そんな事実を私は既に認識していた。
それなのに、私は逃げていた。
立てない、起きれない、考えられない。
そんな風に、自分はおかしいと決めつけるように日々を過ごしてしまう。
狂ってなんかいない。普通に会話できる。街を出歩くことなんて簡単。
それなのに。それなのに逃げてしまう。
何故だろうか。
自分が分からない。
自分を分かってあげたいのに。
だけど、分からなかった。
きっと甘えているだけ。
きっと逃げているだけ。
目をそらして現実逃避をしているだけ。
しかし、健康な体。豊かな感情。正常な思考回路。
どれをとっても、不幸になる要素なんて無いはず。
だけど自分は拒んでしまう。
唯一になりたかった?弱者として生きたかった?
私は何を望んでいる。
狂った自分を演出して。
ただただ、自分を責める毎日。
何も悪いことしてない。
何も目をそらすような事してない。
なのに責める。
自分を責めたいのだろうか。
自分を立たせたくないのだろうか。
心と体のバランス。
複雑なのに単純に見える。
周りからの視線。
常識。
普通というキーワードが私を責め立てる。
ただ無関心だった。
「もういいや」
ただそれだけを呟き、私は面倒くさそうに立ち上がった。
その瞬間
私は私を取り戻した。
暖かった。
幸せだった。
立ち上がった。
それだけで私は、涙が止まらなくて。
嗚咽も収まらなくて。
それでも、少しだけ自分を認めることができた。
きっとこれが、心と体のバランスが取れた状態なんだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます