第22話 はくじょう

 帰国していったヴラディスラフが当面の生活費として渡してくれたのは、腰を抜かしてしまいそうになるほどの大金だった。

 当面は遊んで暮らせそうだが、金貨と銀貨の山は幾つかの瓶の中に分けて入れて、それらを家中に隠した。必要な時に必要な分だけ取り出して、大事にお金を使っていこうと決めたフェレシュテフは仕事を探しに町の中へと繰り出して行った。

 人の出入りの多い港町でマツヤには多くの従業員を抱える会社や店が多い。フェレシュテフは壁に求人の貼り紙をしている店を一軒一軒回って、自分を雇って貰えないかと交渉していった。中には過去に一夜の相手をしたことがある男性が経営している店もあって、随分と気まずい雰囲気になったりもしたが、其処とは別の食堂で雇って貰えることになった。

 フェレシュテフを雇ってくれたのは、人が良さそうな初老の夫婦だ。彼らが経営している、”アパーム・ナパート”という店名の食堂が彼女の職場だ。その食堂は港に近い場所に店を構えている為、昼時になると漁師や船乗り、貿易会社の従業員などがやって来て、店の中はてんやわんやになる。忙しい時間帯とそうではない時間帯との仕事量の違いに、フェレシュテフは店主たちや他の従業員についていくのに必死だったが、日が経つにつれて少しずつ要領を得てきた。




 そうして半月程が経過した或る日。この日は週に一度の休日で、フェレシュテフは朝早くから外に出かけていた。

 向かった先の”ヴィクラム商会”で、フェレシュテフは受付にいる蛇の亜人ナーガのカドゥルーに、チャンドラが出勤しているかどうかを尋ねる。運が良いことに、彼は今日が休日だったらしい。

 そのことを教えてくれたカドゥルーに礼を言って”ヴィクラム商会”を後にしたフェレシュテフが市場によって買い物をして、帰宅した後は菓子作りに没頭した。


(久し振りにチャンドラさんに逢える……)


 出来上がった山盛りの揚げ菓子モーダカは、粗熱をとってから大皿に移し、零れ落ちないようにと大きな布で包んだ。まだまだ日差しの強い中、フェレシュテフはもう一度出かけていたのだった。






**********






 チャンドラが住んでいる平屋があるのは、マツヤの町の外にある森の入り口の辺り。其処へ向かうには亜人の居住区を通っていく必要がある。

 ほんの数ヶ月だけだが、生活の拠点としていた亜人の居住区。この場所を離れていって一月も経っていないというのに、何故だか懐かしく感じられるのが不思議だ。初めてやって来たかのように、フェレシュテフはきょろきょろと首を動かしながら、道を歩いていた。


(あ……っ!)


 あちこちに動かしていた視線を真っ直ぐに戻すと、様々な亜人の子供たちに囲まれて談笑しているチャンドラを見つけた。少しずつ近づいていくにつれて、フェレシュテフの鼓動は早くなっていく。

 子供たちのうちの一人、蛇の亜人ナーガのタクシャカが誰よりも先にフェレシュテフに気がついて、手を振って来てくれた。それに気がついた他の子供たちも元気いっぱいに手を振ってきてくれる。フェレシュテフも笑顔を浮かべて手を振り返すが――チャンドラは対照的に仏頂面になり、訝るように彼女を見てきた。


(どうかなさったのかしら……?)


 何やらチャンドラの様子がおかしい。そのことを気にかけつつ、彼女は彼らの許までやって来た。次々に挨拶をしてくれる子供たちに挨拶を返してから、フェレシュテフは改まってチャンドラを見上げた。とても高いところにある彼の顔は、仏頂面のままだった。


「お久し振りです、チャンドラさん」

「……ああ」

「あの、すっかり遅くなってしまいまして、申し訳ありません。これは先日の御礼の御菓子です。どうぞ、召し上がってくださいませ」


 沢山の揚げ菓子が入っている包みを差し出すが、チャンドラは一向に受け取ろうとしない。一体どうしたというのだろうか。甘い菓子に目がないらしい彼は、いつもであればささっと菓子を受け取ってくれるというのに。

 体調を崩したりでもしているのかと心配になったフェレシュテフが再びチャンドラを見上げる。彼は冷たい目で、フェレシュテフを見下ろしていた。


「いらねえ」

「え?」

「礼はいらねえって、前に言っただろ。見返りが欲しいなんて言った覚えもねえ。だから、それは持って帰れ。今後はもう、俺に関わるな。……じゃあな。ほら、行くぞ、ガキども」


 チャンドラはフェレシュテフを見ようともしないで、戸惑っている子供たちを連れて、その場から去っていこうとする。彼に拒絶の意を示されたフェレシュテフは凍り付き、呆然として立ち尽くす。追いかけて理由を尋ねたいのに、彼女は足を動かせなかった。

 良好な関係だったはずの二人の様子がおかしいことに困惑している子供たちは、チャンドラとフェレシュテフを交互に見ながら、彼に何事かを訴えているようだ。然しチャンドラは聞く耳を持たず、子供たちの言葉を黙殺して、ゆっくりと歩いていく。

 子供たちの中で最もフェレシュテフに懐いているタクシャカが蛇の歩みを止めて、振り返る。フェレシュテフを見たタクシャカはぎょっとして、声を上げた。


「お姉ちゃんっ!?」


 タクシャカが突然大きな声を出したので、チャンドラと他の子供たちが反射的に振り返った。彼らも同様にぎょっとして、動きを止める。立ち尽くしているフェレシュテフが大粒の涙を流していたのだ。慌てて近寄ってきたタクシャカが恐る恐る彼女に声をかける。


「どうして泣いてるの、お姉ちゃん?どこか痛いの?」

「え……?」


 タクシャカに言われて初めて、フェレシュテフは自分が涙を流していることに気がついた。

 どこが痛いのか。痛いのは、心だ。想いを寄せているチャンドラに拒絶の意を示されたことが悲しくて、心が痛んで、涙が勝手に溢れてしまっているのだと、彼女は理解した。


「だい、じょぶ、なんでも、ないわ……」


 おろおろとしているタクシャカを安心させようとして言葉を紡ぐが、声が震えてしまう。空いている方の手で少し乱暴に涙を拭ってみるが、涙は止まろうとはしてくれず、笑顔もぎこちないものしか浮かべられない。

 フェレシュテフを見つめている子供たちの表情が曇っていくばかりだ。


「チャンドラおじちゃんがフェレシュテフお姉ちゃん泣かせた……」

「母ちゃんが言ってたぞ、女を泣かせる男はサイテーだって」

「「「おじちゃんサイテー」」」

「声を揃えて人のことを最低だって言うな、ガキども。傷つくぞ、俺が。……おい、フェレシュテフ。何でいきなり泣き出すんだよ……!?」

「ご、めん、なさい……」


 泣き止まなければと思えば思うほど、どういうわけか涙が溢れてくる。「余計に泣かせてる、サイテー」と責められているチャンドラは動揺のあまり、驚きの行動に出た。彼は突然フェレシュテフが持っていた包みを奪うなり、偶々近くにいた鰐の亜人マカラの少年スシェーナにそれを押しつけた。


「お前ら、菓子これやるから、遊んでやるのはなしだ!!じゃあな!!!」


 声を押し殺しながら泣いているフェレシュテフを荷物のように肩に担いで、チャンドラは脱兎の如く、亜人の居住区を駆け抜けていってしまった。その慌しさに、足の速さに、その場に残された子供たちや偶然通りかかった亜人たちは呆気に取られている。


「……チャンドラおじちゃんがあんなに慌ててるの、初めて見たわ」

「わたしも」

「ぼくも」

「あー……とりあえず、御菓子食うか?貰っちゃったし……」

「それは賛成だけど……お皿とかどーすんの?」


 菓子を食べ終わった後、皿と布巾と大きな布をこの場においていく訳にはいかないとは思うのだが、どうしたら良いのだろうか。子供たちは頭を悩ませるが、菓子を食べているうちにそのことを綺麗に忘れ去っていった。






**********






 フェレシュテフを連れ去っていったチャンドラがやって来たのは、自宅近くの森の中だった。他人の目を避けようとして脇目も振らず走った結果、どういうわけか此処に辿り着いていたという次第だ。僅かに上がっている息を整えながら、チャンドラは肩に担いでいたフェレシュテフを地面の上に下ろしてやる。彼女は嗚咽を漏らさないように唇を噛み締めながら、ぽろぽろと涙を零していた。

 連れて来たのは良いものの、彼女の扱いに困り果てたチャンドラが溜め息を吐く。それを耳にしたフェレシュテフは身を強張らせた。チャンドラが怒っているのだと思ったのだろう。


「どうして急に泣き出すんだよ。驚くだろ……」

「ごめん、なさい、私、チャンドラさんに、嫌われて、しまうようなこと、を、してしまったのだと、やっと、気付いて……」


 チャンドラに担がれている間、フェレシュテフは彼に拒絶された理由を探していた。思い当たったのは最後に彼に逢った日の、別れ際の口付けだった。チャンドラが女性をあまり好ましく思っていないことを知っていたはずなのに、湧き上がった衝動のままに行動してしまったことを、彼が嫌がることをしてしまったのだと理解して、フェレシュテフは恥ずかしくて、申し訳なくて仕方がない。ただ俯いて泣くことしか出来ていない自分が情けなくて、どうしようもなかった。


「……あんた、どういうつもりで俺に……あー……口付けなんかしてきたんだ?」


 高いところで見下ろしていると彼女を責め立てているような気がするので、チャンドラはしゃがみこんで、彼女と視線を合わせる。泣きじゃくる子供に語りかけるように、出来るだけ、優しく聞こえるような声音で彼女に尋ねた。


「私は、チャンドラさんを、お慕い、しています。その気持ちが止まらなくなって、貴方に触れたくなって、それであんなことを……。御免なさい、嫌な思いを、させてしまって……」

「……別に、嫌な思いは、してない」


 今日に至るまでの間、チャンドラは悶々としながら考えていた――若しかしてフェレシュテフは自分のことを異性として見ているのだろうか、と。その予想は合っていたのだと判明した今、チャンドラは物凄く困っている。

 フェレシュテフのことを嫌いになったから拒絶をした訳ではなかった。彼女からの口付けを嫌だと思わなかったということは、彼女のことを好ましく思っているのではないか、特別扱いしているのではないかと怖くなってきたチャンドラは深みに嵌る前に、彼女を突き放したのだ。距離をとっているうちに、自然とお互いのことを忘れていくだろうと想像して。その方が両者の為になるのではとチャンドラなりに考えたのだが――まさか往来でフェレシュテフに泣かれるとは思ってもみなかった。


「あんたは難儀な女だな。どうしてよりによって……女嫌いの亜人の男を好きなったりするんだよ」

「っ、ぐすっ、御免なさい……」


 人間の男性に恋をしたのであれば、何も問題はなかっただろうに。フェレシュテフは気が利く方だし、料理も上手いし、人間の感覚で言うなれば恐らくは美人の部類なのだろう。以前に市場で出会した時に、道行く人間の男たちが彼女を意味深長な目で見ていたので、チャンドラはそのように感じていた。そんな彼女に好かれて、悪く思う男性は恐らくはいないだろうとチャンドラは思っている。難点といえば、娼婦をしていたことくらいだろうか。だが、そんなことに頓着しない男性もいるはずだ――チャンドラのように。


「フェレシュテフ」

「……は、い」

「あんた、人間と亜人は番に……結婚っていうやつが出来ねえのは知ってるよな?人間と亜人が男女の仲になることは忌み嫌われてるって知ってるよな?そもそも俺が女嫌いだってことも知ってるよな?」


 チャンドラの問いかけに、彼女は頷いて答える。涙を堪えようとしている彼女がいじらしく見えて、チャンドラは困り果てる。


(無理だと分かってて、俺が好きだって言うのかよ……)


 思わず「変な女だな」と呟いてしまったチャンドラは首の後ろを掻きながら、深く息を吐いた。彼女に異性として好かれているのだと分かって、何一つとして嫌だとは思わない自分に、彼は内心で驚いている。ああ、もう、どうしよう。彼は頭の中で、ぐるぐると考えを巡らせる。

 チャンドラの様子に気がついていないフェレシュテフは肩にかかっているサリーを使って雑に涙を拭い、大きく息を吸って、ゆっくりと吐いて、自らを落ち着けようとする。そして彼女は、ぽつぽつと話し始めた。


「気がついたら、貴方のことばかりを、考えるようになっていました……」


 切っ掛けの一つとしては、初めて出会った時にチャンドラにぶっきらぼうながらも優しく扱って貰えたこと。性欲の捌け口として扱われることが多かった日々の中、彼の行動はフェレシュテフには新鮮に映ったのかもしれない。それからは何かしらの機会に彼に出会うことがあり、その度に彼のささやかな優しさに触れて、それを嬉しく思ったことが恋心に発展していったのかもしれない。

 チャンドラへの恋心を自覚したフェレシュテフは戸惑った。自分は人間で、チャンドラは虎の亜人ドゥン。思いを告げたら、彼を困らせることしか出来ないのだろうと、フェレシュテフは理解していた。けれども、チャンドラへの思いを消すことが出来なかった。

 礼と称して、作りすぎてしまったと言い訳をして、菓子を作っては彼の許へ向かっていた。一緒に菓子を食べることで、彼の傍にいることで満足しようとしていた。それだけで充分だったはずなのに、あの時、押し留めていた想いが溢れて、暴走してしまったのだ。


「貴方が仰るように、私はもう、貴方に関わらない方が良い、のだと、思います。も、もう、貴方に近寄ったり、声をおかけしたり、しません。でも、貴方を想うことだけは、許して、ください……っ」

「……出来るか、この莫迦っ」


 フェレシュテフの細腕を掴んで引き寄せて、チャンドラは彼女の唇を奪う。驚いたフェレシュテフは思わず逃げようとしたが、彼女を逃がすまいとして、チャンドラは口付けを深くしてきた。人間のものよりもザラザラしているチャンドラの舌が、怯えているフェレシュテフの舌を捕える。互いに触れ合っているのが心地良くて、フェレシュテフもチャンドラも頭の中が痺れていくような感覚に捕らわれる。

 強張っていたフェレシュテフの体から力が抜けていくのを感じとったチャンドラは、そこで漸く彼女を口付けから解放した。


「こら……何で逃げようとするんだよ……」


 拗ねた表情をしたチャンドラに問われたフェレシュテフは充血している目を再び潤ませて、顔も首も耳までも真っ赤にして震えている。互いの唾液に濡れて光る唇を両手で覆い隠して、彼女は彼を見つめた。


「お慕いしている男性から、口付けをされるのは初めてで、驚いてしまって……」


 男性と口付けするのは初めてではない。娼婦をしていた頃は、一夜の相手とよくしていたものだ。けれども想いを寄せている相手からの口付けは経験がなく、嬉しいのと同時に、いや、それ以上に恥ずかしくて堪らなかった。瞬きをすると、留めていることが出来なくなった涙が溢れた。チャンドラの大きな手が彼女の頬に触れてきて、親指でそっと涙を拭ってくれた。


「……なあ、俺のどこが好きなんだよ?」

「優しい、ところです。笑顔も、素敵です。私の前では、あまり笑顔を見せてはくださらないのですけれど……」


 子供たちと遊んでいる時や、ふとした時に見せるチャンドラの笑みをこっそりと見つめるのが好きなのだと、フェレシュテフは微笑みながら答える。チャンドラは照れ隠しの仏頂面になり、気まずそうに目を逸らした。


「……あのな、フェレシュテフ。うるうるした目で俺を見つめてくるな」

「え?」

「何かある度ににこにこ笑うな、頬を染めるな。俺の言い方がきついんだろうけど、あんまりしょんぼりするなっ。……一々可愛いんだよ、あんた、くそ……っ」


 女嫌いを公言している自分がどうしてフェレシュテフを自宅に招き入れているのか、困っている彼女を放っておけず、ついつい世話を焼いてしまうのか。その答えは、鈍いとしか言いようのない自分の心の中にあった。いつの間にか、フェレシュテフが自分の心の中に住むことを許していたのだ。


「チャンドラさんは、私のことを嫌ってはいらっしゃらないのですか……?」

「嫌ってるなら口付けしたりしねえだろ、傍に寄ったりもしねえよっ。……ああ、だから、しょんぼりするなっ!あー、何だ、フェレシュテフのことを気に入ってるんだろ、俺は。いや、その、好き……なんだろうよ……」


 その気持ちを自覚し始めて、恐れを抱いたのが比較的最近のことなので、「好きだ」と言い切れない自分が情けない。チャンドラはちらりと目を動かして、フェレシュテフの様子を窺う。彼女は頬を染めて、うっとりとした表情でチャンドラを見つめていた。


(だから、反応が、いちいち、可愛いんだよ……っ)


 このように思ってしまうということは、完全にフェレシュテフに参ってしまった証拠なのだろうなとチャンドラは悟った。まさか自分がこういったことになるとは思ってもみなかった。観念したチャンドラは溜め息を一つ吐いて、挑むようにフェレシュテフを横目で見つめる。


「……周りの連中には絶対に理解されねえぞ。人間と亜人が番うことは侮蔑の対象になるってことだ。俺と番うと盗人みてえに、こそこそと隠れなくちゃならなくなるだろうな。だが、俺は隠し事が下手だから、直ぐにバレるぞ。というか、亜人には匂いで直ぐに分かっちまうから、隠しようがねえ。だから、この町にはいられなくなるだろうよ。それでもフェレシュテフは……俺が良いって言うのか?考え直すなら今の――」


 彼の言葉を遮るように、今度はフェレシュテフが彼の唇を奪う。チャンドラは驚いて反射的に身を強張らせはしたものの、彼女の唇を貪ろうとして――逆に彼女に翻弄されることになった。フェレシュテフの方が、一枚も二枚も上手だった。


(やばい、立つ……)


 久方振りに湧いてきた感覚にチャンドラは戸惑いを隠せない。内心で物凄く焦っていると、フェレシュテフが満足そうな表情をして、唇を離した。二人して荒い息を吐いて、じっと見つめ合う。

 涙に濡れた目をして、蕩けそうな表情をしているフェレシュテフを見たチャンドラは無意識に喉を鳴らした。


「あの……私から、こんなことを申し上げては、はしたないと思うのですけれど……」

「何だよ、言ってみろ……」


 ずっとしゃがんだままでいるチャンドラの太い首に腕を回して、フェレシュテフは彼の虎の耳に唇を寄せて、吐息混じりに囁いた。溢れ出して来た感情がまた止まらなくなってきていると、頭の片隅で考えながら。


「私を、抱いてくださいませ。貴方が欲しくて、堪らない……です……」


 艶かしい声に鼓膜を刺激されたチャンドラは言いようのない高揚感に駆られる。フェレシュテフが発する色香に触発されたのかもしれない。


「……家だと誰か来るかもしれねえから、見つかり難い場所に移るぞ」


 フェレシュテフを自分にしがみつかせて、チャンドラは立ち上がる。二人は互いの逸る鼓動を感じとりながら、湿気の多い、熱帯の森の奥へと消えていった。

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