百話:VSモーハ



「あんだテメェらは!?」


 ラシュムの後ろに居たルガンが叫ぶ。

 しかし、豪華な刺繍の入った祭服を着た男は何も答えない。


「オイ!聞いてんのか!?」

「……」


 答えない。

 少し距離があるとはいえ、声量的に絶対に聞こえているはずだ。


「何者なのだ?」

「これはこれは、グロース国王様。申し遅れました。私レヴェリア聖国の創造神教会、枢機卿のモーハと申します。この度はグロース国王様、ヘンリー皇帝様、ランパート国王様、及びその護衛の方々を救いに参った次第でございます」


 ルガンよりも小さな声で発したグロースの問いに対して丁寧に答えるモーハ。


 救う?

 何言ってんだこいつ?


 そんなことを思っていると、俺とモーハの目が合う。

 

「おお!『侵犯の塔』のクランマスター、タスク様ではありませんか。以前、私の部下が大変失礼な事をしてしまいました。申し訳ない」

「気にす――」

「咎人ではなく、人種であられますタスク様に襲い掛かった不届き者の首は即座に跳ねておきましたので、どうかご安心を」

「は?どう――」

「ええ、ええ。わかっています。わかっていますとも。人種である司教と信徒を殺してしまうのは私としても心を痛めました。ですが、人種を襲う者など処分して当然の事です。男神様に反抗した咎人を、力を求めて人種が異形化した成れの果てである獣人種、亜人種、魔人種を襲うならまだしも――」


 イラッ。

 こいつ、ムカつくな。

 獣人種、亜人種、魔人種は人種が異形化した?

 アホか。


「確かに平均的なステータス値の人種に比べて獣人種、亜人種、魔人種は尖がったステータス値をしている。それはあくまで(職業や戦闘スタイルに合わせてプレイヤーが自分に合った種族を決める為、IDO製作者である)男神様がそう決めたものであって、人種が異形化した訳ではないぞ」


 俺がそう言うとモーハは涙を流す。


「ああ、お可哀そうに……。既にタスク様も間違った教義を植え付けられてしまっているのですね」

「は?俺は――」

「大丈夫です。大丈夫ですとも。私はそんな間違った教義を植え付けられてしまった方々を救うため、男神様よりこの世に生を享けたのです」

「話を聞――」

「ええ、ええ。言わずともわかっています。私は男神様に選ばれた人間です。私が男神様の声を信徒に説き、咎人共を駆逐し、男神様の寵愛を受ける人種のみの世界を作るのです。ああ、なんと素晴らしい――……」


 イライラッ。

 こいつ、だいぶムカつく。

 攻めて来てる事に変わりはねえんだから、もうやっちゃってもいいかな?


 そんなことを考えていると――


「ごちゃごちゃと、うるせえな!さっきから無視しやがってよ」


 イシュトゥラルト精霊国代表ラシュムの護衛、ルガン。


「そろそろ口を閉じなければ叩き潰すぞ」


 ジュラルダラン獣王国代表ガンディの護衛、ゼファ。


「陛下、この不敬な人間どもを切る許可をください」


 ギュレーン魔帝国代表アザレアの護衛、ジェラ。


「あのー。魔人をあんまり舐めない方がいいですよー」


 マグニゲイル魔帝国代表ヴノの護衛、オード。


 ――四人が武器を構えながら前に出る。


 するとモーハは一瞬ポカンとした後、親の仇を見るような表情で四人に向けて言葉を放つ。


「咎人如きが我々人種と同じ言語を口にしないでください。汚らわしい。そこの鼻の長い獣混じりも、黒い獣も、翅の生えた虫混じりも、耳の長い人種モドキも、角の生えた魔物混じりも、首のとれた魔物も、手が羽の獣と魔物混じりも、人外は皆大人しく鳴いていればいいのです。そうすれば、順番に首を落として差し上げます。最初はそこに居るからでいいでしょう。こちらへ来なさい」


 は?

 あいつ、なんて言った?


 ――ブチィ。

 

 俺の中で何かがキレた。




 ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~




 タスクが『鍋の蓋』をモーハに向かって勢いよく投げる。

 『鍋の蓋』が当たる瞬間、『シールドアトラクト』を発動。

 タスクの体は瞬時にモーハの懐へと移動し、そのままの勢いで顔面をぶん殴った。


 周囲に居た武装した取り巻きたちが「モーハ様!」と声を上げる。


 刹那『フォース・オブ・オーバーデス』をで発動させた。


 武装した取り巻きたちは一斉に青褪めガタガタと震え出す。

 中には武器を落とす者、尻もちを付く者、失禁する者も居た。


「立て」


 モーハは立ち上がる。

 その顔に恐怖は全く無く、タスクに哀れみの目を向けた。


「ああ、お可哀そうに……。タスク様の中には間違った教義への信仰が根強くあるようだ。良いでしょう。私がその間違いを清算して差し上げます」


 <大魔導士ハイウィザード>スキル『重複発動』:同時に同じ<〇〇魔法>スキルを使用可能。

 ――発動。

 

 <炎属性魔法>スキル『フレイムショット』:強い火の球を放つ。

 ――重複発動、モーハの周りに異常とも呼べるほど多くの炎の球が生成される。

 

 そんな中、タスクはスタスタと『鍋の蓋』を持ちモーハに近付いて行く。

 驚いたような表情をしたモーハにだったが、何かを感じ取ったのか慌てて炎の球を発射した。

 

 タスクに向かって炎の球が一直線に飛来する。

 直撃と同時に辺り一帯は熱気と土煙に包まれた。


「「「「「タスク(君、さん)ッ!!?」」」」」」


 まさか回避も防御もしないとは思っていなかった各国の王たちは驚く。

 しかし、二人。

 二人だけは涼しい顔をしていた。


「問題ないのである」

「彼の言う通りですよ。タスクの色は消えていない」


 ヘススとラシュムだ。

 二人の言葉と同時に土煙の中からタスクが姿を現す。

 その手には『鍋の蓋』を持っており『スピードランページ』を発動させ一気にモーハとの距離を詰める。

 

「なッ!?」


 そして『スピードランページ』がモーハに当たる寸前でキャンセル。

 至近距離まで来たタスクは拳を握りしめ、再びモーハをぶん殴った。


 再びモーハはよろけるも、『重複発動』と<空属性魔法>を発動させながら哀れみの目を向ける。


 <空属性魔法>スキル『エアリアルショット』:強い風の球を放つ。


「ああ。何故気付かないのですか?男神様に愛されている私の言葉が正義そのものだと。正義である私に反抗するタスク様は悪に堕ちるという事を意味するのです。タスク様なら絶対にわかっていただける。タスク様はお強い。私と共に男神様の示された道を生きましょう」


 それでも歩みを止めないタスクを見たモーハはため息を吐き『エアリアルショット』を放った。

 『オーバーガード』発動。

 同時に『エアリアルショット』が直撃する。

 しかし、タスクの体に傷一つ付かないどころか、歩みすら止められない。

 その姿を見たモーハは後退りした。


「どうした?自称、神に愛された男。ご自慢の神に助けを乞うたらどうだ?」


 タスクはスタスタと歩きながら、呟く。

 すぐ目の前まで来たタスクを満面の笑みで見るモーハ。


「では、そうさせて頂くとます。これはタスク様を相手に使いたくはなかったのですが、今はご理解いただけないようなので仕方がありませんよね」


 <洗脳魔法☆>スキル『マインドジャック』:状態異常『一時洗脳』の付与。

 ――発動。



 タスクが足を止めた。


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