八十一話:骨休め(下)

 


 ガチャ。


 <盗賊>スキル『アンロック』:条件付の解錠が可能。


 を使い、長年閉ざされたままだったトイレと洗面所の間にある扉の鍵が開いた。

 余談だが『アンロック』の解錠条件とは自分の所有物であるか、持ち主の許可が必要であるため犯罪などに悪用することはほとんど出来ない。


「はい!開いたッスよ!」

「ん。ありがと」


 蝶番が錆びていたのか扉は重く、ギギギと音を立てながら開く。

 扉の先に部屋はなく、地下へと続く折り返し階段があるだけだった。

 地面には埃が積もっており、それを見たアンとキラは駆け出し凄まじい勢いでどこかへ行ってしまった。

 恐らく掃除道具を取りにいったのだろう。

 ほんと仕事熱心で助かるなあ。


「それにしてもこの扉、開けて良かったんッスね。前から中が気になってたッスから、楽しみッス!」


 ミャオは口元にバンダナを巻きながら中へと入ると、数段飛ばしで折り返し階段を降りていく。

 その後ろから俺も続いて降りていくと、地下には一枚の扉があるだけだった。


「また扉?」

「みたいッスね。けど、この扉には鍵は付いてないみたいッス」


 ミャオの隣に立ち、扉を開ける。

 そこは数列の棚が並んだ薄ら暗く、ジメジメとした肌寒い場所。

 棚には幾つものビンが丁寧に並べられており、そのどれもに日付の書かれたラベルだけが貼られていた。


 なるほど。

 そこまで詳しくはないが、ワインか?

 だから二枚扉といったとこか。

 それも数十年経ってるものもある。

 持っていったらゼムが喜びそうだな。


「ほう。なかなかに良い場所じゃないか。気にいった!わたしにここを使わせてくれないか?」


 振り向くと、いつの間にかロマーナが背後に立っていた。


「あ?ここで暮らす気か?」

「ダメなのか?個人的にはこういう場所の方が落ち着くのだよ。それに、空気も漏れないみたいだから実験には向いていると思うのだがね」


 いったい何を作る気なんだ、こいつ。

 空気漏れなかったら、逆にロマーナが危ないだろ。

 まあ、本人が良さそうだしいいか。


 本人の希望もあってということで、ロマーナの部屋が決定した。

 中にあった棚やワインは全てインベントリ内に仕舞い、代わりにかつての仲間のサブキャラが使っていた課金調薬台や課金道具を並べていく。

 すると、ロマーナの表情がみるみると変わっていき、穴があくほど凝視していた。


「これらをわたしが使っても良いのか?」

「構わんが、多分まだ使えないと思うぞ」

「そうか……それは残念だ」


 嘘だな。

 残念だという顔ではない。

 不敵な笑みが零れている。

 まだ、という言葉の意味をしっかりと理解しているように思えるな。

 最上位職にさえ昇格してしまえば、ここにあるものは全て使えるようになる。

 そうなる事が楽しみで仕方ないのだろう。

 本当にロマーナみたいな人材を仲間に出来て良かった。


「では、タスク。早速だがわたしのレベル上げに付き合ってはくれないか?キミの言う昇格とやらはレベルが上限に達していなければならないのだろう?」

「そうだ。それは、どの職業でも変わらない」

「ならば、すぐ行こう」

「分かった……と言いたいところだが、すまない。その前にステータスを見せてくれないか?」

「謝る必要はない。タスクが必要だと思ったのだろう?それならわたしの好き嫌いなど関係ない」


 そう言いながらロマーナはステータスウィンドウを開き俺に向けてきた。


――――――――――――――――――――――――

【ステータス】

<名前>ロマーナ

<レベル>20/50

<種族>屍人

<性別>女

<職業>調薬師


<STR>D-:0

<VIT>D-:0

<INT>D-:0

<RES>D-:0

<MEN>D+:0

<AGI>D-:0

<DEX>D:0

<CRI>D-:0

<TEC>D+:0

<LUK>D+:0

残りポイント:200


【スキル】

下位:<調薬師><針術><鑑定>

――――――――――――――――――――――――


 <調薬師>で<針術>持ちか。

 ロマーナをパーティに入れてダンジョンに行くなら、アタッカー運用ではなくバッファー運用だな。

 バフこそ掛けられないが、毒草や麻痺草を調薬したものを針に塗り、相手に刺すだけで十分なデバフを撒き散らすことが出来る。

 オマケに低級だがポーションも作れるとなれば、難易度にもよるがヒーラー運用も出来なくはない。


 そして、レベルは二十。

 レベル上げをするなら、難易度三等級あたりが最適だな。

 いや、待て。

 そう言えば、あの三人が負けたまま帰って来てたな。

 レベル上げついでにリベンジさせるか。


「――というわけなんだが?」


 俺はダイニングに戻りロマーナのレベル上げ序でに『哮る枯れ井戸』に行かないか?とフェイ、カトル、ポルの三人に話を持ちかけると――


「行きマス!」

「行く!!」

「いきたーい!」


 ――即答した。

 ミャオの事があったとはいえ、この子たちだけで行った初ダンジョンが『哮る枯れ井戸』だったのは個人的にも少しかわいそうだと思っていた所だ。

 

「じゃあ、ワシも久々に行こうかのう」


 すると、近くで俺たちの話を聞いていたゼムが話に入ってくる。

 ヴィクトリアの加入以降ダンジョンに入っていないゼムのレベルは四十で止まっていた。

 四十六レベルくらいまでなら経験値が入る筈だからと快く了承し、その日は就寝することにした。



 翌朝、俺たちは『哮る枯れ井戸』の前までやって来ていた。

 転移スクロールを初めて使用したロマーナは、興味深そうにアレコレと質問攻めにしてきたので適当に流していると隣でゼムが声を上げる。

 

「さて、お前たち気合入れて行くぞい」

「「「おー!」」」


 ゼムの掛け声にフェイ、カトル、ポルの三人が元気よく返事をする。

 久しぶりのダンジョンという事もあり、ゼムもテンションが上がっているのだろう。

 今回、俺はパーティに参加せずフェイたちのパーティにゼムとロマーナを入れた五人で組んでもらっている。

 クランを設立した恩恵でいちいち冒険者ギルドに行かずとも好きにパーティを組み換えられる上、同じパーティでなくても同じダンジョン内に侵入出来るのは本当に良い仕様だ。

 

「ところで何日間の予定なんじゃ?」

「うーん。いつヴィクトリアたちが帰ってくるかわからないからな。とりあえず二日くらいかな」


 そのくらいあれば『哮る枯れ井戸』で上げられるレベル上限までは行くことだろう。

 なんせギミックさえ知っていれば何の危険もなく破裂蛙は倒せるのだから。


 俺たちは早速、野営の準備に取り掛かった。

 準備が終わった所で、井戸の滑車を使って下へと降りダンジョン内へと侵入していく。

 薄暗くジメジメとした通路を俺とフェイを先頭に歩いていると、奥からズルズルと何かを引き摺るような音が聞こえてきた。


「タスク兄、どうやって倒すの?いくら攻撃しても倒す前に破裂しちゃって倒せなかったんだけど」

「普通にやってたら倒せないようになってるんだよ。だけどあの蛙がをとっている間はどういう訳か破裂しないんだ」


 俺の言葉に全員が首を傾げる。

 そりゃ、そのような反応にもなるだろう。

 この設定はプレイヤーのみが知っている事だし、何故破裂しないのかなんてことはプレイヤーですら知らないのだから。

 

「ほう。その行動とは?」


 ロマーナが興味深そうに口を挟む。



「食事だ」


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