七十三話:一縷の望み
~Side:フェイ&カトル&ポル~
「ハァ……ハァ……大丈夫ッスよ」
そう言って笑うミャオさんの息は荒い。
ベッドに寝たままの状態になって早一日。
リヴィさんとお屋敷に帰って来てからというもの、ずっとこの調子だ。
カトルが幾つも
私とポルも神殿や病院にも駆け込んだが、毒の正体はわからず手詰まりの状態だった。
次第に、リヴィさんの顔色まで悪くなり何かを呟いている始末だ。
私の知らないところで何があったんだろう。
そう思いながら、ミャオさんの部屋を出た私は一階へと降りる。
すると、廊下の奥からガタガタと物音が聞こえてきた。
あそこは確か、倉庫だったはず。
「ゼムサンデスか?」
倉庫は基本的にタスクさんとゼムさんが管理や補充しているので、タスクさんが居ない今はゼムさんかと思い声を掛けながら扉を開く。
私の声に反応した二つの影がガタッと物音を立てると、そっと物陰から顔をのぞかせる。
「うわっ!……ってなんだフェイかよ!!」
「驚かせないでよー」
「カトルとポル?何シテるの?」
「ミャオ姉の薬探してんだよ!俺が買って来たのじゃ効かなかったから……。タスク兄ならもっと良い、未来の薬とか持ってるんじゃって……」
カトルが買って来た
その様子をポルは何も言わずに見ているが、多分思ってることは私と同じだ。
カトルは悪くない。
でも、私たちも力になれなかったので何も言えない……。
三人して黙っていると私の後ろ、扉の外から声が掛かる。
「何じゃ?三人してここで何しとるんじゃ?」
「ゼム爺!!ミャオ姉に効くポーションとかないんですか!?倉庫ならタスクさんが―――」
カトルは声を荒げながら、ゼムさんに駆け寄り縋り付く。
すると、ゼムさんはカトルの言葉を遮り声を上げる。
「落ち着け!!そんなもん、あるならワシが持って行っとるわい。劣化する物は置いてないんじゃ」
「じゃあどうしたら……?」
「そうじゃな……タスクもヘススも居らんしのお。別の国に行っとっていつ帰ってくるかわからんと嬢ちゃんが言っとったが……」
「それを待ってたらミャオ姉が死んじゃう!!」
「それでは一つ、私からも宜しいでしょうか?」
ゼムさんのすぐ後ろから声がした。
私たちが視線を向けた先にはバトラさんが立っていた。
「なんじゃ?」
「以前、私たち思念体に興味を持ち屋敷を訪れた方がおりました。その方は少し変わり者でございましたが非常に研究熱心な方で秀才だと記憶しております。もしかすれば、その方なら何の毒かわかるのではないかと思いまして」
「バトラ爺!!その人は何処に―――グオッ!?」
話を聞いたカトルはバトラさんに突撃していくが、体をすり抜け壁に衝突する。
「何処に居るのかはわかっとるのか?」
「申し訳ございません。そこまでは。しかし、その方を屋敷まで連れて来られた方が居りますので、その方ならば何か知っておられるかと存じます」
「誰なんじゃ?」
「商人ギルド、ギルドマスターのヘルカス様でございます」
「あの爺さんか……」
ゼムさんも知っている人なのか苦い顔をする。
すると、壁にぶつかっていたカトルが振り向き、鼻を摩りながら口を開く。
「じゃあ、そのヘルカスって人に聞きに行ってくる!!行こうぜ、ポル!フェイ!」
「……待て。相手はギルドマスターじゃ、子供三人が会いたいと言って会える相手じゃないわい。……ワシも付いて行った方がいいじゃろ」
「え、いいんですか?」
「任せとけ。それとバトラ、感謝するわい」
「いえ。私に出来る事をしたまででございます」
早速、私たちは商人ギルドへと向かった。
相変わらず、私へ向けられる視線は多かったけど、カトルとポルが私の両側を歩いてくれた。
すると、十数分でレンガ造りの大きな建物が見えてくる。
建物内に入ってすぐにゼムさんは辺りをきょろきょろと見渡した後、幾つもある受付窓口の一つに近付き口を開く。
「ヘルカスはおるかの?」
「ゼムさん!?お久しぶりですね!マスターに御用ですか?」
「そうじゃ。呼んできてくれ」
「わかりました。少しお待ちください」
どうやら受付に居た女性はゼムさんの知り合いだったようだ。
女性は受付後ろの扉に入っていくと、数分後に白い髭を垂らした老人を連れて戻ってきた。
「久しいのお、ゼム。店を本格的に開いてくれる気になったのか?」
「違うわい。今日はお前さんに頼みがあって来たんじゃ」
「なんじゃ?わしの頼みは聞けず、おまえの頼みだけ聞けと?」
「それは……」
ゼムさんが苦い顔をしたのはこれが理由だ。
もしゼムさんがお店を出したらお屋敷から居なくなってしまう。
そう思った私は無意識に頭を下げ、口を開いていた。
「お願いしマス!ゼムサンを連れてかないで下サイ!」
「なんじゃ、おまえ。魔人か?」
「は?種族なんて関係ねえだろ!!俺たちのパーティメンバーだぞ!」
「そーだ!フェイの事、悪く言うならおじーちゃんでも許さない。」
私を庇うように、カトルとポルが眉間に皺を寄せ激昴しながら前に出る。
するとヘルカスさんはゼムさんの方を向き、呆れ顔で口を開く。
「ゼム、おまえ冒険者をやめて、今は子守りでもしとるのか?」
「侮るのはやめた方がいいぞヘルカス。その子らはタスクの奴が認めとる『侵犯の塔』のクランメンバーじゃ。お前さん程度なら数秒で土を舐める事になるぞ」
「ッ!?」
ヘルカスさんは信じられないように目を見開く。
私たち三人に視線を移すと頭をさげながら謝罪をする。
「悪かった。差別や悪気があって言ったわけじゃない。じゃが不快に思ったなら謝る」
「大丈夫デス。現にワタシは魔人種デスから」
「フェイがそういうなら俺はいいけどさ」
頭を上げたヘルカスさんは再びゼムさんに視線を戻し問いかける。
「ところで、おまえの頼みとは何じゃ?『侵犯の塔』関係か?」
「そうじゃ。お前さんが以前、思念体の件で屋敷に連れてきたという奴を探しておるんじゃ」
「何故じゃ!?あやつがなにかしたのか?」
「それは―――。」
その質問にゼムさんは、ミャオさんが侵されている状況を告げる。
神殿や病院に行ったが毒の正体がわからなかったことや、
何か勘違いをしていたのか最初は乗り気ではなかったが、話を聞いていくうちに納得したような表情に変わっていった。
「―――なるほどの。そういう事なら居場所を教えても構わんが……」
「何じゃ?」
「気難しい奴なんじゃ。それに……いや、それは問題ないか」
何故かヘルカスさんは私の方を一瞥する。
「どんな奴じゃろうと構わん。頼む、ヘルカス」
「わかったわい。一つ貸しじゃからな。少し待っとれ」
そう言って、奥へと入っていくヘルカスさんは五分もせず戻ってきた。
手には一枚の紙を持っており、それをゼムさんに手渡す。
私たち三人がゼムさんの上から覗き込むと、紙は王都近郊の地図だった。
「変わってないのならそこに居る筈じゃ」
「感謝するわい」
私たちもヘルカスさんにお礼を言った後、商人ギルドを後にする。
だけど、一つだけ気になることがあった。
先程、手渡された王都近郊の地図にバツ印が付けられていた。
ヘルカスさん曰く、そこに居るとは言っていたがバツ印が示していたのは王都内ではなかったのだ。
バツ印は近郊の深い
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