七十二話:横穴の中
『フォース・オブ・オーバーデス』の発動直後。
『死の恐怖』が効かないとかマジかよ。
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んー、厄介だな。
ヘイトは俺に固定されるからいいか。
飛んでいた
それに応えるように俺は『パワーランページ』を発動させ勢いよく駆け出した。
互いの距離が詰まった所で
俺は大盾と爪が衝突する間際に『パワーランページ』をキャンセルし、その勢いのままで『シールドバッシュ』を発動させる。
振り下ろされた
こちらに顔を向け睨みつけながら
だが、気付いてすらいないのか全く気にも留めず俺に向かって駆け出すと、今度は
「チィ!硬い!」
予想はしてたけどアザレアとジェラじゃ火力不足だ。
ロザリーはアザレアの怪我の治療をしているあたり、治癒士みたいだしな。
それなら……。
「ジェラ、こいつは俺が抑える。その間に三人で顔を取ってきてくれ」
「私に指図をするんじゃない!と言いたいところだが私では傷一つ付けられんようだ。任せたぞ」
そう言うと、アザレアとロザリーの元へと走っていった。
その間にも
こんな事になるなら、他メンバーが居てくれれば楽だったんだがなぁ。
『シールドアトラクト』を使いブレスを避けながら、そんなことを思う。
だが、あの視線を仲間たちに向けられた時の事や、万が一魔人に囲まれた時の事を考えると、連れてこなくて正解だったとも思う。
考えた所で今更か。
それに、今はそれどころではない。
顔を取り返して、そのまま逃がしてくれるとは思えない。
だからといって倒せる訳でもないし、倒せたとしても無駄な殺生はしたくない。
破壊蜂の時もそうだったが、魔物とはいえ生きているのだから。
ん?
今こいつ……。
その時、何かが引っ掛かった。
俺は大盾で攻撃を弾きながら
間違いない。
その視線の先には紐を両手に持っているロザリーとジェラ、そして紐の先に吊るされた状態でぶら下がっているアザレアが居た。
恐らくアザレア本人が行くと言いだしたのだろうが、自分の国の皇帝を吊るすって。
……どうでもいいか。
こいつ生きたフィールドの魔物なんだよなぁ。
よし、物は試しだ。
俺は
「お前、巣が気になんのか?」
「グルルルルル」
攻撃の手を止め
なんだ?
何故、攻撃の手を止めた?
チラリと横穴の方を見るとアザレアが到着し、中へと入っていく姿があった。
なるほど、だからか。
言葉が伝わったかと思った。
恐らく巣にグレミーの頭以外の何かがあるんだろう。
視線を
念のために『チャレンジハウル』を重ね掛けし、横穴に戻らないようにする。
「ガァアアアアア」
すると
「悪いな。お前の言葉はわかんねえ」
「グルゥ」
落ち込んだ!?
言葉が伝わったのか!?
「お前。俺の言葉がわかんのか?」
全身に鳥肌が立った。
俺は、
近付いてくる俺を警戒しているのか、炎を口から漏らしながら威嚇するが、そんなの関係ない。
目の前まで来た俺は大盾をインベントリ内に仕舞い、丸腰で
「縄張りに入って悪かった。俺にもう敵意はない」
「ガッ?」
突然の謝罪に
「知人の頭部を探しに来ただけなんだ。巣に無いか?あるなら返して欲しい」
すると、
「あ?乗れって事か?」
俺の方に顔を向けて頷く。
よじ登り背中に跨ると翼を広げて飛び上がった。
そのまま溶岩湖の上を飛び、崖の中腹にある横穴の中へと入っていく。
横穴の中は広々とした空洞だったが奥行はそこまで無く、すぐに最奥部に着いた。
なるほど。
そりゃ、余計に攻撃的にもなるわな。
最奥部には小さな火竜が三匹居た。
まだ翼も発達していないのかヨチヨチと歩いている。
そのすぐ隣には、白い髪に青い肌の頭を抱えたアザレアの姿があった。
俺が
「タスク君が何でここに?」
「あー、まあ、いろいろとありましてね。それよりグレミーの頭は見つかったんですね」
「うん。火竜の子と一緒に寝てたよ。呑気なもんだよねえ」
ニコニコ笑いながらアザレアが頭を見下ろすと、元々青かったグレミーの頭が更に青ざめる。
「ウッ、ごめんなさい……。そちらの人種の方も私を助けに?」
「そうだよ。名前はタスク君」
「ご紹介に預かりました『侵犯の塔』のタスクです」
「ご丁寧にどうも~。私はグレミー・ツー・マルグロアです。よろしくね」
「はい。ところで、なぜこんな所に居たんですか?」
「それがね―――」
話を聞いてみると
既に火竜の餌となった
「―――と、言うわけ。いや~、迷惑かけちゃったね。だんだん楽しくなってきちゃって」
それで一か月も?
本当に馬鹿なんじゃなかろうか?
交戦中だったんだよな?
聞いていてだんだんと腹が立ってきた。
因みにだが、べルアナから何度も助けが来ていた事すら知らなかったらしい。
遊んでいた時の笑い声や話し声で気付いたんじゃない?との事だ。
どんだけ能天気なんだこいつ。
俺は一度ため息をつくと、
「守ってくれたらしいな。ありがと」
「グルゥ」
俺はインベントリ内から市場で買った野営時用の肉の塊をいくつか置く。
すると、火竜はヨチヨチとやって来て小さな口で齧り付き始める。
「あの顔を連れて帰るけどいいか?」
「グルゥ」
「あの顔に肉を持って来させるから、人里は襲わないでくれな」
「グルゥ」
「あ、そうだ。上まで乗せてってくれ」
「グルゥ」
俺と
「えーっと……。もしかして、言葉がわかるのかな?」
「はい」
「もしかしなくても、私って帰れたの?」
「はい」
グレミーの頭からサーッと血の気が引いていく。
その真上からはニコニコしているアザレアが覗いていた。
空洞内に悲鳴が響いた。
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