四十五話:リヴィの宝物



 国王からの依頼が終わった。

 ひと段落した俺たちは休日をとる事になった。

 理由は簡単、ミャオとリヴィがごねたからだ。

 一週間の間に二日、休みを上げたと思うんだけど。


 まぁ、いいか。

 女の子は遊びに出かけたいのだろう。

 朝からフェイとリヴィとミャオは出て行った。


 朝食の間、アンとキラに両側から見られていた。

 昨日の夕飯からこの調子である。

 

「どうした?何かあるのか?」

「いえ~。なんでもないですぅ」

「そうですよっ。お気になさらずっ」


 さすがに気になるんだが。

 バトラを見ても反応を返さないし、困った。

 正直、今日も出かけたい場所がある。

 アンとキラを一瞥するがニコニコしている。

 しょうがない、今日一日は付き合うか……。



 ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~



「……待って。速いよミャオ。」


 私は今、ミャオとフェイと一緒に市場に来ている。

 朝という事もあり、買い物に来ている人は多い。

 人が多いとこは苦手なんだけどな。

 

「遅いッスよリヴィ!置いてっちゃうッスよ」

「……今日は何買うの?」

「今日はアンにお肉焼いてもらうッスよ」


 今日の目的は目利き。

 お休みの日に付き合わされる理由は様々。

 目利きがほとんどだけど、時々服とか見に行く。

 

「フェイは何買うッスか?」

「ワタシは何でも食べマスよ」

「好きな物とかないんッスか!?」

「特にはないデスね」


 最近はよくフェイちゃんも付いてくる。

 あんまり人と喋るのは得意じゃないから助かる。

 でも……、またか。


「おい!そこの魔物!止まれ!」


 冒険者風の男が怒鳴りながら近付いてくる。

 これで今日だけで二回目。

 嫌になる。

 フェイちゃんは何もしてないのに。

 何もしてないのに……。


「なんだお前!なに睨んでんだ?あ?」


 私が睨んでた?

 無意識だったな。

 気を付けなきゃ。

 私は無視するミャオとフェイの後ろに続く。

 

「何無視してんだコラ!おい!お前だよお前!」


 フェイちゃんの服を掴もうとする男。

 めんどくさいなぁ……。

 ミャオはすかさず男の手を掴み、足を蹴る。

 男は地面に倒れ、首元に短剣を突きつける。


 ミャオの動きが見えなかった男は目を白黒させる。

 仕方ないよ、今のミャオは<AGI素早さ>、S超えてるし。

 ミャオが男を開放すると逃げていく。


「リヴィ!いつもありがとうッス」

「ミャオサン、リヴィサン。ありがと」

「……力になれて嬉しい。」


 私は本を閉じ、両腕で持ちなおし歩く。

 この時間がずっと続くと良いな。


「さ、お肉買って帰るッスよ!」


 (もう帰って来るな。)


 嫌なこと思い出しちゃったな……。

 


 ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ 

 


 私が生まれた22年前。

 ダークエルフが住む里―――――。


 里の皆、肌は青く、髪は銀髪に青い瞳。

 私だけが褐色の肌、白髪に赤い瞳。

 

 私は生まれた時から独りぼっちだった。

 ただの一人と話した事もなかった。

 親ですら私に近付くのは最低限。

 里の皆は私を気味悪がって近付きもしない。


 私は何もしてないよ……?

 ただ生まれてきただけだよ……?


 呪われた子。

 忌み子。

 化物の子。

 魔物の子。

 たくさんあった私の名前。

 その名前すら呼ばれたことないけど。


 私は独りが嫌で成人してすぐ里を出た。

 それが4年前。

 

 『リヴィ』という名前は私が付けた。

 旅をしている時に誰かが言った言葉。

 響きが好きだった。

 ただそれだけ。

 誰かに名前で呼ばれてみたかった。

 

 喋った事のない私は喋り方がわからなかった。

 何を話しかけたら返してくれるんだろう?

 私なんかが話しかけて大丈夫かな?

 そんな事ばかりが頭に浮かんで勇気が出ない。


 私は諦めた。


 冒険者になったのは喋らなくてもいいから。

 依頼表を持って受付に行く。

 仕事を終わらせたら受付に行く。

 それの繰り返し。

 受付の人も最初以降は私に喋りかけ無くなった。


 そうすれば路銀は稼げるから。

 私はそうやって旅を続けてきた。

 これからもずっとそうやって生きていく。

 

 一枚の紙を見てしまうまでは。


 固定パーティメンバー急募……?

 レベル、不問?

 種族、不問?

 性別、不問?

 それに……魔法使い。

 

 私はステータスを確認する。

 紙とステータスを交互に見る。

 同じ言葉が書いてある。

 

 私なんかでもいいのかな?

 でも私みたいなのが来たら気味悪がられる。

 使える魔法もパッとしないし。

 

 <無属性魔法>なんて特に嫌い。

 私みたいだから。


 やっぱりやめとこうかな。

 ……でも、このままは嫌だな。

 どうせ私なんか受かる訳ないんだし。

 なら出してみてもいいんじゃないかな?


 翌日、私はギルドの椅子に座っていた。

 本当に出しちゃった。

 昨日は悩んで出せなかったけど、今日の朝に出した。

 

 受かった。

 

 私が受かった。

 最初は嘘なんじゃないかと思った。

 だけど本当だった。


 絶対に死ぬまで忘れない。

 私を『選んだ』と言ってくれた人。


 名前は、タスクさん。


 私にたくさんの初めてをくれた人。

 私を理解してくれた上で選んでくれた人。

 私をたくさんの人と出会わせてくれた人。

 

 ミャオと出会わせてくれた事は何より感謝してる。


 タスクさんに付いて来て本当によかった。

 私にできる事があるなら何でもやろう。

 タスクさんの為なら何でも。

 ミャオの為なら何でも。

 

 私はバッファーだ。

 最強の<※※※※※>を目指す。

 そして―――



 皆の力になって見せるんだ。

 


 ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼


 

 私たちは屋敷に帰りダイニングに行く。


「ん、おかえり」

「……ただいまです。」


 タスクさんが帰った私に声をかけてくる。


「リヴィ、お前いつまで敬語なの?」

「……え。」

「ミャオには普通にタメ口だろ?」

「……はい。」

「俺にもタメ口でいいぞ」


 失礼じゃない……のかな?

 そうしろって言うならそうけど……。


「……わかった。」


 二コリ、と笑うタスクさん。

 この人の笑顔は正直少し怖い。

 でも今の笑顔は優しい笑顔だった。


「お、それならワシもいいぞ」

「拙僧もそれで構わない」


 ゼムさんやヘススさんまで……?

 タスクさんの顔を覗くと頷いた。


「……そうする。」


 ゼムさんはニカッと笑う。

 ヘススさんは相変わらず無表情だ。


 タスクさんが私の頭に手を置き撫でる。

 最近よくされるけど子供と思われてる?

 私22歳なんだけどな……。


 でも嫌いじゃない。

 この温かさも知らなかった事。


 そういえばタスクさんは幾つなんだろ?

 ミャオは幾つなんだろ?

 まだ知らないことがたくさんある。

 知りたいなぁ……。

 いつか聞いてみたいな……。


 タスクさんの手が私の頭から離れる。

 

「タスク様?私にはして頂けないんですの?」

「あ?断る」


 クスクスと笑うヴィクトリアさん。


「リヴィだけずるいッス!私にもするッスよ!」

「あ?断る」

 

 駄々を捏ねるミャオ。

 

 私は微笑む。

 この人たちが初めて出来た私の仲間。


 

 私の宝物。


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