三十五話:神秘の溟渤
――翌朝。
「おはようございます!」
テアが屋敷を訪ねてきた。
今さっき朝日が昇ったばかりだというのに。
「……早くない?」
「楽しみすぎて目が覚めちゃいました!」
ニコニコと笑うのテアが笑顔が眩しい。
朝日も眩しい。
「俺たちも準備とかあるから、中入りな?」
「はい! お邪魔します!」
俺はダイニングにテアを案内する。
後ろに居た近衛たちは、俺に一礼すると帰っていった。
「テアは朝御飯は食べたの? まだなら作るけど」
「いいんですか!?」
「いいよ。どうせ俺もまだ食べてないから作るし」
「では、頂きます!」
小さく「タスク様の手料理」と呟くテアを置いて、俺がキッチンに行くと、既にアンが朝食の準備をしていた。
「おはようございますっ!」
「おはよ。俺も手伝うよ」
「はいっ! お願いしますっ!」
俺とアンが一緒に朝食を作っていると、途中から朝の掃除を終えたキラもやってきて一緒に料理をする。
どうやら最近は、キラも料理を頑張っているようだ。
少しするとバトラがキッチンに顔を出したので、みんなを起こしてきて欲しいと頼み、出来上がった朝食をダイニングに運んでいると、ポツポツみんなが起きてきた。
全員で朝食を摂り、食器を片付けた後、本題に入る。
「今日から一週間、よろしくお願いします!」
「よろしくッスー! 一緒に頑張るッスよ!」
「……よろしくね。」
「よろしくお願いしマス」
「ん。よろしく」
今回の依頼であるテアのレベル上げメンバーは、俺を始めとするミャオ・リヴィ・フェイの四人だ。
意図していなかったが……ハーレムである。
最高かよ……一人、猫が混じってるけど。
冗談はさておき、このメンバーにしたのには理由がある。
それはミャオ・リヴィ・フェイのレベルが低いからだ。
ゼムとヘススは元からレベルがそこそこ高かったという事もあり、ミャオやリヴィよりも先に昇格し、レベルも上がっているので、今回は留守番をしてもらうことにした。
因みに、タンクはフェイが居るので俺は基本的には手を出さず、四人で頑張ってもらおうと思っている。
まあ、もしもの時のための保険というやつだ。
「あ、そうだ。テア、ステータス見せてもらえる?」
「いいですよ! はい、どうぞ!」
――――――――――――――――――――――――
【ステータス】
<名前>テア・フォン・シュロス
<レベル>1/50
<種族>人間
<性別>女
<職業>魔法使い
<STR>D-:0
<VIT>D-:0
<INT>D+:0
<RES>D:0
<MEN>D:0
<AGI>D-:0
<DEX>D-:0
<CRI>D-:0
<TEC>D-:0
<LUK>D-:0
残りポイント:10
【スキル】
下位:<杖術>
上位:<雷属性魔法☆>
――――――――――――――――――――――――
やっぱり、
ってか、
ミャオも親からの遺伝だろうか? 今まで詳しく聞いたことはなかったが、今度時間がある時にでも聞いてみるか。
「ん。ありがと」
「いえいえ!」
「それじゃあ、冒険者ギルド行ってパーティ組もうか」
「はい! パーティを組むのも初めてなので楽しみです!」
「あ、そういや、ギルドカードは持ってるの?」
「持ってますよ! 昨日の帰り道に作りましたので!」
「さすが。用意周到だな」
そんな事を話ながら冒険者ギルドに行くと、時間が早かった事もあり依頼を受けに来ていた冒険者が多く、ずいぶんと待たされたが、無事パーティを組むことが出来た。
その後、一度屋敷に戻ってくる。
「……? どうしてお屋敷に戻ってきたのですか? もしかして、今日は行かないんですか?」
「ん? 行くよ」
先程まで不安そうな表情を浮かべていたテアは、俺の言葉を聞き安堵の表情を浮かべながら口元を緩ませる。
余程、楽しみにしていたのだろう。
……よかろう! 行先変更だ。
楽しいとこに連れてってやる!
「タスクさんが悪い顔してるッス。嫌な予感がするッス」
「そんなことはない。俺の目を見てみろ」
「あ、これは嘘のやつッス! 絶対、危険なとこッス!」
「……タスクさん……またですか?」
「タスクサンはヘススサンよりスパルタって聞いてマス」
「わたくしはどんな所でも楽しみです!」
おお、テアは度胸があるな。
それなのにうちの連中ときたら。
これはお仕置き、もといスパルタが必要だよなあ?
「それじゃあ、とりあえず行くか」
俺はインベントリから転移スクロールを取り出し、四人に手渡していくと、テアは目を丸々とさせて俺を見ていた。
あ、そうか。
ダンジョンまで転移で行くことを伝えてなかったから、屋敷に戻ってきた時に行かないのかと聞いてきたのか。
テアに転移スクロールの説明すると、絶句していた。
「文言は、神秘の溟渤だ」
「どこッスか? そこ」
「……?」
「聞いた事ないデス」
「わたくしも知りません」
「いいから行くぞー」
俺は転移スクロールを開き、文言を唱える。
すると視界が屋敷の玄関ホールから一瞬で切り替わり、目の前には大きな海が広がっていた。
俺に続いてミャオ・リヴィ・フェイ・テアの四人が転移してくると、皆一様に顔を輝かせる。
「これが海ですか……?」
「そうだぞ」
「わたくし、初めて見ました! とても綺麗です!」
「……だね。」
「デスね」
「ところで、どこにダンジョンがあるッスか?」
「あそこだ」
そう言いながら俺は岬にあるボロい小屋を指さした。
小屋の扉を開けた先の地面には、薄らと魔法陣が刻まれており、これが今回の目的地『
俺たちは戦闘準備を終わらせ、魔方陣の上に乗った。
「「「「……」」」」
魔法陣に乗り、転移した先でミャオ・リヴィ・フェイ・テアの四人はポカンと口を開け、絶句している。
何故か。
ここが海の中だからだ。
見渡す限り、壁も、床も、天井も、見えるもの全てが水。
差し込んでくる光がキラキラと輝き、魚が泳いでいる。
歩くたびにピチャピチャと水を跳ねるような音がしているが、不思議な事に靴や服は一切濡れない。
ここ『
難易度が高くなく、綺麗な景色が見れるという事で、IDO時代に女性プレイヤーから人気の高かったダンジョンだ。
しかし、攻略する場合はボス部屋までの道が数時間おきに変わる迷路になっているので、面倒臭いという欠点がある。
「じゃッ! 頑張って! 危なくなったら助けるから」
「はい! がんばります!」
「了解ッス」
「……はい。」
「ハーイ」
タンクであるフェイが先頭を歩き、そのすぐ後ろにミャオ・リヴィ・テアの三人、最後尾に俺の順で進んでいく。
すると少し歩いたところでミャオが声を上げた。
「なんか来るッスよ」
フェイの前方から姿を現したのは『
突進して来る
それと同時にフェイはバックラーを構え、前に出た。
<騎士>スキル『ナイトハウル』:視界内の敵、全てのヘイト値が上昇する。
――発動。
フェイは腕に付けたバックラーを突進してくる
そこへミャオが『メルトエア』・『イーグルアイ』・『オートエイム』を発動した状態で『パワーショット』を放つ。
ミャオの矢と同時にテアも<雷属性魔法>スキルを放ち、矢と魔法が直撃した
「や、やりました! わたくし、やりましたよ!」
初めて魔物を倒したであろうテアは満面の笑みを浮かべ、
ぴょんぴょんとその場で跳ねながら大騒ぎしている。
俺以外の三人とテアがハイタッチを始める隣で、俺は大きく息を吸い込み、シレッと取り出していた
すると、どうだろう。
テア以外の三人がピタッと固まった。
そして……ゆっくり俺の方を見る。
俺がニッコリ笑顔を返すと、三人は激怒した。
「馬鹿じゃないッスか!?」
「……本当に信じられないです。」
「やっぱり、スパルタデス!」
「ハハハ。そんな事言ってる余裕あんの?」
俺が前方を指さすと、向こうから
フェイはすかさず『ナイトハウル』を発動させて、
その後方からミャオとテアは一匹、また一匹と確実に仕留めていき、リヴィは『バフ』を三人に掛け続けていた。
俺は四人の遥か後方で、こっちに流れてきた
その調子、その調子! みんな頑張れー。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます