雄飛の章
第一話 ほんとうの気持ち
ランベルトの国葬も済み、レオンの戴冠式も終わった。
だが、レオンとリーザは休むことなく様々な諸問題の対応に追われている。
今日も朝食を素早く済ませ、朝議の前に丞相のマルセルと事前打ち合わせだ。
「陛下、南山関のグナイゼナウ将軍より、ヴァーグ王国軍が撤退したとの報告が届きました」
「そうか、引き続き警戒を怠るなとバルナバスに伝えよ」
「御意、それとギード・バルツァーの尋問ですが、やはりヴァーグ王国の指示があったようです。また、反旗を翻した衛門府の連中も同様の証言をしております」
「以前から内偵を進めていたのであったな」
「はっ、全貌を把握する前に行動を起こされました。このような事態となり大変申し訳ありません」
「いや、父上とて予測できなかったのだ、マルセルが気に病む必要は無い」
「はっ」
「陛下。アレクサンドラ始め、お義父様を護ろうと命を落とした者たちの遺族が、この件で肩身の狭い思いをすることが無いよう、また生活の補償なども併せて行うようにしてはどうでしょうか?」
「そうですねお義姉様。マルセル、そのように頼む」
「御意」
「マチアス卿、もう危険は無いのでしょうか?」
「背後関係を洗い、加担したものは全て捕縛しております。ですが完全に危険が去ったとは言い切れません。変わらずお気を付けくださいませ」
「わかりました。お手数をおかけしますが引き続きよろしくお願いいたしますね」
「はっ。現在身元調査が終わった者から近衛府へ配属しております。ひとまずは城内警護であれば問題無い数を揃えましたのでご安心ください」
「近衛中将は空席のままではあるが、まぁ問題無かろう。衛門府はどうか?」
「衛門督エグモントの後任は決まっておりませんが、現在、仮に親衛隊兵を配し、順次女性武官と入れ替えていく予定です」
「エグモントの遺族にも手厚い対応をよろしくお願いいたしますね」
「御意。エグモントは先に頂きました姫殿下のご提案通り、御先代をお護りするために名誉の死を遂げたと公式に発表致しました。アレクサンドラらへの手当など補償内容はこれから詰めていきますが、先ずは彼らの名誉回復を最優先に行います。さて、そろそろ朝議の時刻です。参りましょう、陛下、姫殿下」
マルセルはそう言うと後ろに控えている三省の長官を促し、先に太極殿へと向かわせる。
それを確認すると、マルセルが二人を先導しながら進み、専属護衛と専属侍女、近衛兵が続く。
レオンとリーザが太極殿に入ると、正四品以下の群臣は跪いたまま控えていて、三省の長官、六部の長官は頭を下げて二人を出迎える。
公卿の帯剣特権はあの事件以降廃止されていた。
リーザが玉座の傍に立ち、レオンが着席し、「面をあげよ」と声を掛けると朝議の始まりである。
マルセルが先程太極殿の控室である朝殿でレオンに話した内容を反復する。
その後は各省、各部の報告が続く。
「刑部尚書に尋ねる」
各部署の報告が終わると、マルセルが刑部の長官である刑部尚書に下問する。
「はっ」
「御先代を弑し奉った連中のその後はどうか」
「既に上奏した内容以上の情報はもう得られぬと判断いたします」
「うむ、であれば法に則り刑の執行を命ずる」
「はっ、かしこまりました」
マルセルは敢えてレオンを見ず、命令を下した。
「陛下、本日の報告は以上でございます。何か御下問等ございますでしょうか」
「諸卿らの働きは見事だ、流石父上の見込んだ家臣であると余も心強く思う。引き続きそれぞれの役目を果たすように」
「「「はっ」」」
レオンの言葉で朝議は終了する。
ヘレーナが先導し、レオンとリーザは太極殿から控室である朝殿を抜け、東塔へと向かう。
「ふー。朝から疲れたねお義姉ちゃん」
「そうですねレオン。でもまだまだこれからが大事です。一緒に頑張りましょう」
「ありがとうお義姉ちゃん」
東塔に入った瞬間に二人はどちらともなく手をつなぐと、いつもの口調に戻る。
談話室にたどり着くと、いつものように長椅子に二人並んで座り、フリーデリーケにお茶を頼む。
尚侍アレクサンドラの後任としてクララが従三品尚侍、フリーデリーケは従四品下典侍に昇官したが、それぞれの専属のままなのは変わらない。
「レオン様、姫様、お茶と一緒にお菓子をお持ちしました。よろしければお召し上がりください」
「ありがとうフリーデリーケ、この時間が一番心が休まるよ」
「フリーデリーケ、いつもありがとう存じます」
「わたくしにはこれくらいしかできませんから。朝議前の打ち合わせの為に朝食が簡単なものになってしまいましたので、ケーゼクーヘンを用意いたしました」
フリーデリーケがお菓子の皿とお茶を並べていると、クララがレオンに声を掛ける。
「レオン様、マチアス卿がいらっしゃいました」
「お、丁度良かった。フリーデリーケ、マルセルの分もお願いできる?」
「かしこまりました」
「レオン様、リーザ様、お待たせいたしました」
「マルセル、座って座って」
「マルセル、一緒にフリーデリーケのお菓子とお茶を頂きましょう」
「有難く頂戴いたします」
「フリーデリーケの作るお菓子はやっぱり美味いなぁ」
「私は甘いものに目がないのですが、ここで頂くお菓子は格別ですな」
「ふふふっ、マルセルもすっかりフリーデリーケのお菓子の虜ですね」
「いや、お恥ずかしい」
三人が食べ終わった頃にマルセルが本題に入る。
「エグル王国が帝国を破った場合ですが」
「うん、やはりエグル王が皇帝になるのかな」
「そうですね、そのように予測しています。またその際には、我がライフアイゼン王国に臣従の使者を寄越すかもしれません」
「まぁ突っぱねるのは簡単だけど」
「我が国としてはもう少し時が欲しい所です」
「仮に返答を引き延ばしたとしても、ヴァーグ王国がエグルへ向けていた戦力を南山関に向けている以上、エグルとは何かしらの約定が成立している可能性が高いよね」
「ですな。仮に臣従したとしても領地の割譲などを要求されるでしょう」
「まぁ元々うちとしては先祖伝来の本貫を全うする為には徹底抗戦しか道が無いわけだけど」
「そうすると反エグルで手を結ぶ必要がありますが、ファルコ王国とガビーノ王国に送った密使が戻るのは早くても数日はかかりますな」
「ファルコ王国はエグルの帝位簒奪は認められないだろうし、同盟とまではいかなくても不戦協定くらいは結べそうだけどガビーノ王国の方はどうなの?」
「ガビーノ王国は未だエグル、ヴァーグと小競り合いを続けておりますが、旧シュトラス王国の統治があまり順調では無くエグルの臣従を飲むのではないかと予測しております。その際の条件次第ではガビーノの恨みをエグルが買う可能性もあります」
「例えば中央に近いガビーノ本貫を召し上げて旧シュトラス王国領のみ与えるとかそのあたりかな、それでも旧ガビーノ領の倍以上の国土の広さになるし」
「我らもそのように見ております」
「ならばガビーノとしては積極的な軍事行動はとれないか。ヴァーグやエグルへの援軍も国内統治の難航を盾に断る事も出来るし」
「ただそれでもガビーノが全軍を上げてエグルを攻めるような事でも無い限り、エグルの帝国簒奪は時間の問題でしょう」
「そしてエグルが帝国簒奪した直後が、こちらが攻勢に出る最後の機会でもあると」
「はっ臣はそのように愚考いたします」
「ファルコ王国との不戦条約、エグルの帝国簒奪、この条件が揃った時点で軍を出せるように準備しておくべきか」
「御意」
「さしあたってはバルナバスを一度王都に戻し、足の遅い歩兵、弓兵を中心に密かに南山関に集めるべきだと思うけど」
「バイルシュミット将軍を南山関に配し、武具兵糧も集めましょう」
「まぁ事前にできる準備はそれくらいか。あとは朝議で開戦の決議が必要になるし」
「決議自体は問題無いでしょう。帝位簒奪に正当性も無く、特にヴァーグは我が国にとって不俱戴天の仇ですからな」
「今できる話はこれくらいか。内政に関してはマルセルに一任するよ。あとは機を逃さないように情報収集だね」
「はっ。おまかせください」
「それと」
レオンは朝議の時のような低い声を出し、席を立とうとしたマルセルを呼び止める。
「はっ」
「次の戦は、まさに国を賭けた乾坤一擲の大戦になる」
「臣もそのように思います」
「であるならば、余自ら陣頭に立って戦う心づもりである」
「っ! 親征を行われると!」
「ああ」
「しかし! それでは陛下の御身に万が一の事がありますれば!」
「総大将が討ち取られるような敗戦を喫せばどのみち終わりではないか。余が王都から動かず、敗残兵を集めて国内を戦場ににして城を枕に討ち死にするよりは、そのままヴァーグかエグルに献じた方が民の為でもあろう」
「ですが......」
「ねえマルセル」
レオンはいつもの口調に戻す。
「はっ......」
「先の大戦ではヴァーグの裏切りで敗戦。そしてエグルの指図を受けたヴァーグが父上を暗殺。卑怯な手を使って我が国を陥れた二国に対し、徹底抗戦をする。これを大義名分にして俺自ら戦陣に立てば少しでも勝てる確率が上がるんじゃないかな? 実際にエグルの指示があったかはわからないけどね」
「それは確かにそうですが......」
「それにお義姉ちゃん」
「はっはい!」
じっと二人の話を聞いていたリーザは急に話を振られ、戸惑いながらも返事をする。
「安全な場所で待っていて欲しいと思う気持ちもあるんだけど、お義姉ちゃんにも俺と一緒に戦場に来て欲しいんだ。もちろん旧ローゼ領に侵攻する大義名分も無いわけじゃない。でもそんな事は関係無く、ただお義姉ちゃんと一緒に居たいっていう俺のわがままなんだけどね」
「ええ! ええ! もちろんです! 例えついてくるなって言われてもお義姉ちゃんはレオンの側を離れませんからね!」
「ありがとうお義姉ちゃん。どうだろう、マルセル。親征に賛成してくれないかな?」
「ふう。わかりました。お二人がその気になられたのなら、もう何を言っても無駄でしょう。朝議の場では某にお任せください」
「ありがとうマルセル」
「マルセル、ありがとう存じます!」
「代わりという訳では無いのですが、近衛の数を可能な限り増やしますがよろしいでしょうか」
「それは構わないけど人数が集まるの? 身元調査もやるんでしょ?」
「幸い近衛府に転属希望を出す女性武官の数が予想を大きく超えております、平民出身のものは武科挙で好成績を挙げたものばかりで技量的には問題無く、身元調査が終わり次第編入を行います。また、信頼できる貴族の子弟であれば技量も将官教育も問題無く即戦力で編入可能ですから」
「衛門府や兵衛府も女性武官で占めるんでしょ?」
「娘を戦場に出したくないという貴族家は実はそれなりの数がおります。また、女性武官のみで編成されるのならば肩身の狭い思いをせずとも、国に奉仕できると考えている者らも多く、その者らを集めても最低限の数は揃えられるでしょう。賦役の負担を減らしましたが、信頼できる中小貴族の兵を臨時的に警備にあてるというのも手ではあります」
「近衛兵は何人ぐらいになるの?」
「千人程でしょうか」
「千もあれば一個大隊として戦術単位での運用も可能か」
「近衛府に配属される兵個人の技量は卓越していますが部隊として運用するには部隊指揮官が必要です。ブルメスター卿とビューロー卿には将官教育を速成ですが受けて頂きます」
「はっ」
「しかし、平民出身の私たちに部隊指揮が可能なのでしょうか......その、貴族の方々に指揮して頂いた方が」
「カウフマン卿から報告を受けています。お二人の技量は抜群であり、近衛府の副官として申し分なしと。自信をもって任に当たって頂きたいですな」
「ヘレーネとイングリットなら指揮官として十分やっていけますよ。それでマルセル、わたくしもその将官教育を受けたいのですが」
「俺も受けたい。兵法は学んだけど実際の部隊運用に関してはそれほど詳しくはないし」
「レオン様とリーザ様には執務や朝議、打ち合わせなどもありますので近衛の二人と同じとは参りませんがそれでもよろしければ」
「ありがとう存じますマルセル! よろしくお願いいたしますね」
「お義姉ちゃんは近衛大将だしね。俺も頑張って勉強しないと」
「ブルメスター卿とビューロー卿が講義を受けている間、レオン様とリーザ様の護衛をするものも選抜しておきます」
「よろしく頼むよ」
「御意、ではそろそろお暇いたします」
マルセルが退出すると、もう昼だった。
クララに促され食堂で昼食を終えるとすぐに執務が始まる。
ランベルトは執務室を使っていたが、レオンは談話室で執務を行っている。
警備の面から言えば東塔の三階に位置する執務室より二階にある談話室の方が脆弱である。
だが食堂や厨房、浴場などが置かれている二階の方が便利であるし、なにより広いのでレオンとリーザ二人の専属や、護衛などが同じ部屋で待機してもなお十分な空間を確保できるというのでレオンが好んで執務室として使っている。
丞相としての立場で決裁、対応可能な案件に関しては可能な限りマルセル自身で処理してるが、どうしても王や王族の許認可が必要な案件などもあり、今日も三省や六部の長官から報告、上奏を受けたり、決裁書に判をついたり、リーザと一緒に農学書や民政書などで勉強しつつ、合間を見てフリーデリーケのお菓子を堪能したりしていると夕食の時間になる。
◇
「レオン、はいあーんしてくださいませ」
「あーん」
「ふふふっ、レオンはお義姉ちゃんがあーんすれば人参もちゃんと食べられるのですね」
「お義姉ちゃんがあーんしてくれたものを食べないわけにはいかないからね」
「もう、レオンったら調子が良いんですから。はい、次はこちらですよ。はいあーん」
「あーん」
ランベルトが座っていた上座は空席のままで、いつもの席に着いた二人はいつものようにイチャつきながら食事をとる。
クララは「少し過剰ではないかしら」とは思いながらも、家族を亡くし、政務に忙殺されている現状、家族のふれあいと息抜きも必要と、とりあえずフリーデリーケと共に静観している。
食後はマルセルの計らいで可能な限り政務が無いように調整され、講義の時間は確保されているが、緊急の案件などで中断されることもあり、将官教育たる部隊運用や兵法学などの講義を行う場合はヘレーネとイングリットも一緒に講義を受ける為、講義の場所も談話室へと変更された。
◇
「レオン様、姫様、講義お疲れ様でした。ハーブティーとお菓子をお持ちしましたのでよろしければお召し上がりくださいませ」
「フリーデリーケ、いつもありがとう存じます」
「フリーデリーケの淹れるハーブティーとお菓子のおかげで一日の疲れが吹き飛ぶよ。ありがとうフリーデリーケ」
「わたくしにはこれくらいしかできませんから」
フリーデリーケはそう言葉を返すと、お菓子とハーブティーを並べる。
「ダンプフヌーデルとアプフェルティーです。小麦粉、バター、卵と砂糖を混ぜて団子状にして蒸し上げました。ダンプフヌーデルは甘いソースをかけるのが一般的ですが、就寝前ですので中にクリームを入れただけの簡単なものにしました。アプフェルティーも気持ちを落ち着ける効果がありますので、一緒にお召し上がりください」
「わあ! ダンプフヌーデルがしっとりふわふわですごく美味しいですよフリーデリーケ!」
「うん、これはいいね。アプフェルティーともよく合うよ。美味しいよフリーデリーケ」
「レオン様、姫様、ありがとう存じます」
◇
「じゃあお義姉ちゃん、そろそろ部屋に戻ろうか」
「そうですね、でも今日は先にレオンのお部屋に参りますよ」
「え、いいよ、俺がお義姉ちゃんを部屋までエスコートするよ」
「ふふふっ、レオン、今日はわたくしの言うとおりにしてくださいませ」
「わかったよお義姉ちゃん」
リーザはレオンの手を取ると、二階の談話室から五階のレオンの部屋へいつものようにずんずんと歩いていく。
「さぁレオン、お部屋に入りましょう」
「お義姉ちゃん、ここまでで良いよ」
「いいえ、今日はわたくしもレオンと一緒に寝るのですもの。一緒に入りますよ」
「えっ、ちょっとまってお義姉ちゃん」
「レオン、問答無用です。クララとフリーデリーケは寝室の前までで結構ですよ。姉弟だけで話をいたしますので」
「えっえっ」
ぐいぐいと寝台まで引っ張られてリーザに寝間着に着替えさせられるレオン。
「わたくしも着替えますからちょっと待っててくださいませ」
と言うとフリーデリーケがいつものように用意したであろう寝間着に着替えるために、背中の紐を一気に緩めると同時にがばっと脱ぎだすリーザ。
ちゃんと自身の寝間着までレオンの部屋に用意されているのは流石にフリーデリーケと言ったところか。
レオンは慌てて今まさに肌着を脱ごうとしているリーザから目を逸らしていると、着替え終わったリーザが寝台に入ってくる。
「さぁレオン、一緒に寝ますわよ。仲の良い姉弟は一緒に寝るのが当たり前なのですよ」
「ちょっとお義姉ちゃん」
有無も言わさず布団をどかしてレオンを横たわらせると、リーザもレオンの横に寝そべり布団をかけなおす。
もごもごと何かを言っているレオンを無視したまま、リーザはレオンの頭を自分の胸に抱きよせて髪を梳くように優しくなでる。
「ねぇレオン。お義父様が亡くなって頑張らなきゃという気持ちもわかります。お義姉ちゃんから見てもレオンはとても頑張っています。......でもね、レオンが自分の事を<俺>って言うようになってから、お義姉ちゃんはちょっと心配しているのですよ」
「......」
「お義父様が息を引き取った時、わたくしは悲しくて何もできませんでした。でもレオンはすぐにエグモントの自裁を止めようとしたり、国の為に色々な指示を出していましたよね」
「......うん」
「お義姉ちゃんはレオンの事をライフアイゼン王国の王としてとても立派だと思いますし、とても誇りに思います。でも、ちょっとだけ。ほんのちょっとだけでも、お義姉ちゃんの前だけでは自分を隠さないでくださいませ。悲しい事を悲しいと素直に口に出してくださいませ」
「......お義姉ちゃん......」
「お義父様が亡くなられてからずっと忙しかったのですし仕方がないとは思います。この国に住まう全ての人の為に悲しむ時すら惜しいと頑張っているのもわかっています。でも、今この時だけは、ほんとうの二人きりの時だけは、ほんとうのレオンをお義姉ちゃんに見せてください」
「お義姉ちゃん......泣いてるの?」
「ええ、レオン。とてもお優しくしてくれたお義父様が亡くなってしまってすごく悲しいのです。だからレオンもお義姉ちゃんと一緒に今泣いちゃいましょう」
「......お義姉ちゃんだって......いっぱい辛い事があったのに」
「そうですね......でも初めて会った時からずっと今まで、レオンはわたくしにとても優しくしてくれましたから。ですからお義姉ちゃんは辛くなかったんですよ」
リーザはレオンの頭をいつくしむように優しくなでる。
しばらくするとレオンがリーザの胸に顔を埋めたまま、ぎゅっと強くリーザに抱きついてくる。
「うっ......うっ......」
「レオン......一緒にいっぱい泣いたら、また明日から一緒にいっぱい頑張りましょう。そしてまた辛くなったらお義姉ちゃんと一緒に泣きましょう」
こくこくと頷くレオンの頭を抱えながら、優しくなで続ける。
四半刻ほど経っただろうか、嗚咽の止まったレオンが声を出す。
「......お義姉ちゃんありがとう」
「お義姉ちゃんは、今日、戦場でも一緒に居て欲しいとレオンが言ってくれてとても嬉しかったのですよ。だからレオン、こちらこそありがとう存じます」
「お義姉ちゃん、ずっと一緒に......」
「ええ、レオン。ずっと一緒ですよ。お義父様とも約束したではないですか」
「お義姉ちゃん、大好きだよ」
「わたくしもレオンの事大好きですよ。ふふふっ、レオンはとても素直になりましたね」
「ほんとうの二人きりの時だけ。お義姉ちゃんと二人きりの時だけは素直になると決めたんだよ俺は」
「まあ。俺は辞めないのですか?」
「お義姉ちゃんに少しでも格好良くて頼りになるところを見せたいからね」
「レオンはとても格好良くてとても頼りになりますよ。お義姉ちゃんのお墨付きなんですから」
「でも、戦争は怖いよ......。俺の号令一つで敵味方問わず何千と死んじゃうんだよ」
「そうですね......でもわたくしはシェレンブルクに残るつもりでしたから、覚悟だけはしていましたよ」
「人を殺す事を躊躇わなかったの?」
「シェレンブルクに住む人たちを護るためでしたら」
「そっか。お義姉ちゃんは強いね」
「でも、レオンもライフアイゼンに住む人たちを護るために戦うって決めたんですよね」
「そうだね、ずっとみんなで仲良く暮らせて行けるなら戦争なんてしたくはなかったけど......」
「そうですね、今はどの国も野心をむき出しにしていますね」
「だからこそ、犠牲を払ってでも、大陸を再統一しないといけないと思うんだ。帝国のやり方は間違ってるよ」
「過去には何度も継承問題で戦争が起きましたからね」
「うん。だからごめんお義姉ちゃん。ローゼ公国の再興はできない」
「わかってますよレオン。お父様も家臣が大領を持つべきではないと常日頃おっしゃっていましたから。わたくしもそのように思いますしね」
「ありがとうお義姉ちゃん」
「ふふふっ良いのですよレオン。ここ数日でずいぶん大人っぽくなってしまいましたわね」
「でも、お義姉ちゃんの寝間着をびしょびしょにしちゃったよ」
「朝には乾きますし、フリーデリーケにも内緒にしておきます。二人だけの秘密ですね」
「うん。お義姉ちゃん、今日はこのまま寝ても良い?」
「レオンは甘えん坊ですね。お義姉ちゃんは義弟の頼みは断れませんから」
「俺の頼みだから断らないの?」
「......そうですね、お義姉ちゃんもほんとうの二人きりの時だけは、ほんとうの気持ちを素直に出さないといけませんね。お義姉ちゃんはいつだってレオンとこうして眠りたいと思っていましたよ」
「そっか。嬉しいよお義姉ちゃん」
「わたくしもですよレオン」
レオンはさっきよりも早くなったリーザの鼓動を聞きながら、久々に穏やかな気持ちで眠るのだった。
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