k01-34 3人の秘密

 長閑な昼下がり。


 暖かな日差しを浴びて、他愛のない話をしながらアイネが淹れてくれたお茶を飲む。


 ここ数日、立て続けに会ってるからかアイネとの会話もだいぶ自然な感じになってきた。。


 お茶を飲み終わり、時計を確認すると既に15時過ぎ。



「それじゃあ、そろそろ失礼しようかな。また今度マスターが居る時に寄らせてもらうね。あ、これマスターに渡して貰える?」


 そう言って、カバンから梱包された小箱を取り出してアイネに渡す。


「あ、わざわざごめんね。ありがとう。マスターに渡しておくね」


 そう言って受け取るアイネ。


 そのやり取りを見ていたエーリエが突然大声をあげる。


「あーー!! それ、コティパの限定高級チョコレートやんか!? 何でさっきお茶の時に出さんかったん!?」


「え!? だってこれ、快気祝いだし」


「えぇー!!? そしたら、うち私食べれんやん!!」


 エーリエが烈火のごとく私に詰め寄る。


「1個だけ! 1個だけでええからちょーだい!」


「そんな訳にいかないでしょ!」


「いーやーだぁー! お願いだからぁ!」


 そう言って子供のように手をバタバタさせるエーリエ。


 まったくこの子は……


「分かった分かった。代わりに今度おごってあげるから。確か今月末まで売ってるだったはずだし、この週末一緒にお店行こ?」


「え!? ホンマ? やった! 行く行く。やっほぉ~!」


 エーリエが思いっきりジャンプし喜びを全身で表現する。


 それを見て笑うアイネ。



「じゃ、またね」


「あ! 演習エリアの入り口まで送るよ」


「ううん! 大丈夫。来た道戻るだけだから。ね?」


 そう言ってエーリエに目配せする。


「うん! 大丈夫や。目印辿って帰るだけやし」


 エーリエも笑顔で頷く。


「え、そう? ……それじゃあ悪いけどお願いしようかな。実はマスターが戻ってくる前にちょっと片づけておきたい事とかもあって……。もし途中で何かあったらすぐに引き返してきてね!」



「うん、ありがとう!」


「お邪魔しましたー! また遊びにくるね!」


 それぞれにお礼を言って部屋から出ようとしたとき、慌ててアイネが駆け寄ってくる。


「あ! 1つお願いがあるんだけど……ここの事は他の人には内緒にしておいて欲しいの! また他のファミリアに邪魔されたくないからってマスターが……お願い!」


 そう言ってアイネが手を合わせる。



「もちろん! 約束する!」


「うちも! うちらだけの秘密や!!」


 ドアの外まで出てきてくれたアイネに見送られ、ジン・ホームを後にした。



 ーーーーーーーーーー



 帰り道。


 ロープを頼りに黙々と茂みの中を進む。


 歩きながら、どうしても気になって後ろを歩くエーリエに声を掛ける。


「ねぇ、エーリエ。どう思う?」


「どうって? 何がや?」


「あのホームよ。色々と謎よね」



 色々と……


 あの立派な建物。


 一般人が到底手に出来ないようなお宝の数々。



「ん~~、せやなぁ。シェンナが言う博物館級のお宝やとかは正直胡散臭いと思うけど、あこまでの建物をこの短時間で、しかも誰にも見つからんと建てたってのは正直信じられんわ……」


 そう。それが1番引っかかる。


「どう考えても不可能だわ。それに……」



 しゃがんで足元にある鋲を覗き込む。


 エーリエも隣で同じくしゃがむ。


「この鋲にはめ込まれた魔鉱石。よく見ると周りに小さく文字が掘られてるのよね。見たこともない言語。

 そもそも、これって本当にただの魔鉱石なの? こんな無色透明な結晶体なんて見たことないけど……」



「……試しに1個持って帰ってみよか?」


 エーリエが悪い笑顔でこっちを見る。


「それはダメでしょ! アイネが帰れなくなっちゃうよ!」


「冗談やて!」


 そう言って笑いながら立ち上がると、小走りで私を抜き去る。


「またシェンナの悪い癖やで! 考えても答えの見つからんような事をどんだけ考えてもしゃーない! 今度あのマスターに会うた時に聞いてみーな。 とりあえず今は暗くなる前に戻るで!」


 確かにその通りだ……。

 一端考えるのは辞めて、元気に歩くエーリエの後を遅れないように付いていく。



 ーーーーーーーーーー



 初めての道というのは、行きと返りでかかった時間が全然違って感じるから不思議だ。


 あっという間に演習エリアの入り口まで戻ってきた。


 出入口の藪を念入りにカムフラージュし外からは分からないように隠す。



「ふぅ。もう16時過ぎやなぁ。うちはこのまま帰るけど、シェンナは?」


「私もそうしようかな。……そう言えばここ数日、マスター全然ホームに顔出さないね」


「……せやなぁ。調査の方でだいぶ忙しいみたいやけど」


「ちゃんと休めてればいいんだけどね……」



 そんな話をしながら夕方の学園内を歩き、各々の寮への分かれ道で、その日はエーリエと別れた。

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