k01-23 タイムトライアル2

 

 時刻は12:05


 私たち1班が演習場に入りおよそ1時間半が経過。


 途中小型のマモノに何度か遭遇したけれど難なく撃破。


 タイムロスは最小と見て間違い無さそうね。


 貴重なキノコの群生地を見つけられたのも運がよかった。


 アイテムボーナスによるリウォードタイムも期待できそうね。


 周囲をよく観察してくれてたエーリエに感謝しなきゃ。



「あったぞ! グリーンの37、目標のチェックポイントだ!」


 先頭を歩いていたカーティスが声を上げる。


 駆け寄ると、地面に打ち込まれた鋼鉄の杭のような機材から淡い緑色の光が放たれている。


 取り付けられた看板にある『37』の刻印が、37番チェックポイントの印だ。


「早速到達証明のシグナルを取得しよう」


 そう言うとトレアさんは端末を取り出し杭にかざす。


「シグナルの取得完了まで1分強かかる。各員周辺の警戒を!」


 トレアさんを中心にそれぞれ背を向け武器を構え全周警戒の陣形を取る。


 ……そのまま無言で待つ。

 緊張感が漂う……。


「……OK!シグナル取得完了。警戒解除」


 武器を下ろし警戒を解く。


 これで工程の半分が完了したわけか。


「想定の往復時間、3.5~4時間のところ現在片道で1時間半。

 道中アイテム採取と少し遠回りした事を考えればまずまずのペースじゃないですかね」


「まずまずどころか驚異的なペースだよ! 新記録も期待できるかもしれないね!」


 私に向かってトレアさんがにっこりと笑う。


「さて、帰りは最短ルートで戻るよ! もし見逃されているアイテムを発見した場合、採取に時間がかからない物に限り採取。

 ただし復路では他のパーティーと鉢合わせる可能性も高くなる。

 アイテムの横取りやマモノの横殴りにならないよう十分に気を付けて欲しい」


「了解!」


 声を揃えて答える。


「それじゃ、出発!」



 ーーーーーーーーーー


 チェックポイントを出発して15分程かしら。


 特に変わった事もなく、進行は順調。



 ーーところが

 その平穏は一瞬にして崩された。



 脇道の藪から突如飛び出しす人影!


 全員が反応し反射的に武器を構える。



 銃の照準越しに対象を確認すると……ファミリア同期の男子、“アザゼル"だった。


 確か先行してスタートした7班。



 ……さて、これはどういった状況かしら。

 物陰から突然飛び出してくるなんて。


 パーティー同士の戦闘が禁止されている以上奇襲の可能性は無い。


 逆に、私達が誤って発砲すればこちらの先制攻撃としてペナルティになる。


 ……まさかそれを狙った陽動!?



 警戒していたトレアさんも、戦闘の危機は無いと判断したのか片手を上げ攻撃姿勢解除の合図を出す。



 武器を降ろしながらアザゼルに話しかける。


「どうしたの? 急に飛び出してきて、危ないじゃーー」


「たっ、助けてくれ!!!」


 武器を下ろすなり、アザゼルは私の話を遮り猛烈な勢いで縋り付いてくる!

 その勢いに、思わず押し倒されそうになる!


「ちょ、危ないって! 落ち着いて」


「きみ、落ち着きたまえ」


 カーティスがしゃがみ込み、私の足元に縋る彼の肩に手を置いて話しかける。


 エーリエは突然の事に慌てて、辺りをキョロキョロ見渡す。


 トレアさんは……彼が出てきた藪に向けてライフルを構えている!


 ……そうか、まさかマモノの襲撃!?

 強力なマモノに追われている可能性!!


 私もトレアさんに倣い藪に向かってライフルを構え……ようとするけど、足元に縋りつくアゼルに引っ張られバランスを崩す。


「わわわ、ちょっと! 分かったから、何があったのよ! 他のメンバーは?」


 仕方がないので武器を下ろしてカーティスに並んでしゃがみ、彼の話を聞く。



「せ、せせせせ……せ」


「落ち着きたまえ。ゆっくり話すんだ」


 カーティスは肩に置いた手に力を籠め、真っすぐ目を見つめる。


 震える唇で、アザゼルがどうにか声を絞り出す。


「--先輩がやられた! 他の2人も危ない!!」


「ーー!! やられたとは!? 負傷の程度は!?」


 驚いて彼の肩を揺するカーティス。


「----あ、あ……!」


 首を横に振るだけで言葉が出ない。


 その様子から見て状況の深刻さが伺える。


 カーティスに変わって、茫然としてる彼の両頬にそっと手を当て目を覗き込み、静かに力強く問いかける。


「いい、落ち着いて状況を教えて。あなたや仲間を助けるためなの、お願い」


「あ、ああ……!」

 少し冷静さを取り戻したのか、震えながら話し出す。


「み、見たこともない……真っ黒な、四足歩行のマモノだ。

 奇襲されてパーティーの1人が大怪我を負った。

 それを見た先輩が……すぐに救助要請の警笛を吹く、吹いたんだけど、一瞬だけ音がしたらその時、黒い……黒い何かが物凄いスピードで伸びて、そし、そして先輩のううう、うで、腕ごと笛を吹き飛ばしたんだ!!」


「……! パーティーのもう1人は? 全部で4人でしょう!?」


「その場で腰を抜かしてへたり込んでたけど、今どうなってるかは分からない。ぼぼ、僕は助けを呼ぼうと何とかここまで這って逃げてきたけど……!」


「あかん! これはもう演習なんて言うてる場合ちゃうわ!」


 そこまで聞いて、エーリエが懐から警笛を取り出す。


「辞めろ!」

「辞めるんだ!」


 カーティスとトレアさんが同時に静止する。


「!! なんでや!?」


「彼が言っていただろ。笛を吹いた瞬間先輩が襲われたと。おそらく音に反応するマモノだ。今笛を吹いたら聞きつけて襲ってくる危険性がある」


 確かに、カーティスの言う通りだ。


 トレアさんが続ける。


「今回の演習、元々そんなに危険な事態は想定していない。

 せいぜい小型のマモノとの戦闘で、慌てた生徒が足を挫く態度の想定だときかされている。

 待機している教員の数もそこまで多くないから、到着には最低10分はかかるはずだ。

 教員が駆けつけるよりも先にそのモンスターがここを襲ってくる可能性が非常に高い」


「そ、そんならどうすれば!?」


「……まずはマモノの正体を確かめる。

 こういった事態にならないよう警笛の音は調整されているんだ。

 このエリアに生息する中位以上のマモノには聞き分けられないような音域の音を選定してある。

 それなのに、警笛反応して攻撃してきたとするなら、対象は本来この森に居るはずのないマモノという事になる。

 正体が分からなければ作戦も立てられないからね」


 トレアさんは話しながら藪の中を確認する。


 すくなくともすぐ側にマモノが居ない事を確認し、ライフルを下ろす。


 そして私達に向け問いかける。


「正確なリスクヘッジも出来ない以上、本来ならばメンバーの安全を第一とし、最寄りの教員に助けを求めるべきだが……」


 トレアさんの言いたい事は分かる。

 立場的に言いづらい彼の替わりに私が口に出す。


「その間に、7班の3人は確実に命を落とすことになりますね。

 それに後続のパーティーが襲われる可能性だってある」



「先輩……正しい事がいつも“最善”とは限りません」


 カーティスが武器を構える。


 エーリエと、私も何の迷いもなく頷く。


「『何が正しいかではなく、己の正義が何を求めるかで考えろ』か。

 英雄オリジン・ロウの言葉だね。

 僕もその話は好きでよく読んだよ」


 そう言ってトレアさんは順に私たちの事を見つめる。


 私たちも無言でその目を見つめ返す。


「分かった。とりあえずまずは偵察だけだ。姿勢は低く、藪に姿を隠すんだ。不用意に前に出ないように。僕が先頭を行く」


 そう言うとトレアさんは地面にへたり込んでいるアザゼルに手を差し伸べる。


「方角はこっちへ真っ直ぐで良いかな」


「は……はい!」


「分かった。君は付近の教員を探して事態を伝えてくれ。マモノが何処にいるか分からない。慌てずに、くれぐれも目立たないように行くんだ」


 そう言ってアザゼルを送り出す。



「では、僕たちも行くぞ」


 トレアさんを先頭に、アザゼルが通ってきた藪の中へと入っていく。

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