第5話 ギルド

 ギルドと言うのは攻略者が増えた事によって作られた、仕事を斡旋する様なところだ。


 魔石は武器を作ったり色々な用途で使えるため、求めている人は多い。その間に入るのがギルドと言う事だ。ギルドを仲介せずに専属で契約するのもあるらしいが、ほとんどの人がギルドを利用している。


「これだけの魔石を買い取って欲しいのだが」


 ギルドに着いてすぐ、受付に魔石を持っていった。


「はい。魔石の買い取りですね」


 受付嬢は誰に対しても変わらず対応してくれる。受付嬢は魔石を受け取るとギルドの裏へと入っていった。魔石を鑑定してどれくらいで買い取るかを定めるためだ。


 今日持ってきた魔石の数は多かったので、時間がかかるだろうと思い、ギルドの中をフラフラとして時間を潰す。


(なんかいい仕事でもあるかも)


 そう思って仕事内容の紙が貼ってある、掲示板へと向かった。


 "『獄炎のダンジョン』一緒に50階層目指しませんか!"


 みたいなメンバー募集の様なものから


 "武器を作るため、レッドウルフの魔石を募集中"


 の様な、素材集めまで沢山の仕事が貼ってあった。

 金を稼ぐためには受けるのもアリかなと一つ一つに目を通していく。


「あうっ!」

「おっと」


 見ている途中誰かにぶつかってしまった。見るのに集中し過ぎていたみたいだ。


「すまない。大丈夫か?」


 急いで尻餅をついていた女の子に手を差し伸べる。


「は、はい。大丈夫です……」


 俯きながらも、俺の手を受け取って立ち上がる女の子。

  立ち上がると小柄な体型で背丈が俺の胸あたりだった。その上、弱々しく返事をした事もあって、小動物のようなそんな女の子だった。


(こんな子が何でギルドに?)


「本当にごめんな? 集中し過ぎてたみたいだ」

「いえ……本当に大丈夫です……」


 女の子はなかなか顔を上げてくれない。人見知りしているのだろうか。


「俺の名前はアランって言うんだ。君は?」

「えっ……⁉︎」


 俺の名前を聞くと驚いた様に顔をあげた。

 予想通りの幼い顔立ちだった。青空の様な色の髪は短くウェーブがかかっておりとても似合っていた。


「あ、ああ……。わ、私はシェラ・グローネスって言います……」


 俺が名前を言うと、より一層オドオドした様子で自己紹介してくれた。

 その後シェラはなんだかもどかしそうにしていたが、「よし」と心を決めてこちらを見つめてくると


「私! 勇者パーティの大ファンなんです!」


 と、大声で言ってくる。周りにいた人も気になってこちらを見てくる。


『ねえねえあれって』

『勇者パーティのアランじゃね?』


 シェラの発言により、予期せず目立ってしまった。

 しかしこの発言で、何でこんな小さい子がギルドにいるかがわかった。勇者パーティに会いにきたのだろう。

 それならちゃんと言っておかないといけない。


「俺、勇者パーティから追放されたから、勇者パーティじゃないぞ」

「えっ……?」


 シェラは予想もしてなかったであろう返事だったのだろう。目を丸くしてキョトンと驚いている。


『追放だと!』

『そんな事があり得るのかよ?』

『分からねえ』

 それと同時に周りもザワザワと騒がしくなる。


「ど、どうして……でしょうか?」

「俺の力不足だよ。俺の枠には剣聖と呼ばれる奴が入るらしいぞ」

「そんな……アラン様でも強いじゃないですか……」

「これからは100階層に向けてだからな。今のうちに邪魔者は排除しておきたいんだろ」


 別に隠す事でもないので、追放された理由を話す。

 ん? それより変な言葉が聞こえたんだが……。


「アラン"様"ってのは?」

「あ……! ごめんなさい。つい、いつもの癖で」


 ぺこぺこと頭を下げてくる。

 いつもアラン様と呼んでいるのか。俺はシェラを初めて見たし今日初めて喋ったはずなんだが。


「そ、それよりアラン様」


 俺への敬称は変える事なくシェラは話し始める。言っても無駄なのだろう。仕方ないので無視して話を聞く。


「ほ、本当に……追放されたんですか?」

「ああ。それは本当だよ」


 まぁ、疑う気持ちはわかる。俺も逆の立場だったら絶対に何回も訊いてるし。


「そ、それなら」


 なんだろう。やっぱり勇者パーティの一員だと思って話したのに、そうじゃなかったから最悪みたいなことを言ってくるんだろうか。

 そんなことを言ってくる様な子じゃ無さそうだけど。

 黙って聞いているとスゥーと息を大きく吸って


「わ、私の専属で素材集めをしてもらえませんか⁉︎」


 頭を下げて大きな声でそう言ってきた。


「そ、素材集め?」


 全く予想してなかった言葉にに思わず、首を傾げる。


「そう、です。私、錬金術師として働いているんですが、なかなか結果が出てないんです」


 そう言ってギルドと連携している証のカードを見せてくる。確かに錬金術師として登録されているみたいだ。

 ……え? 


「シェラって18歳なのか?」

「はい。そうです。アラン様と同じ歳なので余計にアラン様に惹かれてたんです」


 なんというか……。全くそうは見えないな。俺よりかは絶対に年下と思っていたから。

 しかも俺に惹かれてただと? 勇者パーティならアイギスがいるはずなのに。


「好きなのは勇者パーティじゃないのか?」

「勇者パーティはもちろん好きです。でもその中で一番好きなのが、アラン様なんです」


 俺の疑問にそうきっぱりと答えた。さっきまでオドオドと話していた女の子とは別人の様だ。



「アランさーん。魔石の鑑定が終わりました」


 シェラとの会話中、受付嬢に呼ばれた。


「ちょっと受け取ってくるから違うところで話をしないか?」

「は、はい! わかりました」


 俺も専属の売り手が出来るとお金には困らなくなるだろうし、話を詳しく聞きたい。


 その前に今日の報酬を受け取りに受付に向かった。


「これが今回の値段です」


 そう言って数字が書かれた紙を見る。とても多い様に見える。


「こんなに貰って良いのか?」

「えっ? これが適正価格ですが……」


 びっくりしたように受付嬢は答える。嘘をついている様子もなかった。


 流石に勇者パーティにいた時よりかは少なかったが、あんな上層ですらここまで貰えるのが驚きだった。


 なら下層に潜っていた時ならこれよりも、はるかに多く貰っていてもおかしくはない。


 お金の管理だけはアイギスがやっていた。もしかするとアイギスが抜き取っていたのかもしれない。


「ありがとう」

「またの提供をお待ちしております」


 綺麗に頭を下げて、高めのトーンの声でそう挨拶してくる。


「お待たせ。じゃあ行こうか」

「は、はい!」


 シェラはガチガチに固まっていたが、すぐに直るだろうと、気にせずどこか話せる場所へと足を運んだ。

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